さて、クロスレビューの片割れの第549回は、
タイトル:失踪HOLIDAY
著者:乙一
出版社:角川スニーカー文庫
であります。
第469回で紹介した乙一の短編と中編が1編づつ収録された作品集。
とりあえず、各話ごとに。
「しあわせは子猫のかたち」
世をすね……るところまではぎりぎり行ってないが、世間より自分の世界に閉じ籠もっていたい主人公の『ぼく』は大学進学を機に、伯父が所有している家へと引っ越す。
そこはしかし最近、前に住んでいた住人が強盗に襲われ、殺されていたと言う曰く付き。
とは言え、住むことになった主人公は奇怪な出来事に遭遇する。
消したはずのテレビで『大岡越前』が映っていたり、探していた爪切りがいつの間にかテーブルに置いてあったり……。
それはこの家で殺された前の住人雪村サキだった。
主人公とサキ、サキが飼っていた仔猫。
サキが撮った写真から窺える自分とはまったく正反対のサキ。苦手なタイプのはずなのにいつの間にかそこにいるのが当たり前になり……。
ストーリーはヒキコモリ一歩手前の青年が、きっかけとなるひととの出会いや関わりを通じて少し前向きになる。
そんなありふれた物語で、きっかけとなる人物が幽霊と仔猫ってだけの話。
……ではあるが、ストーリーはともかくかなり好みの静かなやわらかい雰囲気に溢れた良品。
話の途中で出てくるサキを殺した強盗とか、池で溺れ死んだ大学生の話とか、ミステリっぽいところはあるが、このあたりはどうでもよかったり(笑)
個人的にはかなり好きだが、主人公に拒否反応を示す可能性ありかも。
「失踪HOLIDAY」
6歳になるまで貧乏街道まっしぐらだったナオは、母の再婚をきっかけに大金持ちのお嬢さまに。
だがその母とも再婚後2年で死に別れ、血のつながらない家でいつ追い出されるかと不安な日々を送っているといつの間にか中学生。
そんな14歳のあるとき、再度の再婚をした父の妻、いわゆる継母とケンカをし、衝動的に家をでてしまったナオはそのまま行方をくらませてしまう。
使用人たちが住んでいる家の離れに住んでいる使用人のクニコの部屋に(笑)
最初は旅行などで長期間部屋を空けるときに部屋に侵入したと思われる人物……継母のキョウコの犯行現場を見つけるつもりだったが、ある出来事をきっかけに狂言誘拐を企む。
狂言、と思いながらもいつの間にかことが大きくなってしまい、一計を案じて解決を狙うナオだったが……。
これはナオの子供らしくもかわいいわがままさが、くすっと笑えてしまうところがなかなかよい。
特にネガティブな話題を否定する「断じてそういうわけではないのである」という下りが小さいころのところから使われており、「ぜんっぜん変わっとらんな、ナオ」と思えてかわいらしい(笑)
また狂言誘拐の真っ直中で、クニコとともに過ごす数日間、狭い部屋でふたり、こたつで生活する場面などもほんわかした雰囲気がある。
わがままではっきりしているナオとおっとりと鈍いクニコの対比もいい味を出している。
ストーリーは……正直、なんか拍子抜けというか、「あー、そういうことね」くらいかなぁ。
「あ、そう」とか「ふ~ん」よりはよっぽどかマシだけど。
しかし、男性作家にしては久々に味のあるいい雰囲気を醸し出す物語を作るひとだねぇ。
2作中どっちが好きかと言えば、「しあわせは子猫のかたち」のほうかな。
主人公はいまいちだが。
ともあれ、ほんっとうに久々に男性作家にしてはこれはオススメな部類に入る作品だね。
――【つれづれナビ!】――
◆ 『乙一』のまとめページへ
◇ 『ライトノベル一覧表(その2)』へ
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タイトル:失踪HOLIDAY
著者:乙一
出版社:角川スニーカー文庫
であります。
第469回で紹介した乙一の短編と中編が1編づつ収録された作品集。
とりあえず、各話ごとに。
「しあわせは子猫のかたち」
世をすね……るところまではぎりぎり行ってないが、世間より自分の世界に閉じ籠もっていたい主人公の『ぼく』は大学進学を機に、伯父が所有している家へと引っ越す。
そこはしかし最近、前に住んでいた住人が強盗に襲われ、殺されていたと言う曰く付き。
とは言え、住むことになった主人公は奇怪な出来事に遭遇する。
消したはずのテレビで『大岡越前』が映っていたり、探していた爪切りがいつの間にかテーブルに置いてあったり……。
それはこの家で殺された前の住人雪村サキだった。
主人公とサキ、サキが飼っていた仔猫。
サキが撮った写真から窺える自分とはまったく正反対のサキ。苦手なタイプのはずなのにいつの間にかそこにいるのが当たり前になり……。
ストーリーはヒキコモリ一歩手前の青年が、きっかけとなるひととの出会いや関わりを通じて少し前向きになる。
そんなありふれた物語で、きっかけとなる人物が幽霊と仔猫ってだけの話。
……ではあるが、ストーリーはともかくかなり好みの静かなやわらかい雰囲気に溢れた良品。
話の途中で出てくるサキを殺した強盗とか、池で溺れ死んだ大学生の話とか、ミステリっぽいところはあるが、このあたりはどうでもよかったり(笑)
個人的にはかなり好きだが、主人公に拒否反応を示す可能性ありかも。
「失踪HOLIDAY」
6歳になるまで貧乏街道まっしぐらだったナオは、母の再婚をきっかけに大金持ちのお嬢さまに。
だがその母とも再婚後2年で死に別れ、血のつながらない家でいつ追い出されるかと不安な日々を送っているといつの間にか中学生。
そんな14歳のあるとき、再度の再婚をした父の妻、いわゆる継母とケンカをし、衝動的に家をでてしまったナオはそのまま行方をくらませてしまう。
使用人たちが住んでいる家の離れに住んでいる使用人のクニコの部屋に(笑)
最初は旅行などで長期間部屋を空けるときに部屋に侵入したと思われる人物……継母のキョウコの犯行現場を見つけるつもりだったが、ある出来事をきっかけに狂言誘拐を企む。
狂言、と思いながらもいつの間にかことが大きくなってしまい、一計を案じて解決を狙うナオだったが……。
これはナオの子供らしくもかわいいわがままさが、くすっと笑えてしまうところがなかなかよい。
特にネガティブな話題を否定する「断じてそういうわけではないのである」という下りが小さいころのところから使われており、「ぜんっぜん変わっとらんな、ナオ」と思えてかわいらしい(笑)
また狂言誘拐の真っ直中で、クニコとともに過ごす数日間、狭い部屋でふたり、こたつで生活する場面などもほんわかした雰囲気がある。
わがままではっきりしているナオとおっとりと鈍いクニコの対比もいい味を出している。
ストーリーは……正直、なんか拍子抜けというか、「あー、そういうことね」くらいかなぁ。
「あ、そう」とか「ふ~ん」よりはよっぽどかマシだけど。
しかし、男性作家にしては久々に味のあるいい雰囲気を醸し出す物語を作るひとだねぇ。
2作中どっちが好きかと言えば、「しあわせは子猫のかたち」のほうかな。
主人公はいまいちだが。
ともあれ、ほんっとうに久々に男性作家にしてはこれはオススメな部類に入る作品だね。
――【つれづれナビ!】――
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