うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

楠(くす)の実が熟すまで

2013年10月16日 | 諸田玲子
 2009年7月発行

 禁裏・公家の不正の証しを掴もうとする幕府側が、最後の切り札として送り込んだ隠密・利津が、真実を探り当てるまでに女心を絡めたミステリーが展開する長編。

楠(くす)の実が熟すまで 長編

 安永年間、禁裏での出費増大に頭を悩ませた幕府は、公家の不正探索を図るも、密偵たちが次々と何者かにより殺害されてしまう。
 最後の切り札として目を付けたのは、幕府探索方の御徒目付・中井清太夫の姪・利津であった。無事、役目を果たさなければ清太夫は切腹。かつ上意であれば利津に選択の余地はない。
 利津の任務は、禁裏口向役人・高屋遠江守康昆の継妻として、同家に入り込み、不正の証しを捜す事だった。その期限は、楠の実が熟すまで。
 その輿入れの日に、康昆のひと粒種である千代丸が病いでもがき苦しんでいた。それを救った利津。
 それからは、千代丸の愛らしさ、そして何より康昆に惹かれていくのだが、夫の弟である右近が幽閉されている事を知り、高屋家に対する疑惑も抱き始める。
 そして蔵の中から、証しを見付け出すや、老僕の忠助、下女のなかが何者かに殺害され、時を同じくし、利津は、父の危篤の文を受け取るのだった。
 もはや夫への疑惑は覆せず、だが夫への思慕も覆せない。そんな利津が選んだのは、康昆の妻として千代丸の継母として生きる道だったが、夫が選んだのは、利津の命だった。

 元値の安い御戸帳を高値で買ったことにして、寺社へ寄贈し、差額を騙し取るというのが、不正の手法であり、私腹を肥やす公家たちと幕府役人との葛藤であり、高屋家は首謀ではいのだが、弟・右近幽閉の謎や、清太夫の小者・留吉の存在を表に出し、終盤まで謎解きが解らないといった深いミステリー仕立てになっている。
 また、密偵として割り切ったにも関わらず、康昆へ惹かれていく利津の女心に加え、千代丸といった幼児を登場させた事により、母性愛までをも組み入れた感動巨編と言える。
 全ての黒幕が、何であの人? といった不振はあるのだが、最後まで引っ張る力量と同時進行する恋。やはり諸田氏は凄い。
 序盤の小見出し3作目とは打って変わった本編。そしてその本編が序盤へと繋がる辺りの巧さ。唸らずにはいられない計算され尽くした力作である。
 主役は飽くまでも利津なのだが、康昆の人柄に深く感化されてしまった。
 ラストも悲壮感がないのが良い。やはり売れている作家さんって、こうなんだなと思わせる作品である。

主要登場人物
 中井利津...清太夫の姪、河内国楠葉村・郷士の娘
 高屋遠江守康昆...禁裏口向役人・御取次衆
 中井清太夫...幕府・御徒目付
 高屋千代丸...康昆の嫡男
 高屋右近...康昆の弟
 忠助...高屋家老僕
 なか...高屋家下女
 石上伝兵衛...立花町万屋の主、広橋家未勤家臣、康昆の母方の叔父
 山村信濃守良旺...京都西町奉行
 中井万太郎...河内国楠葉村・郷士、利津の父親
 留吉...清太夫の小者





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