つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

天草降臨

2006-06-06 23:34:01 | 時代劇・歴史物
さて、そういえば時代劇もしばらく読んでなかった、な第553回は、

タイトル:闇の天草四郎
著者:中津文彦
文庫名:徳間文庫

であります。

日本の歴史上最も大規模な一揆反乱を扱った、時代劇ミステリです。
一揆軍の補給担当・千束杢右衛門の視点をメインに、凄惨な戦いと、その裏に潜む人々の思惑を描きます。

杢右衛門は胸をなで下ろしていた。
兵糧が底をつきかけていた時、ようやく支援の船が到着したのである。
すべては母方の遠縁である博多商人・島田善兵衛の協力のおかげだった。

善兵衛の背後には、闇の殿と呼ばれる謎の協力者がいる。
世の矛盾を正すために杢右衛門達を支援していると言うが、無論信用できたものではない。
だが、送られてくる食料によって一揆軍はさらに生き延びることが出来る――それだけは間違いがなかった。

一揆側から、幕府側から、オランダ側からと、多角的に島原の乱を見ることができる歴史小説です。

島原組と天草組の対立等、決して一枚岩ではない一揆軍の内情に悩む杢右衛門。
板倉重昌を派遣しながらも、ハナから無理だろうと割り切ってる松平伊豆守。
本国の指令と幕府の要求に挟まれて苦労するオランダ商館長クーケバックル。

主にこの三人の視点を切り替え、それぞれの立場の違いを描いていく展開は王道。
間に交じって、杢右衛門が一揆に参加することになった顛末、恥を嫌って突撃した板倉重昌の討ち死に、クーケバックルの部下カロンの苦労話等、個々人の物語もあります。
例によって、一揆軍の総大将・天草四郎君は飽くまで旗印として、ちょこちょこ顔見せ程度に姿を現し、最後まで見せ場なしに果てていくのですが……。

時代劇ミステリとしてはどうかと言うと、かなりイマイチ。
闇の殿の正体隠しが上手くいってないし、そもそも設定自体に魅力を感じません。
要するに、日本人好みの陰謀物にしてみました、といったところ。

単に、島原の乱を題材にした歴史小説として読むなら及第点……かな。
これといった特徴はありませんが、特に引っかかる部分もないです。
でも、もうちょっとドラマの盛り上げ方を工夫して欲しかったと言うか、要は平坦で面白みがないと言うか……。

全体的にまとまってはいるんですが、退屈な作品でした。
タイトルから意外な真相を期待すると肩すかしを食らいます、それも注意。