つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

表裏一体

2006-06-17 00:05:40 | 伝奇小説
さて、まぁカテゴリはこっちだろねの第564回は、

タイトル:外法陰陽師(一)
著者:如月天音
出版社:学研M文庫

であります。

時は平安、一条天皇の御代。
中つ国(中国)から訪れ、無法地帯と化している平安京の右京に居を構える陰陽師の漢耿星あやのこうせいは、おっとりとしたいかにもなお人好しの藤原行成に、ときの関白藤原道隆が呪詛を受けているらしいことを告げる。
中つ国で国を滅ぼしたとして太上老君から罰としてひとと交わりながら生きていくことを命じられた耿星にとって、東の島国の権力争いなどには興味はない。

しかし、耿星のお目付役の黒猫の羅々の脅迫まがいの言葉から、耿星は後宮へ忍び込み、呪詛の潜り込み調査を行うことになる。
そこで繰り広げられる一条天皇を中心とした藤原道隆の子伊周とその妹で中宮の定子、一条天皇の母の東三条院と藤原道長の関係の中から、行成が言う呪詛の大元を突き止める。
その呪詛を行っていたのは……。

平安時代を舞台にしたファンタジー、ではあろうがどちらかと言うと伝奇小説っぽい感じがしたので、カテゴリはこちらに。

外法陰陽師とは、当時の政府の一機関である陰陽寮に伝わる日本的な陰陽道ではなく、中国から来た主人公の耿星が陰陽道に似て非なる術を使うことから、こういう言い方をしている。
とは言うものの、単に毛色が違うだけでさして目新しいものではない。
外法、なんてのでどんなものかと期待しないほうが身のため。

さて、評価としては時代ものらしく、文章はまず及第。
昨日の「王昭君」のように、気をつけろと言うべきところはない。
まぁ、「四尺(120センチ)」などと言う注釈には目をつぶろう。

キャラ設定は、夢枕獏以来の王道……と言うか、夢枕獏の「陰陽師」をちょろっとだけひねった程度の耿星と行成。
まぁこのあたりはどうしようもないかと思ったりもするけどね。

ストーリー展開は、まぁ伝奇小説と判断したわりには読めるほうだろう。
一条天皇に中宮定子、その兄伊周と言えば、清少納言の「枕草子」を読んだことがある人間にとってはおなじみ。
さらに、何段かは忘れたが、ストーリーの中に「枕草子」で描かれる場面……中宮とその妹の東宮妃、両親が一堂に会し、それを清少納言が屏風の間からその姿を眺める……など、読んでいるとにやりとさせられる場面などが散りばめられていて、そう言う意味ではいい感じだし、「枕草子」を知らなくても、そうした場面を描くことで時代の雰囲気を演出することが出来ている。

総じて、悪くない……ように思えるのだが、やはりダメなところはある。
それはストーリーではなく、設定。
この時代の貴族の美意識は、ふくよかな瓜実顔が美人の条件。
描写の中で、中宮定子や伊周などはそうした表現で、中宮の女房などは伊周などがいかにすばらしいかを語っていたりする描写がある。
にもかかわらず、主人公の耿星の周囲では、現代的な美人とされるような耿星や他のキャラが「美しい」と表現されている。
それが耿星の感性として描かれている場合もあり、それならいいのだが、行成や道長など、当時の美意識を備えていると考えられるキャラでさえ、耿星と同様の美意識を備えているように描かれている。

きちんと統一しなされ。
時代背景をきっちり描くなら耿星以外の美意識を合わせるべきだろうし、逆に現代的な美意識にすべてを変えると言うほうがすっきりすることもあろう。
どうせこの時代の常識なんかわからないさと侮っているのならば、バカにするのも甚だしい。
……まぁ、さすがにそういうことはなかろうが……。

細かいことだと思うかもしれないが、知っているほうにしては極めて不自然に見えて、それが読んでいてもずっとつきまとう=そういう描写がそれなりにあるのだから仕方がない。

だが、そうしたいくつかの問題点を加味しても、客観的に見て、伝奇小説としては読み応えがあるのではないかと思う。
あまり聞かない文庫の名前だし、ラノベか? と最初は思ったが、それだけではない力がしっかりと感じられる。

ただし、極めて個人的な趣味及び好みで、落第決定。
中宮定子様を悪役にするなど、以ての外である(笑)。
まぁ、悪役な定子様もちょろっとは気にならないでもないが……(爆)