さて、これまた毛色の違う作品ねの第795回は、
タイトル:変奏曲
著者:姫野カオルコ
出版社:角川文庫 角川書店(初版:H7)
であります。
新しいひとに手を出してバカを見るよりやっぱ安心して読めるひとを……と思っていたらすでにこれが6冊目……。
一昨日も宇佐美游は4冊目かぁ、と思っていたが、こっちが一歩リードかな。
さて、本書は短編連作の形を取る4作の短編が収録されたもので、登場人物は時代は変わっているものの、すべて同一人物となっている。
華族の家柄である郷戸家、そこに生まれた男女の双子で姉の洋子、弟の高志。
姉の洋子は、幼いころ、伯母の家に預けられ、長い間、ふたりは離ればなれに育ってきた、と言う設定もすべて一緒。
各話は次のとおり。
「桜の章」
時代は現代。
婚約者の勝彦と仲人の家を訪れた帰り、洋子はふと立ち止まってしまう公園や街並みに既視感を感じ、克彦を連れて近くを散策していく。
目にした洋館、そこの離れにあるはずの八角形の建物……知らないはずのそれら。
結婚を取引だと考えていた洋子は、あるレストランで友人の潤子、そして知らない男の姿に帰り際、勝彦にある重大な決断を告げる。
「ライラックの章」
時代は大正。
洋子は、勝彦との婚約をすませ、あとは嫁ぐだけとなった残りの時間を、勝手気儘に過ごしていた。
先生について絵を描いたり、誘われて行った旅行先で高志、その友人の佐々木や、そこで知り合った女性たちとの楽しい語らいや遊び……。
結婚し、離れていってしまう姉に高志は秘かに思いを寄せていた。
それを知っているかのように戯れる姉、絵の先生である池田との嬌態をアトリエにしている八角形の建物で高志に見せつける姉。
あるとき、積み重なった欲望を姉の持ち物で慰めていた高志を姉は見つける……。
「柘榴の章」
時代は戦後。
借金を残して蒸発してしまった父。住み慣れた家を追われ、ヴァイオリンだけでは借金を返すことすら難しい中、元華族のみを扱う娼館で働くことにした洋子。
客を取り、身体を売る商売の最中、召集され、戦地で没した双子の弟、高志のことを思い出す。
勝彦との婚約、破談、絵の教師である池田との不倫……しかし、どの誰よりも洋子は高志の「帰ってくる」、その言葉だけを信じていた。
「羊歯の章」
時代は近未来。
不眠症の高志は、友人の佐々木からもらった睡眠薬を酒で飲み下し、朦朧とした意識の中、過去を思い起こす。
稚いころ、それが禁忌であることを知りながら、経血を陰部から吸い出すような関係を持っていた高志と洋子。
結婚し、家を出た洋子につけられた掌の傷。誰が好きなのか、そんな問いに姉以外の女性の名を続ける高志の掌に洋子がブローチの針でつけたものだった。
狂おしいまでに洋子を求める高志。……だが、一昨年、洋子は勝彦の上司である池田との不倫に逆上した勝彦に殺されていた。
なんつーか、もう、かなり淫靡なお話ね。
まぁ、離れて育った姉弟(兄妹でも可)が恋に落ちる、な~んて話はこの手の設定ではありがち。
けど、キャラは一緒だが、時代を変え、シチュエーションとかを変えた、淫靡な姉弟愛のお話は珍しいのかも。
探せば転がってるかもしれないけど。
構成は、「桜の章」から洋子の視点の話と、高志の視点の話が交互に語られ、「桜の章」は高志が出ず、「羊歯の章」は洋子が出ない、と言う形で対比を成している。
時代も最初と最後が現代以降、中のふたつが過去、と言ったふうに作られている。
キャラも「ライラックの章」「柘榴の章」はほぼ似たイメージだが、「桜の章」「羊歯の章」は微妙に主人公の双子が違うイメージがある。
こうしたところは、おなじキャラではあるものの、違った時代ということもあって、関連性が見えながらも違う話としてきちんと読める要素のひとつであろう。
また、「桜の章」と「羊歯の章」の視点が違うことと、その視点から見える物語の流れと結末によって、「桜の章」から見た場合と、「羊歯の章」から見た場合とで、作品全体の見え方が違ってくる、と言うのもおもしろい。
最初は「羊歯の章」のラストを読んだとき、「それが全部のオチかい」と思ったが、いろいろと考えてみると、そうしたいろんな見方が出来る、と言うのも本書の魅力のひとつであろうか。
しかし、あとがきで「男のひとが読んでもちっともおもしろくないやつを一度、やってみたかった」ってあーた……。
ここにふつうに、それなりにおもしろく読んだ野郎がいるんですが……(笑)
とは言え、これは確かに男性にはきついだろうなぁ。
おきれいな姉弟の禁断の恋愛を描いたものではなく、情念に満ちてどろどろしているし、読むひとによっては淫靡、と言うよりも淫猥で下品な物語に見えてしまうだろう。
個人的にはこういうのは嫌いではないのだが、やはり誰にでもオススメ、ってところがないと良品とは言い難いやね。
