つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

けっこう当たりが続くなぁ

2006-06-11 23:05:22 | ホラー
さて、一見さん街道まっしぐらの第558回は、

タイトル:水無月の墓
著者:小池真理子
出版社:新潮文庫

であります。

多いねと言われてもやっぱり短編集。
8編の短編が収録されており、いつもどおり各話ごとに。

「足」
週末、頻繁に出向くなんてと思いながらも「私」は妹夫婦の家へと向かっていた。
結婚もせず、妻子のある男とだらだらと続けている関係や、小さいころに好きだった筆子おばさんのことを思い出しながら妹夫婦の家に辿り着く。
その思い出の中にひとりお風呂に入っているときに見た、赤いペディキュアの塗られた足……それは子供のころに事故死した筆子おばさんのもの。
そしてそれは、妹夫婦の家で姪の舞子がおなじようにひとりでお風呂に入っているときに見た、「私」の足。

淡々と進むがラストでぞくぞくするあえかな恐ろしさと余韻がある。

「ぼんやり」
タイトルどおりにぼんやり者のナオと、唯一の友人である康代、そしてその娘のこずえの話。
康代はいつも家でイヤなことがあるとこずえを伴ってナオの家を訪れていたが、あるときは酷く取り乱し、こずえにさえナオがほんとうのお母さんになってほしいと言われる始末。
その翌日、こずえを伴って朝から散歩に出たナオは夕刻家に戻ってみるとそこではお通夜が営まれていた。
逆上した康代に殺された自分とこずえのお通夜に。

殺されたことにも気付かないぼんやりとはどういうもんだと言う気はしないでもないが、これも余韻の豊かな良品。

「神かくし」
母の七回忌に仙台の実家でその手伝いをしていた雪は、ことあるごとに小言を言い、母の悪口を死んだいまになっても言い続ける登代子おばさんの相手をしながら、いつか婚約まで進んだひとの失踪の話を聞かされる。
雪の周囲で起きる行方不明事件……発端は小学校のクラスメイトの伸子で、肉屋のご用聞きの青年、婚約者……そして七回忌の翌日、登代子おばさんが行方不明になる。
通称きつね神社で始めた鬼ごっこに端を発する神かくしの能力を持ってしまった雪の話。

恐ろしさよりもひとりの女性が持つ悲哀や諦めと言ったものの印象が強いが、ラストできつね神社に捕らわれている神かくしにあった人たちを見る雪の姿が印象的。

「夜顔」
病気がちの身体を丈夫にするために勧められて始めた散歩の途中で見つけた家と、そこに住む3人家族。
身体のせいで親しい友人も持てなかったわたしに出来たかけがえのない友人たちだったが、弟の事故で帰省した夏休みから戻ってきたわたしを待っていたのは、わたしが出会う前に心中していた友人である3人家族の姿だった。

ラストに、わたしもおなじように自殺し、さぁ自分を見つけてくれるひとを求め、待つ姿がけっこう怖い。

「流山寺」
死してなお、マンションでひとり暮らしをしている妻の元へ帰ってくる夫と、それを待ちこがれ、いままでどおりの生活を壊さないように、帰ってくる夫を待ちわびる妻の物語。
ある種の定番の物語だが、妻の姿や心理描写が細かく、その悲哀がうまく描かれている。

「深雪」
ある別荘地の管理事務所で10日間の短いアルバイトをすることになった保夫は、その気楽なアルバイトの最終日、雪のせいで管理事務所に足止めを食ってしまう。
そこへかかってくる1本の電話。事務所が管理している別荘のひとつで、そのうちその別荘を訪れるひとがいるから案内してほしいと頼まれる。
かくして現れた男を案内したその別荘では過去に男女が心中したところだった。

不気味さを加味するキツネの鳴き声の扱いが雰囲気をより深くしている。

「私の居る場所」
子供のころにお使いに行った際に、あるはずの家がなく、ひともいない世界に迷い込んだ加奈子は、姑が作ったおはぎを届けるためのお使いに出た。
そしてあと少しで目的の家に辿り着くときに、子供のころとおなじように、自分ひとりしかいない世界に迷い込む。

昔話にでもありそうな異界に迷い込む物語だが、ラストの一文が印象的な作品。

「水無月の墓」
アルバイトをしていたバーで知り合った阿久津の命日を1週間後に控えた日に、大学教授の阿久津の助手をしてた梶原から電話があり、久しぶりに逢う約束をする。
不倫関係にあった阿久津と一緒にいたときからその死に当たって様々な助言などをしてきた梶原は、約束をした料亭の一室で、阿久津が死んだ事故のとき、その車の助手席にいたと告げる。

これもラストに梶原が去り、それを追いかけていく主人公が最後に料亭の座敷で見た人影に「先生」と呼ぶその一言がいい。

全8編だが、総じてどれもしっとりと落ち着いた雰囲気の中に一瞬鳥肌が立つような印象的な場面や文章があっておもしろい。
いちおうホラーという分類にはしたが、おどろおどろしい感じや明確な恐怖、と言ったものではなく、昔話や寓話とかにあるようなあえかな恐怖、とでも言おうか、そんな感じのものがある。

またどの作品も余韻があり、ものによってはどっぷりとそれに浸かることが出来る。
裏表紙の解説はほとんどアテにならないと思っているのだが、これはその解説を裏切らない個人的には好みの短編集だね。
でも、ホラーと言うことで、すんごい怖いのを期待しないほうがいいだろう。


☆クロスレビュー!☆
この記事はLINNが書いたものです。
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