つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

鳥に運ばれて……

2005-08-09 23:12:12 | ホラー
さて、つくづくホラーって難しいと思う第252回は、

タイトル:鳥葬の山
著者:夢枕獏
文庫名:文春文庫

であります。

かの『陰陽師』で知られる夢枕獏の短編集。
表題作を含む八編を収録。
例によって一つずつ感想を書きます。

柔らかい家……森で道に迷った末、ようやくたどり着いた農家風の家。一人の老人に案内されて中に歩いていくうちに、この森の恐るべき状態が次々と明かされていく――。理不尽型ホラーの典型。怖いと思える物を羅列しているだけに感じるのは私がホラーに慣れていないからだろうか? この森の世界は人からすれば異様だが、その実、秩序に満ちていると感じる。故に、あまり恐怖はない。

頭の上の湿った土……七年間もの間、土の中に埋められている『ぼく』。考えることしかできないので、遠い忘れられた記憶を思い返そうとするが――。序盤の展開は秀逸。自分がどこの誰なのかも思い出せない主人公が、少しずつ、断片的に記憶を取り戻していく過程は、次に何が来るのかを期待させるミステリ的面白さがある。ただ、記憶の輪郭がはっきりしだしてからは退屈。正直、謎のままの方が面白かった。

鳥葬の山……チベット旅行中に鳥葬の現場を見た男。彼は日本に帰って以降、恐ろしい夢に悩まされ続ける――。ホラー調だが、実はミステリ。主人公がなぜ悪夢を見るのか、その内容が決まっているのはなぜか。仕掛けはオカルティックだが、納得がいく答えは出せるようになっている。鳥葬のシーンは、スプラッタ好きにはオススメかも。

閑古鳥……ショートショート。ありがちすぎて語る気もなし。

あやかし……『ぼく』の家にいるみちこ叔母さんは、とても綺麗な人だが結婚しない。しかし、好きな人がいることを『ぼく』だけは知っている。でも、その人の姿を『ぼく』はまだ一度も見たことがない――。お気に入りの逸品。次第に判明していくみちこ叔母さんの過去と狂気。疑問を感じながら、それでも叔母に惹かれていく主人公。ラストがとにかく秀逸。

超高層ハンティング……新宿の高層ビルの最上階にあるバー。『おれ』はオン・ザ・ロックを飲みつつ、ヤツの気配を探っていた――。ハードボイルド調の伝奇物、特にこれといった特徴はない。

羊の宇宙……羊飼いの少年と某超有名物理学者(誰かはすぐに解る)の宇宙についての会話。知識はないが、有り余る知恵で独自の宇宙論を展開する少年のキャラクターがとにかく素晴らしい。物腰穏やかだが、鋭い視点で少年の言葉を分析する老物理学者のキャラクターも良い。学者なら誰でも、こういうお孫さんが欲しいだろうなぁ、と思わせてくれる素敵な短編。

渓流師……昨日までの自分を捨て、釣りに出かけた男。彼は魚を相手にしながら、過去を振り返る――。私が、釣りに全く興味がない人間なためか、かなりイマイチ。

夢枕獏の単行本読むの初めてだったんですが、段落の多さに閉口。
とにかく改行、改行、改行です、しつこいぐらい。
一列目がほとんど真っ白って……何だかなぁ。
これが軽くて読みやすいということなんでしょうか?
私の場合、いちいちストップかけられてるみたいで疲れます。