つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

密航は犯罪です

2006-06-26 23:23:31 | ミステリ
さて、このところ読む作家がマンネリだなと思う第573回は、

タイトル:名探偵は密航中
著者:若竹七海
出版社:光文社文庫

であります。

若竹七海の連作短編ミステリ。
横浜~倫敦行きの客船・箱根丸の上で起こる様々な事件を描きます。
例によって一つずつ感想を書いていきます。

『殺人者出帆』……酒癖・女癖が悪く、誰にでも借金を申し込む嫌われ者・山城新吉が殺された。容疑者として箱根丸に乗船予定だった内藤五郎の名が浮かび上がるが、新聞記者の舟木は彼の犯行に疑問を抱く。
一応、犯人当てミステリ。ただ、真相については……をいをい、と言ったところ。その後の話にも登場する人々の紹介編でもあるが、どのキャラクターも印象が薄い。

『お嬢様乗船』……終着地・倫敦で結婚する予定の山之内男爵令嬢が、上海にて脱走騒ぎを起こした。親の決めた理不尽な婚姻に反発したのだ。随行者の心配をよそに、彼女は再度脱出計画を練るが――。
本作で一番キャラの立っている(それでも薄いが)山之内初子嬢&沢田ナツ大活躍の巻。脱出が成功していたら、自分はもっと素敵な人生を送っていたとナツを脅すお嬢様も凄いが、そんなお嬢様を手玉に取ってしまうナツはもっと凄い。手紙の罠がちと単純だったものの、ミステリとしてはすっきりとまとまっている。

『猫は航海中』……博打で大勝し、いい気分で酔っぱらっていた池澤二郎が自室で殺害された。空き部屋となった彼の部屋は一匹の猫が占有することになるのだが、そこに幽霊が出るという噂が立ち始める――。
猫の視点で情報を集めていくというミステリ。真相については……間違えるか? というのが正直な所。見た目で騙されても、しゃべった瞬間にバレると思うのだが。

『名探偵は密航中』……開き直って金を使いまくる初子を妬ましく思う裕子。裕子のセンスに嫉妬する初子。仲が良かった筈の二人は、ある二人の男の出現によってぎくしゃくし始める――。
古典的なワントリック物。特に印象はない。

『幽霊船出現』……藤波啓介事務員は人けのない甲板で、前方から見知らぬ船が迫ってくるのを目撃した。だが、衝突を覚悟した瞬間、向こうの船は幻のように消え去ってしまう――。
一押し。暑い船上で各人が怪談話を披露するという趣向で、ミステリというよりホラーに近い。どの話もショートショートとして良くできているのだが、何と言ってもラストの話が秀逸。さて、本当のところどうだったんでしょう。(笑)

『船上の悪女』……悪戯ばかりしている子供が、睡眠薬を大量に飲んで階段から転げ落ちた。意識不明の重体にも関わらず、父親の態度は極めて冷たい。手当てを担当していた神谷桜は子供の手帳を発見するが――。
これまた、真相がかなりイマイチなミステリ。父親の不審な行動に関するヒントがゼロで、最後の最後に実はこういうことだったんだ、と一気に明かして終わる。

『別れの汽笛』……男を食い物にして世界を渡るマダム・ミネルバ・ハザードが仮装パーティを開いた。しかし、その最中に停電が起こり――。
初子が決断する、そのためだけの話。

中途半端な作品でした。
シチュエーションは『海神の晩餐』に似ているのですが、こちらはあれに輪をかけてキャラクターが薄い。
ミステリ色は濃くなっているものの、代わりに船旅の情緒が大幅に削減されてしまい、はっきり言って退屈。
で、ミステリとして出来がいいかというと……これがまたひどくて。

『幽霊船出現』以外、褒めるところが見つからない作品でした、残念。
ただ、『海神の晩餐』と違ってラストが極甘なので、ハッピーエンドが好きな人にはこっちの方が向いてる……の、かも。



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