つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

物足りない

2006-06-16 22:49:04 | 時代劇・歴史物
さて、読んだことは一度くらいあったなぁの第563回は、

タイトル:王昭君
著者:藤水名子
出版社:講談社文庫

であります。

前漢の元帝の時代に、匈奴の呼韓邪単于の閼氏(単于(君主)の妻)となるために長城のさらに北方のゴビ砂漠に送られた悲劇の女性として名高い王昭君を扱った物語。

ストーリーは、王昭君が村全員がご近所さんという狭い世界を嫌い、伯父の住む長安へと向かう。
そこで伯父から後宮の宮女になることを薦められ、伯父の家でも狭苦しい思いをしていた昭君は後宮へ。

しかし、300人からの宮女がいる後宮は皇帝ひとりの寵を受けようとする箱庭のような狭い社会。
まただらだらと続く毎日に、ここでも常に闊い世界を渇望する昭君にとっては匈奴行きは悲劇どころか望んでいた世界への一歩になるかもしれない。
誰もが口々に匈奴行きを憐れむ中、昭君は夫となる呼韓邪単于とともに匈奴の地へと向かった。

物語の大半が匈奴での昭君の生活で、最初の呼韓邪単于との生活、その跡を継いだ若鞮単于との生活、そして二人目の夫である若鞮単于が死ぬまでの一生を描いている。

また、時の皇帝が匈奴に送る女性を選ぶ際に絵師に似顔絵を描かせ、それから選ぶことや、昭君が絵師に賄賂を渡さなかったため、最も醜く描かれそれがために匈奴へ送られることとなったこと、当時の匈奴の習慣である父の妻妾を息子が娶ること、など基本的には、王昭君の伝承を忠実になぞっている。

とは言え、悲劇のヒロインとして名高いのは上記のとおりだが、この物語に関して言えば、昭君は好奇心旺盛で、当時の社会を支配していた儒教道徳や制度にとらわれない自由な発想を持つ、ある意味したたかな女性として描かれている。
そう言う意味では、この物語は通常の、ではない王昭君像が描かれていておもしろい。

また、若いころから3人の子供の母親となり、年を重ねるごとに成熟していく昭君の姿などもしっかりと描かれていて、それなりに読み応えのある作品になっているであろう。
どことなく、物足りなさは残るのが残念なところではあるが、物語としてはよく出来ているのではないかと思う。

ただ、ひとつだけ惜しいと言うか、せめて書き直してくれよと思うのが、カタカナ文字が一部に入っていること。
時代の雰囲気を出すためとかいろいろあろうし、中国ものということで難しい漢字や読み方などを多用し、こういうのが嫌いではない私はいいが、ふつうならなかなか読みにくいところもあるのだが、「チャンス」とか「ショック」とか、ごく一部で見受けられた。
そこ以外はそういったカタカナ文字はなく、しっかりとした文章になっているにもかかわらず、そういうところがあるのはいかがなものか。
この一部以外は全編通してカタカナ文字を使ったようなところがないだけに、不徹底が気になる。

まぁでも、総じては満足できる作品ではあるので、この一点のみで落第、と言うことにはならないが。