つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

この時代にしては

2006-06-03 16:09:23 | 小説全般
さて、初版1977年って古っ! の第550回は、

タイトル:白き狩人
著者:渡辺淳一
出版社:集英社文庫

であります。

ある総合病院の外科の勤務医である二番町眉子は、ある足の病気で入院してきた評判のバレリーナ、深町麗子の受持医となる。
その病気は悪性ならば足を切断しなければならないほどのもので、実際に悪性と判断され、深町麗子は片足を失ってしまう。

だが、それは眉子が計画したもの。
その足の美しさに切断する必要のない肢を切断し、あまつさえ、ホルマリン漬けにしたそれを自らのマンションに持って帰っていた。
それがもとで眉子は深町麗子の元婚約者に医療過誤委員会に提訴され……。

と、中身のいろいろと端折って大枠だけを書けばストーリーはこんなものか。
そうしたことを眉子と万里子、交互の日記形式という文体で描いている。

外科では珍しい(とこの時代はされている)女医の眉子は、肢を持ち帰ってその美しさを愛でたり、同性愛者で従姉妹や看護師の村形万里子、患者であった深町麗子などと関係を持ったりと、表面的には倒錯的な趣味・嗜好の持ち主として描かれている。

それも学生時代に義父や従兄弟に犯された経験や、そうした出来事や母などの姿を見てきて至った男にも女にも向けられる冷徹な憎しみなどの現れ。

けっこう物語の中には、眉子が万里子や麗子を抱いたり、その最中に鞭で打つなどサディスティックな描写などがあり、エロティシズムを感じさせるところがあるが、読み進めて眉子のキャラクターとしての理解が深まってくると、決してそれだけではない人間像が浮かび上がってくる。

また、狩人として万里子を獲て、そして肢の切断から麗子を狩って、手に入れたはずの眉子だが、最終的にはそうした獲物たちはそれぞれの理由……眉子が忌み嫌う結婚などの理由で離れていってしまう。
そうした中で、ただひとり、男でも女でもない、自らの立場、性を確立しようと立つ眉子の姿がとても印象的。

これも得意な過去や考え方を持つ眉子と、眉子に惹かれながらも結局見合い結婚を選ぶ平凡な女性として描かれている万里子の存在があってこそだろう。

渡辺淳一と言うと、名前は知ってるし、いろいろと評判は聞いていたこともあって、まるっきり読む気が起きなかった作家なのだが、これはかなり個人的に好きな話。
男性作家にしては……ってまた書いてるが、ほんとうにおもしろかった。
ただ、異色話題作、とあるのが気になるところ。
このひとの、らしい作品というのがどんなものなのか。
それでコケなけりゃいいんだけどねぇ。