つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

話半分でも十分楽しめる

2005-08-21 15:12:20 | 学術書/新書
さて、妄想街道まっしぐらの第264回は、

タイトル:オーケストラ楽器別人間学
著者:茂木大輔
出版社:新潮文庫

であります。

人間学、なんて言うと小難しい感じがあるかもしれないけど、そんなことはまったくない。
とは言うものの、各章のタイトルはお堅い漢字を連ねてはいる。

まず、第1章「楽器選択運命論」
どういう性格のひとが、オーケストラで用いられる楽器の中で、どういう楽器を選ぶのか、と言うことをテーマに解説されたもの。

ある楽器のイメージや音の特徴などから、どういう環境で、どういう育ち方をし、こういう性格のひとが、この楽器を選んだ、と言う感じで書かれている。

著者はNHK交響楽団などの第一オーボエ首席奏者なので、楽器と奏者の性格というものをよく知っている、とは言うものの、著者個人の考えというのがだいぶ入っているので、「をいをい」というつっこみどころはけっこうある。

まーでも、この妄想ぶりもなかなか堂に入っている(?)ので、話半分で「ほほぅ~、そういう感じなのか」と楽しめる。

第2章「楽器別人格形成論」
どういう楽器を専攻しているひとが、楽器の特性によってどういう性格を形作っていくのか、を解説したもの。

第1章のちょうど反対で、こういう楽器を専攻しているから、こういう性格になる、と言う感じ。

構成は、その楽器の持つ特徴を「音色」「演奏感覚」「合奏機能」の3つに分けて語られている。
ここはけっこう、楽器の特徴や音色、技術の難易などをベースに説得力がありそー……な感じなんだけど、「音色」「演奏感覚」「合奏機能」で形作られるはずの性格がけっこう多岐に渡っていて、こちらもどーしても話半分、って感じになってしまう。

第3章「楽隊社会応用編」
オケマンとはいかなるヒトか、と言うことを解説したもの。
ほとんどが「有名人による架空オーケストラ」と言うことで、芸能人から政治家、マンガのキャラなど、有名人の特徴などから、どういう楽器がふさわしいか、と言うことを書いたもの。

ほとんど斜め読み。
ぜんぜんおもしろくなかった。

第4章「フィールドワーク楽隊編」
ここでは著者が楽団の、管楽器奏者に、
・アナタの演奏している楽器
・その楽器の得意技
・苦手な仕事
・その楽器にとって最も大きな快感をもたらしてくれる作曲家
・最も苦手な作曲家
・アンサンブルをするうえで最も相性の良いと思われる楽器(自分とおなじ楽器を含む)
・最も相性の悪い楽器
・アナタがオケの中で最も気持ちよいと思っている楽器
・一番むずかしいと思う楽器
こうしたアンケートを行って、その結果と解説を行っているもの。

この本の中で何がおもしろかったってここがいちばん面白かった。

あとは文庫版のみの「特別講義」とか、いろいろあるけど、本来はここまで。
つか、特別講義がまたおもしろくないので、個人的にはこの第4章までで十分。

とは言うものの、まぁ、よくここまで書いたとは思うよ、このひと(笑)
いわゆる人間学としての正確性とか、論理とか、そういうのはまぁ、話半分でいいと思うんだけど、オケマンという普段接することのない職業のひとたちの性格とか、そういったものが随所に見られておもしろい。

物書きとしても、そういう傾向がある、と言う意味では楽器をやるキャラなんかを作ったときに参考になったりするだろうしね。

なかなか変わったタイプの本だけど、オススメ。
楽器の名前をほとんど知らなくても、巻頭に「オーケストラ楽器配置図」があって、写真、名称、位置が入っているから、ご心配なく。

さー、困った

2005-08-20 16:35:34 | 恋愛小説
さて、悩んでしまったの第263回は、

タイトル:こうばしい日々
著者:江國香織
出版社:新潮社

であります。

前に「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」と言う短編集を読んで、いまいちだったけど、今度は中編か、長編を読んでから判断しよう、と思ったので、今度は中編2作が入った本をチョイス。

