つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ラノベと言うより

2007-02-04 16:14:38 | ファンタジー(現世界)
さて、きちんと読んでますよの第796回は、

タイトル:9S <ナインエス>
著者:葉山透
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H15)

であります。

「ファンタジー(現世界)」となると、このところ、ラブコメ、またはその気配濃厚な作品が続いていて、先週の「麒麟は一途に恋をする」で、けっこう読み応えのあるファンタジーが来て、なかなかやなぁ、と思っていたところ、これも続けてそう言ったタイプのファンタジー。
年代とかは語られてはいないが、近未来が舞台で、マッドサイエンティストだが、アインシュタインなども遙かに凌ぐ天才、峰島勇次郎がその「狂気の天才」の能力で作った「遺産」を巡る物語。
ストーリーは……、


「遺産」の技術を用い、内部をそっくり地球のミニチュアのように完全循環型環境に仕立て、完全な自給自足の生活が可能なスフィアラボ。そこでバイトをしている坂上闘真は、懇意にさせてもらっている上司の横田に、横田の娘、鏡花への誕生日プレゼントの宅配便にさせられていた。

そんな閉鎖環境の中でも平和なラボに、突如として「遺産」を強奪、闇で売りさばく組織「蜃気楼ミラージュ」が襲う。
呆気なく倒され、制圧されるラボ……闘真にも迫り来る死の影は、宅配便の役目達成のための仕掛け……セキュリティレベルを改竄する、と言うハッキングによって免れることが出来た。

ラボからたったひとり脱出した闘真。
その彼は、横田の仕掛けによって「蜃気楼」のように「遺産」を狙う者たちから「遺産」を守る遺産犯罪対策部隊、通称LCレガシーカウンター部隊、そしてありとあらゆる拘束具に身を固められた少女とともに、再びスフィアラボへ向かう。

ただ、閉鎖されたラボの扉を開ける、ただそれだけのために連れられたはずの闘真は、少女……峰島勇次郎の娘で、最高傑作とされる峰島由宇が気がかりになり、ひとり由宇を追ってラボへの潜入を試みる!


えー、とにかく単純にかなりおもしろく読めました
ここまでおもしろく読めた作品は、このブログを始めて「付喪堂骨董店 ”不思議取り扱います”」を除けば、一も二もなくこれ! ってくらい。
むしろ、「付喪堂~」とはタイプが違うので、アクションを主体とした少年マンガ的なファンタジーでは、これはまずトップ。

とにかく、読んでいてテンションが落ちないのがすごい。
中盤からラストに至る闘真とともに行動する由宇の身体能力、頭脳を駆使した敵とのアクション、頭脳戦は特筆に値するくらいに勢いがあり、パワーがあり、思わず読み進めてしまうだけの魅力がある。
まぁ、実際、ちょっと30分くらい続きを読んでおくかと夜中の1時半くらいに本を開いたが最後、結局4時くらいまで残り300ページ程度、一気に読んでしまったしなぁ……(^^;

また、そうした勢いも、単にアクションだけだったりすると飽きてくるのだが、闘真の血統に宿る真目家の力や、ちょっとしたインターバル、由宇とスフィアラボのメインコンピュータを乗っ取ったハッカーとの電子戦など、手を替え品を替え、さらにネタも満載で飽きさせないようにしている。
ラストも安易な戦闘に終始せず、変化をつけたところもしっくり来ているし、きちんとオチもつけているところもいい。
さらにありがちなロマンスの要素も、あっさりとしていて表に出すぎず、ラストの闘真と由宇のシーンなども余韻があり、うまく扱っている。

もちろん、続きを考慮し、闘真の血に宿るもの、真目家のナンバー2である妹、厳然と君臨する父、不坐、ラストで交わされる由宇との約束などなど、後に証されるであろうネタも転がっていて、そうした部分で続きを期待させるものも十二分にある。

なんか、久しぶりにマジで続きがかなり気になる作品を読んだ、ってとこかなぁ。

ただ、だからと言って気になるところがないわけではない。
あとがきで「ウソがいっぱい」と著者自身が書いているように、おそらく知っているひとが見れば、「なんだそりゃ」とか「ありえねぇ」って武器や「遺産」が出てきたりするのだろう。
そうした意味では、そういうところが気になるタイプで知識のあるひとにはつらいかもしれない。
ストーリーよりも、そういったところに目をつけるとおもしろさも激減するだろう。

その他、この1冊で語られる内容として伏線が弱い部分がいくつか見受けられるのもマイナス。
あと、主人公のはずの闘真が完全に由宇に食われて影が薄い、ってのもどうかなぁ。
それに、まだ著者が闘真を掴みきれていないのか、由宇に較べてキャラが立っているとは言い難い部分がある。
まぁ、ほとんどが由宇の独壇場だからそこまで気になるほどではないけど。

とは言え、そうしたところを差っ引いても、ここまで作品とその世界に引き込まれるライトノベルは極めて少ない。
枚数も350ページオーバーとボリュームもあり、内容と相俟って読み応えは抜群。その分、値段は張るがほぼ確実に損はさせない。
文句なし、とまでは言わないが、良質なライトノベル……もとい、ファンタジーと言っていいだろう。

2巻は、確実に読みます(笑)



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