汗びっしょりのハイキングの後、Aが『やられた、ヤラレタ、痒い痒い』と騒いでいました。
帽子を被っていたのに頭の中迄食われてしまった、というのです。トレールの入り口で蚊除けのスプレーを使ったのは私達二人だけ、他の皆さんはまるで何事も無いように平気な顔で歩き始めていました。私達二人は朝食前に刺された場合の被害を最低限に抑えるため抗生物質の錠剤も飲んでいたのです。
『じゃー』とHが言いました。
『ノー・シー・エムにやられたのよ』
ノー・シー・エムというのは眼に見えないほどの小さな虫で、だから、蚊帳ジャケットの中にさえ入り込むことが出来るのです。
ノー・シー・エム、つまり「No see ‘em (No see them)」です。
数年前アルゴンキン公園で案内についてくれた公園のナチュラリスト、ローリーがそのことを言っていましたが、私はまだ被害を受けたことがありませんでした。
『ノー・シー・エムの話をするとみんな笑うけど、でも居るのよ。』
Hはこのツアーの提案者でもあり、私達の雇い主でも有り、種々の野外ツアーを企画したり案内したりしているわけですが、個人的な経験も豊かですから彼女の言うことは信じられる話なのです。
帰宅後、ちょっと検索を、とインターネットを当たってみましたが、この虫の正体を調べることは出来ませんでした。出てくるサイトのほとんどが、正体を見たいという私と同じ希望なのです。飛んでくるのですから羽根が有ることは確かですけれど、それ以上のことは判りません。
帰宅の翌日になって、私も痒みを感じ始めました。抗生物質の効果が有って直ぐには痒みを感じなかったもののようですが、調べると、ありました。左腕に二箇所、首に一箇所、右腕に二箇所そして右肩にも。
蚊ならプーンと飛んで来る音が聞こえるのですが、ノー・シー・エムは音も立てずにやって来ます。実に厄介な虫です。
見えもせず聞こえもしない虫ですから、話を聞いただけでは笑ってしまうのも無理はありません。刺されて始めて存在を実感するわけです。
これから暫らくは蚊の季節。いつの間にか食われていたという時は大方このノー・シー・エムの仕業だと納得してください。そして姿を見た場合はどんな虫だったのかお知らせ下さい。
普通の虫眼鏡ではきっと見えないでしょうけど。
今日は久しぶりに涼しい日。先週続いていた30℃がウソのような12℃で、ジャケットが必要でした。雨が降っています。
今日の写真はダッファリン島で雨にぬれていたPurpleflowered Raspberryの花。その実は毒です。