つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

愛は時空を越える……?

2006-06-12 23:37:18 | SF(国内)
さて、人は苦手なものでも読まねばならん時がある? な第559回は、

タイトル:クロノス・ジョウンターの伝説
著者:梶尾真治
文庫名:ソノラマ文庫

であります。

タイムトラベルを扱った連作短編集です。
買った後に、第459回で相方が酷評していた作家さんだと気づきました……あうあう。
例によって、一つずつ感想を述べていきます。

『吹原和彦の軌跡』……フラワーショップに勤める女性・来美子を見初めたものの、二年以上挨拶することぐらいしかできなかった吹原和彦。しかし、そんな彼にも転機が訪れる。半ば強引にプレゼントを贈ったところ、彼女から食事に誘われたのだ――。
和彦が来美子を見かけた時、それを運命と断じた時点でゲンナリ。短編だから仕方がないのかもしれないが、にしても凄い思いこみっぷりだ。話としては、和彦が愛する久美子を助けるために時空を越える純愛物ということになるんだろうが……単なる独り相撲な気も。生体、物体を過去に送ることが出来るが、戻ってくる際に時間的誤差が生じるというクロノス・ジョウンターの設定はなかなか面白いけど。

『布川輝良の軌跡』……ゴミ袋の山の上に倒れていた男に、枢月圭は直感的に惹かれた。一度は別れたものの、青ざめた顔の彼を放ってはおけず、結局自分の部屋へと連れて帰る。だが、男にはいくつか奇妙な点があった――。
御都合主義全開の相思相愛物。もともとロマンスメインの作品自体苦手なんだけど、主役達がくっついても全然祝福する気になれない作品てのも珍しい。特に、圭が婚約者の男を否定する台詞を吐くところは最低……何様だお前。まぁ、彼に魅力を感じるかと言うと、正直疑問形ではあるが。クロノス・ジョウンターの欠陥に挑戦する話であり、布川パートで明かされる裏事情は凝っていて面白い。

『朋恵の夢想時間』……「時間とは、いったいどんなもの?」と聞かれた時、朋恵は「ちくちくしたもの」と答えていた。学生時代からずっと抱えていた苦い思い出があったのだ。だがある日、それを修正することを可能にする機械の存在を知る――。
思い出をなかったことにするために歴史を変えるなよ……とは思うものの、作品としては一番納得のいく話。朋恵が自分の中できっちりと過去に決着を付けているラストは好感が持てる。本作だけは〈外伝〉と言う位置づけになっており、クロノス・ジョウンター以外の物質過去射出機が登場しているのも興味深い。

『鈴谷樹里の軌跡』……小児性結核を患い、入院中だった十一歳の鈴谷樹里。彼女は一人の青年と出会い、突然この人と友達になりたいという衝動にかられる。しかし、彼は病状が悪化して帰らぬ人となり、十九年が過ぎた――。
はぁ、SF好きの優しいお兄ちゃんを想い続けて十九年ですか、そうですか。何と言うか、作者の願望が露骨に出てて醜悪としか感じない作品ですね。好きにして下さい、語る気も起きません。

主役全員、自分の理想を他人に重ねてるだけなので、恋愛物としてはまったく楽しめませんでした。
特にそれでうまくいってしまう話に関しては、ヘソが茶を沸かすぜって感じです。

SFとしてはかなり面白く、話を追う毎にクロノス・ジョウンターの情報が追加されていく点や、機械の欠陥を逆に利用した展開など、見所が多数あります。
また、連作短編らしく、クロノス・ジョウンターに関わった人々が複数の話にまたがって登場しており、時間的つながりも絡み合っています。
すべて読み終えた後にタイムテーブルを書き出してみるのも面白いかも知れません。

構成は素晴らしいのですが、ストーリーは最悪……ロマンスが私に合わないだけかも知れないけど。
でも、一目惚れの一言で済ますのもどうかと思うんですが……ありなのかなぁ。