うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

竈河岸(へっついかし)~髪結い伊三次捕物余話~

2015年11月11日 | 宇江佐真理
 2015年10月発行

 髪結いと同心の小者の、二足の草鞋を履く伊三次の人情捕物劇と、その家族との繋がりを描いたシリーズ第14弾。

空似
流れる雲の影
竈河岸(へっついかし)
車軸の雨
暇乞い
ほろ苦く、ほの甘く 計6編の短編連作

空似
 龍之進の妻・きいは、ある日伊三次にそっくりな男に出会った。その男・伊三郎は、名も姿形も見れば見る程伊三次と他人とは思えない。
 そんな出会いを忘れていた頃、伊三郎に殺人の容疑が掛る。それは昔、伊三次に掛った容疑とこれまた酷似していた。
 伊三郎の無実を訴えるきいにほだされ、龍之進は真実を突き止めようと動き出すが、そこには奉行所の薄汚い体質の壁があった。

流れる雲の影
 不破友之進の妹・よし乃の催す与力の妻たちの茶会の手伝いに駆り出されたきい。そこの顔を出す戸田うめは要注意人物であると聞かされていたが、案の定、無礼な物言いをされ、思わず反撃をしてしまった。
 そんな頃、きいと小平太を育ててくれた、伯父夫婦の住まう大伝馬町の善右衛門店では、家族に見捨てられた寄せ場帰りの男と、孫娘の心温まる交流が始まっていたのだが…。
 きいはその男に、自分を捨てた母親がの面影をを重ね合わせるだった。

竈河岸(へっついかし)
 不破友之進の小者・増蔵が寄る年波に勝てず十手を返上したいと申し出た。空いた穴を埋めるべく小者に、龍之進は心当たりがあったが、その者を採用する事は、同輩たちの反感が否めないだろうと考え、皆の意見を聞き、全員の賛同が得られたならばといった条件付きで採用しようと心を決める。

車軸の雨
 いよいよ次郎衛が竈河岸の十手を預かり、政吉の元へ修行に通い出した。次郎衛はやる気満々で、正吉も引き受け、事は順調に進むかと思われたが、そんな矢先、次郎衛の叔父が意味深によいこ屋を訪れた。
 翌日、実家へと戻った次郎衛は、そのままよいこ屋へとは戻らず、おのぶは不安な日々を過ごす。

暇乞い
 蝦夷松前藩家老の蠣崎昌年が参勤で出府したが、養生の為下屋敷に留まっていた。天皇の上覧を得た程の絵師でもある昌年に、茜は伊与太の話をすると、昌年は是非会ってみたいと言う。困惑しながらも松前藩下屋敷を訪った伊与太に、昌年は本画の才能があると言う。
 そして昌年から頂戴した高価な絵の具を芳太郎に勝手に使われた伊与太は、ついに堪忍袋の尾が切れ、歌川国直の元を飛び出すのだった。

ほろ苦く、ほの甘く
 お文は、伊与太からの文で、葛飾北斎の肝煎りで、信州小布施に出向いたことを知り驚く。そして茜にそのことを知らせる前に、茜には伊与太から絵が届いた。そこには結髪亭北与と雅号が記されている。歌川国直に師事している筈の伊与太がなぜ、葛飾北斎一門の雅号を名乗るのか。伊与太から送られた絵に秘められた意味とは。
 伊与太不在の江戸で、伊三次一家、師匠の歌川国直、そして茜の中で、それぞれが伊与太の存在感を噛み締めるのだった。

主要登場人物
 伊三次...廻り髪結い、不破友之進の小者
 お文(文吉)...伊三次の妻、日本橋前田の芸妓
 伊与太(結髪亭北与)...伊三次の息子、芝愛宕下の歌川豊光の門人
 お吉...伊三次の娘
 九兵衛...伊三次の弟子、九兵衛店の岩次の息子
 岩次...新場魚問屋魚佐の奉公人
 不破友之進...北町奉行所臨時廻り同心
 不破いなみ...友之進の妻
 不破龍之進...友之進の嫡男、北町奉行所定廻り同心
 不破茜(刑部)...友之進の長女、本所緑町・蝦夷松前藩江戸下屋敷の奥女中(別式女)
 不破きい...龍之進の妻
 不破栄一郎...龍之進の嫡男
 笹岡小平太...北町奉行所同心、元北町奉行所物書同心清十郎の養子、きいの実弟
 おふさ...伊三次家の女中、松助の妻
 歌川国直...日本橋田所町の絵師、伊与太の師匠
 芳太郎(歌川国華)...国直の弟子
 片岡監物...北町奉行所吟味方与力
 緑川平八郎...北町奉行所臨時廻り同心
 緑川鉈五郎...平八郎の嫡男、北町奉行所隠密廻り同心
 橋口譲之進...北町奉行所年番方同心
 春日多聞...北町奉行所年番方同心
 西尾左内...北北町奉行所例繰方同心
 古川喜六...北北町奉行所吟味方同心
 三保蔵...不破家の下男
 おたつ...不破家の女中
 増蔵...門前仲町の岡っ引き
 さの路...松前藩江戸上屋敷の御半下女中 
 薬師寺次郎衛...松島町・駄菓子屋よいこやの主、元小十人格(旗本格)薬師寺図書次男、本所無頼派

 伊三郎...松島町・小料理屋あけびの主
 葛飾北斎...浮世絵師
 山中寛左...内与力
 正吉...増蔵の手下
 おこの 正吉の女房
 おのぶ(小勘)...次郎衛の女房、浜町河岸・梅木の芸妓
 庵原よし乃...北町奉行所吟味方与力の妻、不破友之進の妹
 庵原さよ...庵原家の嫁
 兼吉...大伝馬町の善右衛門店の鳶職、きいの伯父
 おさん...兼吉の女房、きいの伯母

 宇江佐先生、素敵な江戸を描いてくださってありがとうございました。私が時代小説に引き込まれていったのは、宇江佐先生の情景描写力や、知らなかった素敵な日本語に魅せられたからです。
 伊三次シリーズも、新たなステージへと移行し。先生の中にはプランもあられたことでしょう。伊与太と茜の恋の行方も永遠に分からなくなってしまいました。
 また、日々成長する栄一郎。小平太。九兵衛…まだまだ将来の楽しみな登場人物も永遠に年を取らなくなってしまいました。
 いつかこんな日は誰しも必ず訪れるものですが、宇江佐先生、早過ぎます。御無念のほどお察し申し上げます。
 そして御冥福を心よりお祈り申し上げます。       合掌



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