作品は、表題作の「こうばしい日々」、それと「綿菓子」。
それぞれ、主人公が小学生の年齢である11歳の少年、小学6年生から中学1年生にかけての少女の日常、そしてかわいらしい恋愛小説。

2作なので、各話の解説を。

「こうばしい日々」
11歳の少年のダイのアメリカでの生活を描いた話。
大学生で年の離れた、日本が懐かしい姉とのやりとりや、姉の通っている大学にいる友達で日本びいきのウィルとの関係。

また通う学校でのガールフレンドのジル、何かと突っかかってくるサミュエルと言った学校での日常。

毎日忙しくて、けれど水曜日には早く帰ってくる無口で取っつきにくい父、やさしい母、父の同僚の島田さんなどの家庭での日常。

そういった中で日本人だけど、英語しか話せなくて自身もアメリカ人というダイの一人称という形で、とても11歳の少年らしい見方や感性がよく描かれている。

ほんとうに、「日常」という言葉がふさわしいストーリーなんだけど、とてもいい雰囲気を持った話になっている。
また、ダイの周囲の姉やウィル、ジル、サミュエルなどと言ったキャラたちとの関係も、自然で、姉との喧嘩やジルとの気まずい関係の中でダイの取る行動や思考も、少年らしくてほほえましい。

まぁ、ストーリーの中ではいろいろとあるけれど、そういう小難しいことは言わないでおこう。

そういうことを考えなくても、ただ雰囲気のあるいい作品、と言える。

「綿菓子」
こちらは短編連作で、
綿菓子
絹子さんのこと
メロン
昼下がり、お豆腐のかど
手紙
きんのしずく
のタイトルで、1話1話がとても短く、こちらもとても読みやすい。

中学1年生の少女みのりが主人公で、こちらも一人称で語られている。
年の離れた姉がいるのも共通。だけど、こちらは既婚で、家を出ている。

「こうばしい日々」では恋愛小説としての相手は同級生のジルだったけど、こちらはもともと姉の恋人で、けれど別れた大学生の次郎くん、と言うキャラ。

姉はもともと次郎くんと付き合っていたのに、別れてしまい、そしていまの夫とお見合いで結婚してしまっている。

そんな姉の結婚のこと、また、無口で無愛想な父と母の結婚、そして次郎くんのことなど、そういったことを見聞きしながら、様々なことを思い、考えていくみのり。

こちらは、ほほえましい、と言うよりも切ない話で、どこかしっとりとした雰囲気のある作品になっている。
また、恋愛だけではない、両親や姉の夫婦、と言うものを通して得られる主人公のみのりの気持ちなどの描写も、とてもみずみずしく描かれている。

ただ、読んでいくとラストの「きんのしずく」が唐突なきらいがあるけれど、そうさして気になるレベルではない。

こちらも総じて雰囲気のあるいい話、と言える。

となると、ここで迷うのが次……。
短編集は、「ふ~ん」で終わったので、どうかと思ったけど、この2作の中編はよかった。

となると、やはり次は長編、と言うことになるかなぁ。
ホントはこの2冊で終わるだろうと高をくくっていたんだけど(^^;

まーこんなもんだろー

2005-08-19 21:24:08 | 恋愛小説
さて、いつのまにやら超えてしまったの第262回は、

タイトル:Miracle
著者:桜井亜美
出版社:幻冬舎文庫

であります。

幻冬舎文庫の夏の100鮮。

……いや、別に宣伝なんかしてないって(笑)
この時期は、どこの出版社もこんなんばっかなので、適当に手に取ってみるのにはいいんだよね。

たぶん、人気があるとか、売れてるとか、そういうのをしっかりと選んでくれているはずなので、普段手に取らなさそうなのを読むいい機会になる。

そんなわけで、名前だけはおぼろげに記憶にあったので、どんなもんかと拝見。

ちなみに、初版が今年の8月になっていて、びっくり。
へー、新しいんだぁ、と読んだあとになって気付いたけど(笑)

