涼しい風の通り抜ける木立の影に佇むと何処からとも無く甘い香りが風に乗ってきました。
「何の香り?」と言う私の問いにジェーンが無言で天を指差しました。私の背後に立っていたのは大きなリンデンの木。その花の香りには何ともいえない優しさがありました。
ブダペシュト・エスペラント世界大会の後ヨーロッパを流離っていた頃の記憶です。
カナダへ来てから、リンデンは街路樹としても沢山あるのに何故かこの香りの花には出会えず、ジェーンが種を送ってくれたこともありますが、不成功でした。
その後何本かの香りの良いリンデンの花に巡り会ったのですが、あそこにポツリ、ここにポツリと言う具合です。
今日もそのポツリの一本に巡り会いました。
フランスで始めてこの花を知った時はもう八月も末頃だったと思うのですが、今日樹の勉強に出掛けた墓地のリンデンは真っ盛りです。この時期的なずれは土地の違いによるものなのか、45年の歳月とともに気候に変化が起きたためなのか。
懐かしい香りに若き日が蘇ります。もう一度あのような旅をしたい、と言う思いと、もう出来ないという思いが重なり合って複雑な心境です。
英語名:European linden
学名:Tilia cordata
和名:西洋シナノキ
エスペラント名:Eŭropa tilio