つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

心の闇にようこそ

2005-08-17 23:02:50 | ミステリ
さて、ある意味ホラーだと思う第260回は、

タイトル:共犯者
著者:松本清張
文庫名:新潮文庫

であります。

推理小説界の巨星――松本清張の短編集です。
清張と言えば『天城越え』と『霧の旗』ですが、敢えてこっち。

共犯者……かつて共謀して大金を手にした二人の内の一人が、成功した後に相方の影に怯えて自滅していく様を描く作品。主人公の行動が理にかなっており、それが破滅を迎えるまでの過程にリアリティを与えている。秀作。

恐喝者……さほど悪人でもなかった男が、機会を得て恐喝者へと変貌する話。被恐喝者である女を愛するが故に、ずるずると深みにはまっていく主人公の描写は非常に説得力がある。

愛と告白の共謀……未亡人となった女が、夫の同僚で妻帯者である男との愛に落ちる話。自分の生活と体裁のためなら平気で女を犠牲にできる男の、エゴ剥き出しの姿が上手く描けている。しかしこの夫婦、似たもの同士だなぁ。(笑)

発作……小さな不満の積み重ねが突発的な殺意を生むまでの過程を描いた話。まるで、主人公自身の理性が目減りしていくのを示すかのように、病床の妻へ送る金額が減っていくのが怖い。

青春の彷徨……麻雀卓を囲んで語られる、生と死の物語。美しく死にたいと願う若い恋人達が、死を渇望する度に生を求める様はある意味可愛らしい。清張にしては珍しく、コメディタッチの作品。読後感も非常に爽やかである。

点……脚本家の主人公と作家崩れの男の接触。娘を連絡役に寄こして相手の情につけ込む所や、自慢げに自分の過去を吹聴する所など、男の造形はこれでもかというぐらい醜悪。ところで、『黒い犬の手記』は自作『黒い画集』のパロディか?

潜在光景……旧知の未亡人との間に芽生えた愛の末、彼女の子に恐怖を覚えるようになる男の物語。漠然と、男が子供の殺意を感じ取るのではなく、そこに一ひねり加えてあり、非常に完成度が高い。映画化もされた傑作。

剥製……鳥寄せの名人と名乗る老人、落ち目の美術評論家、過去を誇らしげに語るだけの男達の話。点と並んで、作者の嫌いなタイプの人間の描写がメイン。皮肉たっぷりのタイトルが好き。

典雅な姉弟……本書唯一のアリバイミステリ。トリックにあまりヒネリはないが、姉弟の関係と殺人の動機は上手く描かれている。オチもなかなか。

距離の女囚……詐欺罪で懲役刑となった女の、かつての夫への思いをつづった手記。女の思いというよりは、考古学に打ち込む男の姿を描くことがメイン。

以上、十編。
結論を言うと――

やっぱり清張は上手い

ってとこでしょうか。
推理小説というと、トリック主体で動機が弱い、というイメージが強い(偏見)のですが、清張は別。
心理劇が好きな方にオススメです。