飛び出せ! 北の宇宙基地

北の地である北海道で、人工衛星の開発などを行っている 北海道工業大学 佐鳥研究室の活動日記です。

宇宙関連情報: 人工衛星の熱設計の考え方

2010-01-20 07:00:00 | 北海道衛星
★01:人工衛星の内と外の温度

 宇宙の温度は、ビッグバンを仮定しますと、宇宙誕生から3分後に10億度
でしたが、30万年後は3000Kまで下がりました。さらに宇宙の膨張に伴
い、今日では約2.75K(約-270.4℃)の温度まで下がっています。
それは、1965年アルノ・ペンジャスとロバート・ウィルソン等によって観
測された背景放射で説明されます。

 そして、この様な宇宙に人工衛星を飛翔させると、地球近傍では次の3つの
ふく射、反射エネルギーの影響を受けます。
(1)太陽光のふく射エネルギー、
(2)地球アルベドと呼ばれ、太陽光の地球表面での反射エネルギー、
(3)地球赤外ふく射と呼ばれ、地球表面温度約288K(約15℃)からの
ふく射エネルギーです。
これらのエネルギーは、1m2当り人工衛星に太陽光で約1400W、地球ア
ルベドおよび地球赤外ふく射では高度500kmにおいてそれぞれ約350W
と約237W入射します。地球近傍ですら、人工衛星は複雑な外部熱環境に晒
されます。惑星探査では、太陽光のふく射エネルギーは地球近傍に比べ水星で
約10倍、火星では2分の1、そして木星では27分の1と、いっそう厳しい
変化に晒されます。

 ここで、直径10cmの球の宇宙空間における温度を、表面が白色と黒色の
場合について考えてみます。球は2.75Kの温度場に置かれ、かつ球の半分
は太陽光に晒されています。この時、球が太陽光を吸収する割合、太陽光吸収
率αSは黒色で約96%と大きく、白色では約24%と小さく、また、球自身
のエネルギーを宇宙空間に放出する割合、全半球放射率εHは黒色、白色共に
約86%と大きい値を有しています。その結果、温度は黒色で20℃、白色で
は-73℃になります。つまり、宇宙での物体の温度はαSとεHの熱物性に
よって定まります。人工衛星もこの原理を利用して温度制御を行っています。

 次に、少し複雑になりますが人工衛星の内部温度についてお話しします。人
工衛星に搭載される電子機器類は、地上で使用される電子機器と同様に-10
~60℃の温度範囲内に収められて、はじめて正常に動作します。そのため、
人工衛星は大型・小型に係らず動作温度範囲内に収める熱設計が必要になりま
す。熱設計の基本的な考え方は、ラジエータと呼ばれる放熱面を除き、衛星全
体を多層断熱材MLI(Multilayer Insulation)で包んで温度を制御します。

 MLIは、太陽光、地球アルベド、地球赤外放射等の外部から衛星への入熱
と搭載機器の発熱等の内部から宇宙への放熱に対して断熱する役目をします。
両面アルミ蒸着ポリエステルフィルムとポリエステルネットを交互に10層程
重ね合せ、その最外層にアルミ蒸着ポリイミドフィルムを1層付加し、構成さ
れます。最外層のフィルムは耐熱性、耐電子線・陽子線性、耐紫外線性に優れ
た宇宙材料です。MLIの断熱性能は90%以上と優れ、軽量で扱いが容易で
す。

 一方、ラジエータは搭載機器の発熱を宇宙空間にラジエータを介して放熱し、
機器の温度を制御する役目をします。ガラスや高分子フィルムに銀蒸着を施し
た材料が用いられ、太陽光を反射し、かつ全半球放射率が大きい特性を有して
います。最近、材料自身の温度で全半球放射率が高温で大きく、低温では小さ
くなる放射率可変デバイスSRD(Smart Radiation Device)が開発されてい
ます。ペロブスカイト型Mn酸化物を基材にしています。SRDを使うことに
より、機器が高温の時多くの熱を放熱し、低温の時には放熱が抑えられヒータ
電力の削減が可能になります。

 これまで、人工衛星の温度についてお話をしてきましたが、私たち自身が宇
宙と結ばれていることを、想い起こしてください。雲一つない冬の夜、外に出
ますと体温がいっきに奪われます。それは放射冷却といい、体が低温の宇宙と
ふく射交換を行っているためです。さらに言うならば、太陽系は直径約10万
光年、厚さ5,000~15,000光年の天の川銀河系の中心から約16,
000光年のところで、速度250km/sで動いています。そして、私たち
は公転30km/s、自転0.5km/sの地球の上に立っているのです。

(大西 晃、おおにし・あきら)

出典: ISASメールマガジン第278号