さて、話はとにかく男だろうが女だろうが誰もが虜になってしまうほどの美女、宝生聖良(セイラ)と、心臓に病を持って入院している若手弁護士の堂本維吹紀(イブキ)とのラブストーリー。

セイラがナースとして勤めていた病院での医療過誤による患者の死亡や、イブキの義理の弟のカイジとの間にある憎しみなどを絡めて話は進められている。

まぁ、裏表紙の煽り文句、
「聖と俗、邪悪と無垢。その間を激しく揺れ動く女が、真実の愛に目覚めるまでを描いた恋愛小説。」
と言うのに、まぁ、偽りはないだろう。

セイラの幼いころに読んだ絵本との絡みや、イブキとの関係、カイジとの関係、パトロンたちを利用するセイラの姿などなど。

そうしたのが、とてもクリアで、すっきりとした文章で描かれているので、読みやすい。
個人的にはストーリーよりはむしろ、このクリアな、文章表現のほうがよかった。

透明感があるとか、クリアとか言うと、すごい綺麗なイメージに聞こえるかもしれないけど、そういうクリアさではなく、ある意味、何も遮るものがない、と言う意味でのこと。

つまり、煽り文句で言えば「聖と俗」「邪悪と無垢」の区別がはっきりとしていて、場面や1章ごとの雰囲気がとてもよく伝わってくる。

だから、邪悪な面を見せるところでも、そういう暗いものがストレートに入ってくる、と言う感じ。

こういうところはいいんだけど、ストーリーは、まー、こんなもんだろー、ってくらいかな。

まぁ、ラストのあれに感動するひともいるんだろうし、それは好みだからいいんだけど、結局そんな終わり方か、と思ったくらいふつー。

悪いとは言わないし、それなりにまとめたとは思うけど、物足りなさはどうしても残った。

文章から受ける感じがよかっただけに、残念なところ。

でも、短編集でもあったら買ってみよう、くらいには読める作品だったかな。

あ、それとセイラのようなタイプのキャラはなかなか書かないから、こういうキャラで話作ると面白いかも、とは思ったな。

検索したら大阪と北海道にあった

2005-08-18 22:50:22 | 木曜漫画劇場(紅組)
さて、地名なんて探せばあるもんだの第261回は、

タイトル:幸福喫茶3丁目(第1巻)
著者:松月滉
出版社:白泉社花とゆめコミックス

であります。

鈴:なんか1巻しか出てないのに記事にするなんてどうよ? とちょっとだけ思ったLINNで~す。

扇:白泉系しか読まない奴に合わせてたらストックが少なくなったんだろうがと思うSENでーす。

鈴:なに、おなじものを読んでるのが少ないだけだ。
……ってよくこの木曜劇場保ってるな、いままで……(爆)
さておき、少女マンガ……と言うより、白泉社の定番中の定番、疑似家族ドラマであります。

扇:だからいつも言ってるだろう、少年漫画読め! 青年漫画読め! レディコミ読め……ってそれは言ってないか。
つーかね、本誌でよく被ってるんだよね、話のネタが。
これも、V・○・ローズもフ○バもみーんな疑似家族ドラマ。

鈴:読めって、食指が動かないんだからなんかオススメを言いなはれ(笑)
レディコミは「アクション大魔王」だけか!? でもこれ、レディコミに連載だからそうしておこう(笑)
さておき、このマンガ、本誌だったんだ……。LALA DXしか読まないから知らなかった……(爆)

扇:このマイナー野郎がぁっ、本誌読め! 本誌!(買ってないけど)
とりあえず、ストーリーを適当に説明しておくれ。

鈴:うむ、ではストーリーは、母親の再婚で居場所がなくなったと思った主人公が、幸福町という名前に騙されて、そこの3丁目にある喫茶店(ケーキがうまい)のバイトを始め、パティシエとふざけたバイトとの三角関係を繰り広げる話。
……1巻しか出てないからこんなもんか。
おしまい。

