うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

たぶんねこ

2013年07月23日 | 畠中恵
 2013年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第12弾。


跡取り三人
こいさがし
くたびれ砂糖
みどりのたま
たぶんねこ
終 計5編の短編連作

跡取り三人
 長崎屋の主・藤兵衛に連れら、大商人たちの集まりに顔を出した一太郎。そこには同じように大店の跡取りである幸七と小一郎も同席していた。
 すると、任侠の大親分である大貞が、誰が一番、金子を稼ぐことができるのか、勝負をしようと持ち掛け、一太郎たちは、大貞の家に住み込んで仕事探しに精を出すのだが、兄探しを武家の娘に頼まれた小一郎が、剣呑な目に合わされたのきっかけに、一太郎たちの仕事は、思わぬ方に転がり出すのだった。
 「まんまこと」シリーズでお馴染みの、両国の貞こと両国の顔役・貞吉の父親・大貞が登場。という事は、「まんまこと」の麻之助、清十郎、吉五郎らと若旦那は、同時代のほぼ同世代。どちらかの物語中、是非ともジョイントして欲しい。

こいさがし
 一太郎の母・おたえは、行儀作法を仕込むべく、於こんという娘を預かった。於こんの目的は玉の輿ににあるのだが、家事は元より裁縫も何もかも不慣れな於こんは、おてつにみっちりと鍛えられている。
 そこに、先達ての大貞が、仲人をして仲介料を儲けると意気込んでいると、困り果てた富松がやって来た。時をおかずに、今度は河童の大親分・禰々子が、娘ひとりに相手2人の見合いを仕切って欲しいと持ち込んで…。
 富松の仕切る見合いには、情婦(いろ)が乗り込み、禰々子の方は、ひとり目の相手と手に手を取り合って消えていく…。

くたびれ砂糖
 安野屋で修行中の栄吉が、砂糖を買い求めに長崎屋を訪れた。伴っていた小僧・平太の態度の腹を立てた妖たちが、栄吉の行李に潜り込み、安野屋へ行ってしまったから大変。事が起こる前に妖たちを連れ戻さなければと、一太郎も安野屋へと向かった。
 件の安野屋では、主夫妻に番頭の3人が病いで倒れ、その病状が次第に進むといった問題を抱えていた。医者の処方した薬を手に、仁吉は、何かほかの物が混入していると見抜く。しかしてその犯人とは…。

みどりのたま
 頭を打ち川に落ちて記憶を失った仁吉。いつの間にか医者に間違われ、病いの老人・古松を診るはめに。だがその老人は、なぜか仁吉を白沢と呼び、旧知の仲らしい。実は古松は、荼枳尼天の庭に住まう妖狐であったが、江戸の出て来たまま戻る術を失ったのだと言う。
 古松を荼枳尼天の庭まで通じる道へと戻す為に仁吉は、記憶が戻らないまま奮闘するも、掏摸や仁吉を敵対視する妖狐の仲間に付け狙われる。 

たぶんねこ
 天界で荼枳尼天の庭にいた、幽霊の月丸が、どうしても江戸に帰りたがっていると、見越の入道が長崎屋に現れた。件の月丸は、見越の入道の巾着に中に封じ込められていたのだが、ふとした弾みで一太郎もその中に。
 夜半の江戸を彷徨いながら、月丸の江戸での望みを叶えようと、一太郎は手助けを買って出るも、巷を賑わす盗賊の刃傷沙汰を目撃したことから、追われる羽目になる。
 
 ど素人がプロの作家さんに対して甚だ生意気ではあるが、畠中恵氏は、この2~3年、見違えるくらいに腕を上げた。デビューから作風は面白く、そして楽しめているが、近年は洗練されかつさらに読み易く感じる。
 本作品は、仁吉、佐助といった準主役の出番が少なく、一太郎と新たな登場人物のかけあいが多く、ある意味で、シリーズの脱却…いや違う、シリーズの方向転換か…。マンネリを防ぎ(これまでもマンネリ感はないが)、新たなステージに入ったのではないだろうか。
 とにかく畠中氏の作品は読み易いのが特徴的であり、かつ飽きもこず、読み人を選ばないのだ。
 人気の同シリーズも既に12冊目となるが、一太郎の魅力には増々磨きがかかったようである。
 惜しむらくは、連作当初からの妖たちの出番がめっきり減ったことと、「ころころり」のようなほろ苦いストーリがみられないことである。

主要登場人物
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 皮衣(ぎん)...一太郎の祖母、妖
 おてつ...長崎屋の下女
 久郎兵衛...長崎屋の番頭
 屏風のぞき...付喪神
 鳴家(小鬼)...妖
 鈴彦姫...付喪神
 金次...貧乏神
 おしろ...猫又
 お獅子...付喪神
 見越の入道...大妖
 野寺坊...獺の妖
 禰々子...関東河童の大親分
 美春屋栄吉 日本橋菓子屋の嫡男(安野屋で修行中)、一太郎の幼馴染み
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 秋英...上野広徳寺の僧侶、寛朝の弟子
 本島亭場久...貘の妖、噺家
 武蔵屋幸七...日本橋塗物問屋の嫡男
 松田屋小一郎...江戸橋煙管問屋の嫡男
 大貞....両国の顔役(「まんまこと」シリーズから)
 富松...大貞の子分(「まんまこと」シリーズから)
 於こん...金狐
 平太...団子屋の息子、安野屋の丁稚  
 梅五郎...箱屋橋田屋の三男、安野屋の丁稚
 文助...表具師の息子、安野屋の丁稚
 月丸...幽霊




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