つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ネメゲトサウルスって、×かよっ!

2006-06-21 23:50:24 | ミステリ
さて、クロスレビュー継続中な第568回は、

タイトル:ガラスの麒麟
著者:加納朋子
文庫名:講談社文庫

であります。

加納朋子の連作短編ミステリです。
通り魔によって命を断たれた少女の内面、及び、彼女に関わった人々のその後の姿を描いています。
例によって一つずつ感想を描いていきます。

『ガラスの麒麟』……娘の同級生・安藤麻衣子が刺殺された。葬儀の席で出会った養護教諭・神野から故人の話を聞く内に、私の中に一つの衝動が沸き上がってくる。そして、唐突に口にしてしまった、自分は犯人のことを知っていると――。
この物語の狂言回し・野間と、探偵役の神野先生の出会い編。イントロからして、実は野間が犯人! とか、実は娘・直子が犯人! とか想像してしまうが、そういう犯人当てミステリではない。野間が挿絵を描くことになった童話『ガラスの麒麟』が麻衣子の作品だったり、葬儀の席で出会った神野も麻衣子にこだわっていたり、さらに、殺人事件直後から始まった直子の奇妙な行動も麻衣子絡みだったりと、野間が本書終盤まで麻衣子という少女にこだわることになる下地がしっかり書かれているのはさすが。ただ、最重要ファクターである『ガラスの麒麟』には納得しかねる部分があった。これについては後述する。

『三月の兎』……小幡は雪の中を歩きながら、教師ならではの悩みについて色々と思いを巡らせていた。理解できない存在に囲まれているのに、なぜ自分はこの仕事を続けているのか? ふと、半月前に亡くなった一人の生徒のことを思い出した――。
安藤麻衣子の担任・小幡の視点で、女生徒達の姿を描いた作品。孤高の存在だった麻衣子を慕い、同時に憎む生徒達の心理を探る内に、小幡自身も葛藤に放り込まれていくくだりはかなり上手く、読ませる。直子が再登場し、ガラスの麒麟を越える不思議ちゃんっぷりを披露しているのも見所。神野先生も登場するが、悩む小幡に福音を与える役と言うより、飽くまでミステリ解決のためだけといったところか。ラストはいい意味で反則。駄目だよ、悩める先生泣かせちゃ。(笑)

『ダックスフントの憂鬱』……高志はむくれていた。幼馴染みの美弥から電話がかかってきた、と思ったら、両親が仕掛けた茶番だったのだ。しかしその後、本当に美弥から電話が入り、助けて欲しいと頼まれる――。
珍しく、麻衣子の話が出てこない番外編(実はまったく無関係というわけではないが)。犬が怪我をしたという事件、その背後に潜む悪意……神野先生の推理が冴える。彼女がそれを感じ取れるのは、自分もまた近い部分を持っているからにほかならない。これは最終話で明かされる。それにしても、加納朋子って恋愛書くのだけは物凄く下手だなぁ……。

『鏡の国のペンギン』……安藤麻衣子の幽霊が出る。学校で、そんな噂がまことしやかに流れていた。そんな折、トイレで奇妙な落書きが発見される。「けいこく!」で始まるその文面には――。
麻衣子の死を巡って起こる事件。ホラータッチのイントロだが、すべては生者の為すことであり、きっちりミステリとしてオチを付けている。本当の幽霊話もそうだが、故人に対する複雑な想いを書かせたら、加納朋子の右に出る者はそんなにいない(弱気)。本書全体を支配する少女・麻衣子の一面が出てくるが、ここに至ってもその姿はまだおぼろで、はっきりと見るには次編『暗闇の烏』を待たねばならない。

『暗闇の烏』……窪田由利枝と付き合い始めて一年、山内伸也はついにプロポーズを決断した。彼女は純粋で、無垢で傷つきやすくて、誰かが守ってやらなくてはならない。だが、由利枝はそれを断り、自分は幸せになってはならない人間なのだと明かした――。
神野先生の元生徒であり、麻衣子同様保健室の常連だった由利枝が登場。由利枝の過去を知りたがる麻衣子、麻衣子から手紙を受け取った由利枝、由利枝の中にまだくすぶるものを感じる神野先生、三人の姿が並行して描かれる。由利枝が心に抱える罪を軸に、麻衣子という少女の実体がある程度明らかになる、ある意味本書中最も重要な作品。ただ、些細な問題が一つある、麻衣子のキャラクターがどうしても好きになれないという点だ。

『お終いのネメゲトサウルス』……本の打ち合わせの後、私は神野先生とばったり出会った。その場の流れで、彼女とともに麻衣子の母を訪ね、『お終いのネルゲトサウルス』という作品を見せられる――。
麻衣子を殺害した犯人が判明する完結編。麻衣子の暗部、神野先生の暗部を野間が読み解いていくという形式になっており、小幡先生も面白い役所で出演している。他人の傷口を開いてでも救いを求めた麻衣子の末路(敢えて末路と言わせてもらおう)はやはりそれしかないか……とダークな納得の仕方をしたのは秘密。連作短編のトリの見本のような作品だと思うが、ラストの救われ方は何だかなぁという気がしないでもない。

微妙な作品です。
面白かったかと聞かれたら、面白かった方……なのですが、引っかかる部分があるのも事実。
特に違和感を感じたのが麻衣子が書いたという作中作『ガラスの麒麟』、『お終いのネメゲトサウルス』。

どちらも麻衣子が書いたというには内容的に不自然で、短編全体をまとめる核である筈が、逆に浮いてしまって世界を壊してます。
麻衣子が自分を他の誰か(それが誰かは明かせませんが)と同一視して書いた作品、といった感じにしたかったのだろうけど、どうも上手くいってない。
特にネメゲトは謎解きの手がかりとしてあざとすぎる感じもあり……どうにも。

珍しく、ミステリ色の濃い作品です。
極めて自然に超常現象が発生する加納ワールドですが、今回はそれもありません。
合う合わないが激しいと思うので、ファンの方もそうでない方も慎重に。


☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
LINNの書いた同書のレビューはこちら