扇:終わるなっ!(100t)
上でも書きましたが、喫茶店が家、三人がファミリーという疑似家族ものですね。
もちろん王道に則り、主役が惚れるのは無口・無愛想・中身テレ屋な男です。

鈴:100tなんてどっかの都市で銃刀法違反かましてるもっこり野郎と一緒にすんなー!
さて、王道? それを言うなら、主人公より美人で、小悪魔的で、でもかわいいところもあって、主人公が惚れてる相手にコナかけるのが途中で出てくる(最初からいても可)のも王道だろう(笑)

扇:つーか出たじゃん。(笑)
それを言うなら、主人公を思いっきり馬鹿にしてるくせに結局惚れてしまう男とか、登場と同時に主人公にコナかける男とかが現れて、三角関係に波風立てるのが真の王道であろう。

鈴:王道だらけだな。
……ってナポリタンもミートソースもうまそ~……(←どっちの料理ショー見つつ(笑))
はっ、いかん、とりあえず、キャラ紹介にいこう。
主人公の高村潤(うる)、小学生並の体型なのに高校生、なのに怪力が特技で店の備品(ドア、テーブル、コップ、皿などなど)を破壊し続ける第六天魔王(笑)

扇:男は黙ってペペロンチーノだ……!
で、なんで第六天魔王やねん。
体型は父親似(と誰かさんに言われた)、髪は母親似、成績は下から数えた方がいい怪力娘ですが、中身は至って鈍感な普通の女の子。
甘い物に目がないところとか、自分が母親の邪魔者だと勝手に勘違いしてるあたり、精神レベルはお子様クラスかもしれない。

鈴:ふつうかっ!?
つか、ふつうじゃないし、お子様レベルはこれまた王道。そんなのが惚れて女の子女の子するのがまたよいのであらう(冷製)
じゃぁ、次、進藤咲月。喫茶店カフェ・ボヌールのパティシエ。無口、無愛想、黒髪、身長高、傍若無人なのにシャイという、これまた王道中の王道。

扇:いや、少女漫画においては至って普通だ、怪力除けば。
で、進藤……って全部言ってしもうとるやないかい!
なんつーか、あれです、愛想悪そげな人なんだけど、ほんの1ミクロンぐらい優しさを見せる時があって、そこに恋愛経験0、免疫0、感度0の主人公が惚れるとゆーやつですな。
個人的に、こういう彼氏役って道化だと思います。(笑)

鈴:なに、道化だろうと何だろうと、ヒロインが惚れて、ハッピーエンドならきっと、たぶん、おそらく、概ね、読者ははっぴーなのだらう……。
じゃぁ、次いくか。西川一郎。平凡な名前に反して、かなり美形なのはこれまた王道。
趣味は睡眠。ところかまわず、寝る。起きるためのトリガーは食い物という異次元な人物。

扇:いや、美形云々に関しては言っちゃ駄目だろう。
一言で言うと、主人公の保護者。
進藤が大人やろうとしてるのに対して、こっちはそういう制約成しに主人公をフォローする位置にいる縁の下の力持ち……かも知れない。
寝ることが特性なためか、始終口に物を突っ込まれてるイメージがある。

鈴:縁の下の力持ち……実は主人公にホの字なのだが、ストーリーの関係上報われないのが王道。
まぁ、ベタもスクリーントーンも張ってもらえない美形キャラは基本的に報われないんだから、まー、運命以外の何者でもないが。

扇:じゃあ、やっぱり透は夾とくっつくんだな、よしっ!(それは違う漫画だ)
てか、サブとメインははっきりしてるから息は短い作品に……ならないかも、白泉社だし。

鈴:いや、そこで由希とくっつけば王道はずしで一躍大スターなんだがな(どこがだっ!)
しかし、最初の単行本だし、そこまで長くはなかろうて。せいぜい3巻くらいじゃないか?
つか、それくらいで終わってくれないと惰性以外の何者でもないぞ。