と言うわけで、及第がやっぱ妥当かね。
タイトル:変奏曲
著者:姫野カオルコ
出版社:角川文庫 角川書店(初版:H7)
であります。
新しいひとに手を出してバカを見るよりやっぱ安心して読めるひとを……と思っていたらすでにこれが6冊目……。
一昨日も宇佐美游は4冊目かぁ、と思っていたが、こっちが一歩リードかな。
さて、本書は短編連作の形を取る4作の短編が収録されたもので、登場人物は時代は変わっているものの、すべて同一人物となっている。
華族の家柄である郷戸家、そこに生まれた男女の双子で姉の洋子、弟の高志。
姉の洋子は、幼いころ、伯母の家に預けられ、長い間、ふたりは離ればなれに育ってきた、と言う設定もすべて一緒。
各話は次のとおり。
「桜の章」
時代は現代。
婚約者の勝彦と仲人の家を訪れた帰り、洋子はふと立ち止まってしまう公園や街並みに既視感を感じ、克彦を連れて近くを散策していく。
目にした洋館、そこの離れにあるはずの八角形の建物……知らないはずのそれら。
結婚を取引だと考えていた洋子は、あるレストランで友人の潤子、そして知らない男の姿に帰り際、勝彦にある重大な決断を告げる。
「ライラックの章」
時代は大正。
洋子は、勝彦との婚約をすませ、あとは嫁ぐだけとなった残りの時間を、勝手気儘に過ごしていた。
先生について絵を描いたり、誘われて行った旅行先で高志、その友人の佐々木や、そこで知り合った女性たちとの楽しい語らいや遊び……。
結婚し、離れていってしまう姉に高志は秘かに思いを寄せていた。
それを知っているかのように戯れる姉、絵の先生である池田との嬌態をアトリエにしている八角形の建物で高志に見せつける姉。
あるとき、積み重なった欲望を姉の持ち物で慰めていた高志を姉は見つける……。
「柘榴の章」
時代は戦後。
借金を残して蒸発してしまった父。住み慣れた家を追われ、ヴァイオリンだけでは借金を返すことすら難しい中、元華族のみを扱う娼館で働くことにした洋子。
客を取り、身体を売る商売の最中、召集され、戦地で没した双子の弟、高志のことを思い出す。
勝彦との婚約、破談、絵の教師である池田との不倫……しかし、どの誰よりも洋子は高志の「帰ってくる」、その言葉だけを信じていた。
「羊歯の章」
時代は近未来。
不眠症の高志は、友人の佐々木からもらった睡眠薬を酒で飲み下し、朦朧とした意識の中、過去を思い起こす。
稚いころ、それが禁忌であることを知りながら、経血を陰部から吸い出すような関係を持っていた高志と洋子。
結婚し、家を出た洋子につけられた掌の傷。誰が好きなのか、そんな問いに姉以外の女性の名を続ける高志の掌に洋子がブローチの針でつけたものだった。
狂おしいまでに洋子を求める高志。……だが、一昨年、洋子は勝彦の上司である池田との不倫に逆上した勝彦に殺されていた。
なんつーか、もう、かなり淫靡なお話ね。
まぁ、離れて育った姉弟(兄妹でも可)が恋に落ちる、な~んて話はこの手の設定ではありがち。
けど、キャラは一緒だが、時代を変え、シチュエーションとかを変えた、淫靡な姉弟愛のお話は珍しいのかも。
探せば転がってるかもしれないけど。
構成は、「桜の章」から洋子の視点の話と、高志の視点の話が交互に語られ、「桜の章」は高志が出ず、「羊歯の章」は洋子が出ない、と言う形で対比を成している。
時代も最初と最後が現代以降、中のふたつが過去、と言ったふうに作られている。
キャラも「ライラックの章」「柘榴の章」はほぼ似たイメージだが、「桜の章」「羊歯の章」は微妙に主人公の双子が違うイメージがある。
こうしたところは、おなじキャラではあるものの、違った時代ということもあって、関連性が見えながらも違う話としてきちんと読める要素のひとつであろう。
また、「桜の章」と「羊歯の章」の視点が違うことと、その視点から見える物語の流れと結末によって、「桜の章」から見た場合と、「羊歯の章」から見た場合とで、作品全体の見え方が違ってくる、と言うのもおもしろい。
最初は「羊歯の章」のラストを読んだとき、「それが全部のオチかい」と思ったが、いろいろと考えてみると、そうしたいろんな見方が出来る、と言うのも本書の魅力のひとつであろうか。
しかし、あとがきで「男のひとが読んでもちっともおもしろくないやつを一度、やってみたかった」ってあーた……。
ここにふつうに、それなりにおもしろく読んだ野郎がいるんですが……(笑)
とは言え、これは確かに男性にはきついだろうなぁ。
おきれいな姉弟の禁断の恋愛を描いたものではなく、情念に満ちてどろどろしているし、読むひとによっては淫靡、と言うよりも淫猥で下品な物語に見えてしまうだろう。
個人的にはこういうのは嫌いではないのだが、やはり誰にでもオススメ、ってところがないと良品とは言い難いやね。
と言うわけで、及第がやっぱ妥当かね。