つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

雪の降る町を~

2006-06-13 22:18:40 | ミステリ
さて、演じるとしたら桃井かおりだよね、な第560回は、

タイトル:雪のマズルカ
著者:芦原すなお
文庫名:創元推理文庫

であります。

お初の作家さんです。
死んだ夫に代わって探偵稼業を始めた笹野里子の活躍を描く短編集。
例によって一つずつ感想を書いていきます。

『雪のマズルカ』……事務所の未払いの家賃と一丁のリボルバーだけを残して死んだ夫の後を継ぎ、探偵業に精を出す笹野里子。ある日、慇懃無礼な男から依頼の電話が入り、世田谷の高級住宅地に連れて行かれる。依頼人は言った、孫娘をまっとうな道に引き戻して欲しいと――。
シチュエーションがまんま『悪いうさぎ』なんですが……まあいいか。里子の紹介編の色が濃く、ストーリー的に見るべき所はない。ろくでなし揃いのサブキャラの中を里子が突き抜けていく、そんなところ。

『氷の炎』……里子は不思議な夢を見た。果てしなく続く氷河の上で、美しい女性が炎に包まれている夢。そんな折、一つの依頼が入る。里子は、依頼人が調査して欲しいと言った女性に見覚えがあった――。
美しき女優・凍野もえに支配された物語……なのだが、肝心のもえのキャラクターが物凄く薄い。最後にもえと依頼人の関係を明かすことで強引にまとめた感があり、物語の印象も希薄。もえの視点もあった方が良かったのでは? と思う。

『アウト・オブ・ノーウェア』……施設で育った二人の少年。彼らが成長し、組織の幹部となった時、里子の身に危険が迫る――。
妙に含みのある始まり方をしているが、軽い作品。メインとなる二人の男のキャラクターの掘り下げがまったく出来ていないため、単に里子の前に現れた敵キャラ以上の存在になっていない。おかげで、最後の里子と××の会話も薄っぺら。

『ショウダウン』……死んだ夫が夢に出てきた。彼が亡くなった直後のことを思い出し、里子の胸に苦いものが蘇る。そんな時、生前に夫が行っていた調査にまつわる依頼が飛び込んできた――。
この短編集で最も重要な話。夫が死んだ理由、夫の死亡時の状態、夫が抱えていた問題などが一気に明らかになり、里子は長年悩んでいた問題に一つの決着を付ける。真相判明後、夫に下す評価もシニカルでいい。だけど遠藤警部、公私混同激しすぎるぞ。いくら里子に惚れてるからって、疑いがあるならちゃんと調査しろ、馬鹿者。

良くも悪くも、主人公のキャラクターに寄っかかった話ばかりでした。
謎の事故死を遂げた夫に対する複雑な感情、何が何でも生き抜こうとするバイタリティ等、彼女だけに注目するなら悪くない作品集かも知れません。
でも、それ以外のキャラクターの扱いがずさんで、物語のパーツ以上になっていないのはどうかと。
まだるっこしい台詞が多い割には、全体的に説明不足でまとまりが悪いのもかなりのマイナス。

かなりイマイチでした……この方、短編に向いてないような気がする。
四作品を長編にまとめて、二時間ドラマとかにすると面白い、かも。