扇:えらいキッツイこと言うなあんた。
王道を使い果たした時に、底力を見せられるかどうかだとは思うがね。
とりあえず、ノリ自体は嫌いじゃないなぁ。

鈴:その割には「ショート寸前」とか、「Wジュリエット」とかダメなんだよな、扇は。
まー、こっちはマンガになーんも求めてないからノリがよかったり、テンポがよかったりすればいーんだけどー(笑)
じゃぁ、意外と長くなったけど、そろそろこの辺で締めておくかね。

扇:まだ一巻しか出てないので、試しに買ってもいいかなって作品です。
では、さ~よ~お~な~~~~~ら~

鈴:買ってって古本屋でか?
まー、著作権うんたらがうるさくなってきた昨今なので、なるべく、極力、財布または大蔵省の許すかぎり、ふつーの本屋で買いましょう。
ともあれ、定番中の定番なので、安心して読めます。
それではこの辺で、さいなら、さいならっ、さいなら……っ

心の闇にようこそ

2005-08-17 23:02:50 | ミステリ
さて、ある意味ホラーだと思う第260回は、

タイトル:共犯者
著者:松本清張
文庫名:新潮文庫

であります。

推理小説界の巨星――松本清張の短編集です。
清張と言えば『天城越え』と『霧の旗』ですが、敢えてこっち。

共犯者……かつて共謀して大金を手にした二人の内の一人が、成功した後に相方の影に怯えて自滅していく様を描く作品。主人公の行動が理にかなっており、それが破滅を迎えるまでの過程にリアリティを与えている。秀作。

恐喝者……さほど悪人でもなかった男が、機会を得て恐喝者へと変貌する話。被恐喝者である女を愛するが故に、ずるずると深みにはまっていく主人公の描写は非常に説得力がある。

愛と告白の共謀……未亡人となった女が、夫の同僚で妻帯者である男との愛に落ちる話。自分の生活と体裁のためなら平気で女を犠牲にできる男の、エゴ剥き出しの姿が上手く描けている。しかしこの夫婦、似たもの同士だなぁ。(笑)

発作……小さな不満の積み重ねが突発的な殺意を生むまでの過程を描いた話。まるで、主人公自身の理性が目減りしていくのを示すかのように、病床の妻へ送る金額が減っていくのが怖い。

青春の彷徨……麻雀卓を囲んで語られる、生と死の物語。美しく死にたいと願う若い恋人達が、死を渇望する度に生を求める様はある意味可愛らしい。清張にしては珍しく、コメディタッチの作品。読後感も非常に爽やかである。

点……脚本家の主人公と作家崩れの男の接触。娘を連絡役に寄こして相手の情につけ込む所や、自慢げに自分の過去を吹聴する所など、男の造形はこれでもかというぐらい醜悪。ところで、『黒い犬の手記』は自作『黒い画集』のパロディか?

潜在光景……旧知の未亡人との間に芽生えた愛の末、彼女の子に恐怖を覚えるようになる男の物語。漠然と、男が子供の殺意を感じ取るのではなく、そこに一ひねり加えてあり、非常に完成度が高い。映画化もされた傑作。

剥製……鳥寄せの名人と名乗る老人、落ち目の美術評論家、過去を誇らしげに語るだけの男達の話。点と並んで、作者の嫌いなタイプの人間の描写がメイン。皮肉たっぷりのタイトルが好き。

