つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

レパントの一番長い日

2005-08-23 13:12:38 | 時代劇・歴史物
さて、歴史物のカテゴリー作った方がいいかなと思う第266回は、

タイトル:レパントの海戦
著者:塩野七生
文庫名:新潮文庫

であります。

『ローマ人の物語』、で知られる塩野七生の単行本です。
ガレー船最後の花舞台、レパントの海戦をダイナミックに描きます。

まず最初に断っておきますが、これは歴史書ではありません。
大河ドラマです――いや、冗談抜きで。

物語は1569年、後のレパントの戦いの指揮官の一人アゴスティーノ・バルバリーゴがキプロス島駐在の任務を終えてヴェネツィアに帰還したところから始まります。

ここで、既に普通の歴史書とは書き方が違っています。
文体は小説のそれで、あちこちにバルバリーゴの心情が現れている。
子持ちの未亡人に心を移したり、少年の中に漢を見たりするのです。
台詞はほとんどありませんが、中身は歴史小説そのもの。

視点はバルバリーゴに留まらず、他の人物にも移ります。
トルコ駐在のヴェネチア大使とか、ローマに派遣された外交官とか。
彼らの眼を通して、当時の地中海の姿が浮かび上がって来ます。
ところどころに挿入される資料も強力な説得力を持っています。

時折、残してきた家族を気にかけるバルバリーゴ。
それぞれの思惑を持ち、ぶつかり合う各国の海将達。
ところどころに見え隠れするヴェネツィア贔屓の視点。
とにかく飛び交う『男たち』というキーワード!

七生イズム全開ですね
(何だそれは?)

決戦に至るまでの経過、戦闘時の模様など非常に詳しく解ります。
こういう歴史の書き方は嫌いな人もいらっしゃるかも知れませんが、普通に物語として読むなら非常に面白いと思います。
カテゴリーも小説にしたし……。(笑)

蛇足。
読んだ後で気付いたのですが、これ三部作の最終巻だったんですね。
ま、前二作も読む予定なので、それについてはまたいずれ。