つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

このひとと言えば

2006-06-24 20:01:18 | 恋愛小説
さて、当然「世界ふしぎ発見!」だろうの第571回は、

タイトル:冬虫夏草
著者:竹内海南江
出版社:幻冬舎文庫

であります。

夢と希望を抱き、大学進学を機に都会に出てきた幸一郎は、大学生活の中でいつしか上京当初抱いていたものを見失い、卒業して就職してからも、ただアパートと会社を往復するだけの日々を送っていた。
そんな幸一郎がシャワーを浴び、鏡の前で髭を剃っていると突然、鏡の中に沙羅と名乗る紫の瞳が印象的な美女が現れる。

沙羅は幸一郎を鏡の中……幸一郎の心の中でもある世界へ導き、そこにある深層心理を見せつける。
忘れたい過去や思いを見せつける沙羅に、しかし幸一郎は惹かれていくが、沙羅は鏡の中の存在。
その代わり、のような昔は羊飼いの神様だったと言う老人パンや、登校拒否で家出少女の高校生伊織との出会いや出来事を経て、幸一郎は自らを再確認し、受け入れていく。

……結論から言うと、まぁ作家ではないしと言うことでぎりぎり及第点と言ったところだろうか。

ストーリー自体は、ある人物との出会いやその人物との関係で起きる出来事などを通じて主人公が自分を見つめ直し、成長していく成長物語。
ヒロインである沙羅やパン、途中出てくる薬屋の海亀屋など、様々な世界を旅し、様々な文化に触れてきた著者の持つ知識、感性と言うものが感じられるが、あくまでこれは設定上の問題であって、定番としてのストーリーに意外性や新鮮さを加味するには心許ない。

ただ、誰もが持っているであろう弱い部分をしっかりと真っ向から描いていることに関しては評価できる。

文章的には比較的簡潔明瞭で、読みやすく、過不足はない。
当然、そういう表現はいかがなものかと思わせられるところもないわけではないが、そこはやはり本職ではないことを差し引いてもらえればよいだろう。
そう言う意味では、表現力は十分と言える。

まぁ、甘めにつけて○……小説としては及第なんだけど……。

えーっと、この私に最後のオチを丸々予測させてしまう定番さは、どうよ? と言う気はするぞ(笑)
自他ともに認めるオチなんてこれっぽっちも予想しない感性派の私が、ラストのオチを読んで、

あ、やっぱり……。

なんだもんなぁ(爆)
まぁ、そういう安心感は嫌いではないが、なんかねぇ……。