典雅な姉弟……本書唯一のアリバイミステリ。トリックにあまりヒネリはないが、姉弟の関係と殺人の動機は上手く描かれている。オチもなかなか。

距離の女囚……詐欺罪で懲役刑となった女の、かつての夫への思いをつづった手記。女の思いというよりは、考古学に打ち込む男の姿を描くことがメイン。

以上、十編。
結論を言うと――

やっぱり清張は上手い

ってとこでしょうか。
推理小説というと、トリック主体で動機が弱い、というイメージが強い(偏見)のですが、清張は別。
心理劇が好きな方にオススメです。

義経と言えばコレ

2005-08-16 21:48:42 | マンガ(少年漫画)
さて、別に流行に合わせたわけではないけど第259回は、

タイトル:ますらお―秘本義経記(全八巻)
著者:北崎拓
文庫名:少年サンデーコミックス・スペシャル

であります。

十年前ぐらいにサンデーで連載されていた義経の漫画です。
この方は恋愛物専門だと思ってたので、当時はびっくりしました。

義経が鞍馬寺を脱走する所からストーリーは始まります。
この遮那王(義経の幼名)、とにかく弱い……肉体と立場が。
立ち塞がるは僧、山犬、盗賊、僧兵、もちろん味方は自分だけ。
金力0、権力0、力1、素早さ5、見事なまでにレベル1の勇者です。

人生戦ってなんぼじゃあ~、と吠えたところで力量低すぎ。
反骨精神と狡賢さだけを武器に暴れますが、強敵には歯が立ちません。
人間不信の塊なのに、どこかで人を信じてしまうところも可愛らしい。
生き延びたのは……運でしょうね、やっぱり。(笑)

こういう奴が主人公ですから、善人が出ないと話になりません。
遮那王以上に弱いのに、人を信じることを知り、根性で生きる静。
恵まれた体格を誇りながら、自らあっさり命を捨てられる弁慶。
二人のおかげで遮那王の性格は少し丸くなります、まさに成長物語。

後半は史実がメインになりますが、前半はオリジナルの話が満載。
母親に会いに平家の本陣に突入したり、海賊に捕まってみたり。
キャラも平家物語等とは少し違う書き方してて面白い(特に維盛様)。
一応主役二人だけ紹介しときます。

遮那王、後の義経。
弱者を罵り、自己犠牲を馬鹿と嘲る、男にも女にも冷たいお方。
しかし、実体はそういう馬鹿に惚れてしまう典型的な照れ屋さん。
序盤は野獣みたいでしたが、後半は極甘なキャラになっちゃいました。
ちなみにこの方、義経物の漫画では一番美形だと思います。(笑)

武蔵坊弁慶。
長髪オールバック、ぶっとい眉毛がチャームポイントの怪力坊主。
気は優しくて力持ち、弱きを助け強きをくじく庶民のヒーロー。
盲目的に正義を突き通すのではなく、常に葛藤を抱えている所が素敵。
義経の優しさを見抜き、友の誓いを立てた格好良い漢でした。

絵は綺麗だし、話のテンポもいいし、かなり好きな作品です。
た・だ・し……凄い問題が一つだけあったりする。
打ち切りで終わってるのです、かなり唐突に。(泣)

とりあえず、義経美形説支持者、平家物語好きにはオススメ。
どなたか、衝撃のラストシーンを見て一緒に悔しがって下さい。

カタナとテッポウ

2005-08-15 23:53:30 | 時代劇・歴史物
さて、300回記念に何やろうとか考えてる第258回は、

タイトル:鉄砲を捨てた日本人―日本史に学ぶ軍縮
著者:ノエル・ペリン
文庫名:中公文庫

であります。

海外の学者から見た日本の歴史……とはちょっと違います。
ま、そういう面もあるのは確かですが、それについては後述。

鉄砲伝来が1543年、これは有名ですね。
んで、第六天魔王が勝頼をへこました長篠の合戦が1575年。
このわずか32年の間に日本の鉄砲は飛躍的に進化しました。

「火縄銃は弱点だらけだ。一発撃つまでの所要時間が弓に比べて長すぎる、接近戦ではほぼ役に立たない、雨になれば棒きれと大差がなくなるし、肝心の破壊力も距離が遠ければ兜を貫くことすらできない。だがそれでもあれは最強の武器と呼ばれた。なぜだか解るかい?」
「改良が簡単だった?」
「そう、火縄銃はとっても作りやすかったんだよイン×グラ」
(※本文中にこんな記述はありません)

