つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

久々にクロスレビュー

2006-09-13 23:50:46 | ホラー
さて、意図せずして拾ってきた第652回は、

タイトル:水無月の墓
著者:小池真理子
出版社:新潮社 新潮文庫

であります。

小池真理子のホラー短編集です。
表題作を含む8編を収録。
買った後で相棒が読んでいたことを思い出しました。(このパターン多いな)

『足』……頻繁に訪れるべきではないと思いつつも、『私』は今週もまた妹夫婦の家へと向かっていた。不倫関係にある浜田が不在の時の寂しさを紛らせてくれるのは妹の家庭だけだったのだ。ふと、今は亡き叔母・筆子のことを思い出す。彼女もまた、『私』の家によく出入りしていた――。
現在と過去が交錯し、今の『私』と筆子おばさんが少しずつ重なっていく展開は見事。ほとんど完璧に重なったところで、ぶれていたピントを合わせるように、さっと終わらせているのもいい。

『ぼんやり』……喧噪を嫌うナオは、小さな一軒家を借りてぼんやりと生きていた。尋ねてくるのは、学生時代の友人・康代とその娘・こずえ、そして大学生の和春だけ。しかし、康代は来る度に夫の愚痴を撒き散らして、静かな時間にひびを入れる――。
どこか昔を懐かしむような語り口調が印象的。康代の傍若無人さが目立つが、影の薄い和春にもラストで面白い役回りを与えているのは上手い。真相が判明してもぼんやりしたままの主人公の姿が、奇妙な余韻を残す。

『神かくし』……母の七回忌、『私』は以前から折り合いの悪かった父方の叔母に嫌味を言われた。それだけならまだいいが、話は『私』の縁談、そして後妻だった母の中傷にまで及び――。
感情を抑えて笑うことで人との衝突を避けてきた主人公と、彼女の周囲で起こる謎の神隠し事件を描く、非常にホラーらしい話。素直な筋の話だが、ラストの雰囲気作りが素晴らしく、主人公の悲壮感がひしひしと伝わってくる。一押し。

『夜顔』……生来病弱で孤独だった『私』は、ある日出会った三人家族と触れ合うことで安らぎを得た。が、交通事故で重傷を負った弟の回復を祈る内に、再び心身に異常をきたしてしまう。そんな時、夢の中に彼らが現れて――。
寂しがりや達の饗宴。いわゆる『終わりなき連鎖物』で、ホラーはバッドエンドじゃないと駄目! という定義を用いるなら、本書中最もホラーらしい作品。でも、この人の書く話ってあんまり怖くなかったり。

『流山寺』……『私』は今でも十二時には帰宅するようにしている。夫が帰ってくるかも知れないからだ。彼はもう生者ではないが、自分が死んだことに気付いていない――。
妻が夫に対する想いを語る前半はいいが、ぼやかしたような後半部分はイマイチ。今まで(前の四編)のこともあって、ちょっと裏読みしてしまったが、あまり深く考えなくても良かったようだ。(爆)

『深雪』……大学生の保夫は、十日間で十万円という破格の短期アルバイトを引き受けた。別荘地内を巡回し、電話番をするだけの楽な仕事。だが、よりによって最終日に大雪が降り、彼は管理事務所で朝を待つハメになってしまう――。
ストレートな幽霊物。深夜の電話、豪雪を越えて来る訪問者、といったお約束の小道具を使い、色々期待させてくれるが、特に大きな仕掛けはなかった。ただ、サブで登場する狐がいい味出している。

『私の居る場所』……子供の頃、『私』は奇妙な世界を訪れたことがある。ある筈の家がなく、人の姿も見えない静寂の地。あの時は帰ることができたが、今度は――。
ちょっとしたヒネリを加えた異界訪問譚。一度目の転移は単なる異常現象のように描かれているが、二度目の転移の際、それが主人公の心理に起因していることが判明する。ラスト一行がかなり秀逸。

『水無月の墓』……ある雨の日、偶然にも『私』は阿久津と出会った場所を訪れていた。かつて不倫関係にあり、事故で失った男。二十数年が過ぎ、彼との関わりは綺麗さっぱり消えてしまった。だがその晩、彼の助手であった梶原から電話があり――。
以前読んだ、『康平の背中』(『七つの怖い扉』収録)に似ているな……と思ってたら、尻切れトンボなとこまで同じだった。結局何なの? と言いたくなるこのテの作品はあまり好みでない。

スプラッタではなくサイコ系のホラーでした。
じわじわと読者を追い詰めていくことより、丁寧に主人公の心理を追っていく方に重点を置いているため、ラストで不条理さを感じることが少ないのは結構好み。
ま、その分、筋が読みやすかったり、全然怖くなかったりするんですが、雰囲気作りが上手いのでさほど気になりません。ホラーというジャンルにこだわらなければかなり楽しめるのではないかと。

これは絶対読んどけ! と言うほど突き抜けた当たりはありませんが、読める作品の多い短編集です。オススメ。
ちなみに、LINN君の記事はオチまで喋っちゃってるので、未読の方はご注意下さい。(手遅れ?)


☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
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