つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

三匹目が斬る!

2007-02-21 23:53:26 | 文学
さて、知ってる人いる? な第813回は、

タイトル:三びきのやぎのがらがらどん―アスビョルンセンとモーの北欧民話
著者:マーシャ・ブラウン  訳者:せた ていじ
出版社:福音館書店(初版:S40)

であります。

北欧民話をベースにした童話です。
不思議な空気を生み出す数々の擬音、少しずつ変化して期待感を煽る繰り返し表現、手加減無用の戦いを描くクライマックス等、魅力的な要素がつまった名作。
手元に原本がないので、幼少時の記憶を頼りに書きます。間違った箇所があったら……すいません。



むか~し、昔のことじゃった。
とても寒~い北の国に、山羊達の小さな村があった。
彼らは裕福ではないが、それなりに幸せに暮らしておった。

そんなある日のこと……村の若い山羊が、長老の家に走り込んできてこう叫んだ。

「て~へんだぁ! て~へんだぁ! 谷の下に鬼が住みついちまっただぁ!」

この村の山羊達は、谷の向こうにある山のてっぺんを餌場にしておった。
谷には一本だけ吊り橋がかかっており、これを渡らないと山に行くことはできない。
谷底に住みついたトロルという鬼は大きな音が嫌いで、橋を渡ろうとした山羊達をみんな喰ってしまう……若者は、そう言ってさめざめと泣いた。

「このままじゃあ、オラ達は飢え死にだぁ」

長老は慌てて村の者達を呼び集めたが、誰も良い考えが浮かばす、途方に暮れるだけじゃった。

「村を捨てるしかねぇべ……」

誰かが、ぽつりとそう言った時、ゴンゴン、と長老の家の戸を叩く音がした。
すうっと戸が開き、中に入って来たのは、村の者ではない三匹の山羊じゃった。

「話は聞かせてもらった。俺達に任せてもらおう」
「お、おめぇさん達はいったい……」
「鬼狩の大」
「謀略の中」
「泣き落としの小」
「人呼んで、三匹のがらがらどんとは俺達のことだ」
「あんた達が、あの鬼を退治してくれるって言うのかい?」
「ああ……報酬は山の上の草だけでいい」
「そりゃ~、ありがてぇこったぁ」

みんな同じ名前のがらがらどん達は、そのまま、谷へと向かったのじゃが――。



とまぁ、嘘の粗筋は置いといて……。

名前は同じ、姿は別物の三匹の山羊『がらがらどん』が、腹一杯草を食べて太るため、山のてっぺんを目指す物語です。
山に通じる吊り橋の下には、トロルという毛むくじゃらの化物が住んでおり、こいつをどうにかしないと谷を渡ることができません。
三匹はそれぞれの持ち味を発揮して、一匹ずつ橋を渡っていきます。

トップバッターは一番若い『がらがらどん小』。
他の二匹は、「俺達がついてるぜ」とか言いながら、一番非力な奴の背中を押します。
さすが、名前こそ同じものの兄弟でも何でもない三匹組、まずはヒエラルキーの最下層にいる奴を送り込んで様子をみようってことらしいです。(笑)

半分泣き落としのような形で、『がらがらどん小』は橋を渡ります。
「かた、こと」という可愛らしい足音に騙されたのでしょうか? 次の奴喰えばいっか~、と納得して道を通してやるトロル君……甘々ですね。
通行料として命寄こせっ! とかいう阿漕な商売やってるんだから、もっと非情にならないと生き残れないと思います。
(どっちの味方だ、私?)

二番手は、「がた、ごと」という微妙に中途半端な足音の『がらがらどん中』。
一言で言ってしまいましょう。こいつは、舌先三寸で世の中を渡っていく詐欺師です。
「俺の後に来る奴の方が美味いぜ」、とにこやかに仲間を売り飛ばし、彼は悠々と橋を渡ります。

そして……やって参りました、最凶最悪のラストバッター『がらがらどん大』。
こいつは生物兵器です。
黒い巨体、血走った目、蒸気吹き出しそうな鼻、岩でも砕けそうな馬鹿でかい角……トロルと対峙したシーンの彼の姿は、とても山羊のそれではありません。つーかもう、誰がどう見たって化物。(笑)

しかし、腹をすかせたトロル君、無謀にも化物山羊に因縁を付けます。
「おうおうおう、俺の橋をがたごと言わせやがるのは誰でぇ!」
「俺だ……お前を殺しにやってきた大がらがらどん様だ!」

台詞は微妙に変わってますが、大体こんな感じの会話の後、二人は仁義なき戦いに突入します。
結果は……当然ながら、大がらの圧勝。哀れトロル君は、肉をひきちぎられ、その屍を谷底に晒すことになります。
冗談みたいに聞こえるでしょうが、マジでヴァイオレンスな戦いでした。今のところ、童話でこれほど残酷な戦闘シーンにお目にかかったことはありません。しかも、絵でしっかり描いてあるって、をい!

殆ど記憶だけで書きましたが、話は大体それで全部です。
今から考えるとツッコミ所満載ですが、幼少時は夢中になって読んでいました。
何と言うか……トロルをぶっ殺す時のカタルシスが、子供心を捕らえて放さなかったって事なんでしょうか?
(最初から大が渡ればいいんじゃん、というツッコミは当時から入れてたような憶えがあります。スレたガキやなぁ……)

いわゆる『子供に勧めたい童話』の範疇からは、はみ出しまくってるかと思いますが、オススメです。
しかし、子供って本当に残酷話好きだよなぁ……。


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