上記の会話は忘れて下さい。(笑)
刀鍛冶にとって鉄砲を改良、量産することは難しくありませんでした。
諸問題を解決し、破壊力を増した火縄銃は戦そのものを変えていきます。
人ではなく物で戦う時代の到来ですね――と、ここまでは東西同じ。

問題はその後です。
幕府成立後、銃の生産は一気に減少しました。
内乱が終わり、鎖国を始めた時、銃はその役目を終えたのです。
実用性しか価値がない銃に興味を示さなくなった、とも言えます。

ヨーロッパの場合、これと全く逆の現象が起こりました。
実利と精神の区分けが急速に進行したのです。
結果として、強大な経済力と軍事力を得て、その矛先は外征へと向かいました。(日本も秀吉が同じ事やりましたが……)

銃の登場後も日本で最も価値のある武器は刀でした。
銃は飽くまで道具です、そこには徹底した効率主義しかありません。
しかし、刀は武士の精神的支柱であり、意思を乗せるものでした。
結果として、日本人は後者を取ったのです。

この特徴は言語にも見ることができます。
微妙に意味の違う語句というのが、日本語には非常に多い。
実用性と精神性の融和を好む日本人ならではといったところでしょうか。

筆者は日本人の特異性に着目しつつ、その思想を現代にも適用すべきだと主張します。実利主義による経済成長がなくとも、文化的発展があり得るとの考え方です。彼は例として、江戸時代のテクノロジー――革命的ではないが緩やかな技術の進歩についても紹介しています。

ところどころに誤認が見えますが、非常に優れた観察をされています。
むしろ日本人より詳しいかも……歴史好きの方は是非御一読下さい。

蛇足。
カムイ外伝で追忍が火縄銃を使う相手を嘲笑うシーンがあります。
「フン……我らに火縄が通じるか!」
彼らは火縄の臭いを敏感に感じ取り、あっさりと狙撃者を倒してしまう。
やっぱり日本人ってチャンバラが好きなんだなぁと思いました。(脱線)

お手軽さがよし

2005-08-14 14:34:14 | その他
さて、ホントは別のを探してたの第257回は、

タイトル:こんな私も修行したい! 精神道入門
著者:小栗左多里
出版社:幻冬舎

であります。

精神道、と言うとお堅いイメージの本、と言う感じかもしれないけど、これはそういう感じのものではない。
著者が、「瞑想」「写経」「座禅」「滝(行)」「断食」「お遍路」「内観」の各修行(?)をまとめた体験ルポ。

実際は、古本屋で「ダーリンは外国人」の2巻がないかなぁ、と探していて、なかったんだけど、おなじ著者で転がっていたので買ってみたんだけど。

とは言うものの、これがなかなかおもしろい。

別段、それぞれの修行にうんちく連ねるわけでもなく、けっこう「こんな感じだったと思う」みたいな感じで、解説もいい加減だったりするけれど、「○○道入門」って感じで、どこが入門書やねん! と思うくらい小難しいものよりはいいんじゃないかな。

まぁ、だいたい修行と言っても長くて2泊3日くらいのスクール(?)の体験ルポなんだから、それなりに知識も経験もあるひとには必要ないだろうけど。

だけど、こういうので興味を持って、いろいろと調べたり、体験したりするきっかけにするタイプの本だね。

さておき、本の中身としては文字ベースの解説なりがあって、そのあとにマンガ、と言う構成。
マンガのほうが実際の体験談をまとめたものだけど、文字ベースのほうもあっさりと読める。

「友情出演する坊主とネタ帳をもつ坊主」とか「マイ・フェイバリット坊主」とか、著者のつっこみもなかなかよいし、瞑想だの座禅だのをしながら雑念だらけだったりとヘタレぶりをいかんなく発揮する著者の姿もおもしろい。

