つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

永久機関の夢

2007-02-07 23:54:34 | SF(海外)
さて、読んだの忘れていた第799回は、

タイトル:神々自身
著者:アイザック・アシモフ
出版社:早川書房 ハヤカワ文庫(初版:S61)

であります。

久々の青背、そして、本当~に久々のアシモフです。
架空の物質『プルトニウム186』と、それを別宇宙から得るための機関『エレクトロン・ポンプ』を巡る物語。
三部構成なので、一部ずつ分けて紹介したいと思います。


『第一部 愚昧を敵としては……』……三十年前、フレデリック・ハラム博士はそれを発見した。この宇宙には存在しない物質『プルトニウム186』を。彼は、タングステン186を並行宇宙に送り、向こうからプルトニウム186を得る『エレクトロン・ポンプ』の開発を推進し、歴史上最も偉大な学者としてその名を知られることになった。だが、若き科学史家ピーター・ラモントは、ハラムが偉大な学者でも何でもないことを知っていた。そして、ポンプの危険性も――。

時間の経過と共に放射性が増大し、最終的にはタングステンに変化して安定するという無公害エネルギー『プルトニウム186』のアイディアが面白い。
ポンプでタングステンを並行宇宙に送り、向こうからプルトニウム186を得る→プルトニウム186がタングステンに変化する→またタングステンを向こうに送る、以下繰り返し。
これで終わりなら、ポンプは見事なまでの永久機関だが、これを使って人類の輝かしい未来を書く……何てのはアシモフ流ではない。この等価交換には重大な欠陥があり、その問題は第三部まで引っ張られるネタとなる。反対者であるラモントを突き動かすのが自尊心だったり、ポンプの父としてでんと構えているハラムがとんでもない小物だったりと、固い話に見えて妙に人間臭い連中が出てくるところはいかにもアシモフ。それにしても、最後の並行宇宙からの通信は恐ろしい……。


『第二部 ……神々自身の……』……感性子デュア、理性子オディーン、親性子トリットは三人で一つの『三つ組』だった。だが変わり者と呼ばれるデュアは、勉強ばかりしているオディーンと、融交することにこだわるトリットに嫌気がさし、三つ組を抜けることを願っていた。そんな時、彼女はエストウォルドと呼ばれる人物を知る。デュア達『軟族』とは異なる生命体『硬族』の彼は、世界のエネルギー問題を解決する、ある機械を作り出したらしいのだが――。

ポンプの向こう側にある並行宇宙の物語。感性子でありながら、理性子に近い考え方をするデュア、知識を求めるオディーン、本能に従うトリット、三人の視点を使って、人類とは全く異なる生物の生活を克明に描いている。我々からすれば異様極まりない彼らの生態を、セクシャルな表現をふんだんに用いることで解りやすく説明しているのは秀逸。加えて、ヒロインであるデュアのキャラクターが実に面白く、謎の人物エストウォルドの正体を探るミステリ要素も相まって、独立した中編として一気に最後まで読める。


『……闘いもむなしい?』……ルナ人のセルニ・リンドストロムは、地球から来た男に再コンタクトを試みた。彼がプロトン・シンクロトロンに興味を示したことを、バロン・ネビルが聞き咎めたからである。果たして、謎の観光客の目的は――?

ポンプ問題に一応の決着が付く第三部。再びこちらの世界の話だが、舞台は月となっている。地球から来た男の正体と目的は? なぜ月ではポンプが正常に作動しないのか? セルニの持つ秘密とは? など、謎がちりばめられているが、実は地球人とルナ人のラブ・ストーリーだったりする。(笑)


アシモフにしては珍しく、『銀河帝国もの』とも『ロボットもの』とも関係ない長編です。
これまた珍しく、ヒューゴー/ネビュラのダブル・クラウンに輝きました。
さらにさらに珍しく、セクシャルな表現が非常に目立つ作品だったりもします。

珍しづくしの逸品です、オススメ。
かなり長いけど、ファンなら読んで損はありません。
しかし、これがシルヴァーバーグの言い間違いから生まれたとは……。(笑)



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