ちょっと毛色の違うジャンルを扱った本だとは思うけど、ちょろっと興味があるけど、どういうのを手に取ればいいかわからない、ってひとにはオススメかも。

独身貴族ってのは気楽だね

2005-08-13 17:31:01 | 小説全般
さて、これ書いててまた新潮社だと思ったの第256回は、

タイトル:ビタミンF
著者:重松清
出版社:新潮社

であります。

他力本願まっしぐらで、同僚に
「なんかオススメがあったら貸して。
 ただし、比較的短めのヤツ」
といって借りてきたもの。

短いと言っても、全体の短さじゃなくて短編集ってところがちと意図が伝わりきれてなかった気はしないでもないけど(笑)

さて、一言で言うと家族ドラマ。

7編の短編が収録されているけれど、そのどれも主人公が30代後半~40代で、大きくて大学受験程度の子供がひとり、またはふたりいる父親。

なんかまるでそのまんま1時間ドラマでもできそうな感じで、ちょっとほっとするような話とか、どこか切ない話とか、どれもすっきりとまとまった話になっている。

各編は、

ゲンコツ
はずれくじ
パンドラ
セッちゃん
なぎさホテルにて
かさぶたまぶた
母帰る

個人的によかったと思ったのは「なぎさホテルにて」と「かさぶたまぶた」かなぁ。

ただ、家族ドラマだし、妻子もちが基本の話だから、どちらかというと「ふ~ん」で終わる話ではある。
つか、子供だの何だので悩む立場じゃないしね。

まぁでも、読みやすい本だと思う。
妙な引っかかりもなく、するするっと入っていけるし、とても一般受けする作品だろうね。

そういう意味では「博士の愛した数式」とおなじで、何か読む本ない? と訊かれて、じゃぁこれ、というくらいではあるけれど、個人的にすごいおもしろいか、って言われるとぜんぜんそうじゃない。

一般的に、冷めた目で見て、いいんじゃない、くらいかな。

まぁ、ぐっとのめり込める作品のほうが少ないんだから、しょうがないっちゃぁしょうがないんだけどね。

まったり感全開

2005-08-12 17:34:44 | 小説全般
さて、冬から始めてもうお盆なんだなぁの第255回は、

タイトル:古道具 中野商店
著者:川上弘美
出版社:新潮社

であります。

古道具店の中野商店……リサイクルショップでも骨董店でもない……を中心とした話で、主人公はこの中野商店でアルバイトをしているヒトミという女性。
メインキャラはヒトミと、おなじくアルバイトのタケオ、店主の中野さん、中野さんの姉のマサヨさんの4人。

ストーリーは、いちおう、恋愛もの……ということになるのだろうか。
つか、あえて言うなら、という感じかな。

いちおう、ヒトミとタケオ、中野さんとアスカ堂という骨董店のサキ子さん、マサヨさんと丸山という形で、それぞれ対応する相手もいるし、そういう話もあるのはあるので。

でも、古道具店ということで、「雨柳堂夢咄」みたいな何らかの物で、何か事件が起きる、みたいなことはない。

印象としては、なんかこう、まったりとした感じがすごいするんだよね。

特に主人公のヒトミは無気力で、何事にもやる気というものが感じられない。
中野さん、マサヨさんの姉弟コンビも、どこか微妙にずれた感じがするし、唯一タケオだけがふつうの人間、って感じ。

それなりに重い話もあったりするんだけど、深刻な話をぜんぜん深刻に話さないマサヨさんのキャラとかも相俟って、もさーっと流れていく。

なんかここまでまったりとした話として続いていくのも逆にすごいのかも……と思うんだけど、いまいち消化不良な感じは否めないかなぁ。

ラストは中野商店を閉めてから2年後の話になるんだけど、いちおう締めてくれたとは思うけどね。

まぁ、雰囲気のある作品ではあるけれど、合う合わないはあると思う。
個人的には、いまいち、かな。