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第212回 壮大なウソ

2017-04-14 | エッセイ

 映画「風と共に去りぬ」を劇場で観たのは、中学生の頃でした。アメリカでは、戦前に封切られたものをリバイバル上映してたことになります。史上最高の傑作などと謳われるだけあって、息の長さに驚きます。

 その割には、例のアトランタの大炎上シーンくらいしか記憶になく、ストーリーも殆ど覚えてません。(今でもそうですけど)まして、中学生の当時、男女の機微には、まるっきり疎かったですから・・・
 主役のビビアン・リーについても、実は、あまり印象に残っていません。ただ、当時の記憶では、とにかくこの映画で、彗星のごとく、華々しくデビューしたスゴい女優だというイメージと知識だけが残ってます。こんな女優さんでした。

 ところが、「世界ウソ読本」(M・ハーシュ・ゴールドバーグ 文春文庫)を読むと、事実は、どうも違う。「ウソ」というのは、言い過ぎにしても、映画ファンの多くが、巧妙ななキャンペーンに乗せられた、というのが真相のようです。

 仕掛人は、ハリウッドの腕利きプロデューサーのセルズニックという男。

 小説の映画化権を、当時としては破格の5万ドルで購入するところから話題作りは、始まりました。レット・バトラー役のクラーク・ゲーブルは、すぐに決まったが、緑色の目をした、美しく強情なスカーレット・オハラ役の女優がなかなか決まらない。

 そこで、セルズニックは、ピッタリの女優を見つけるために、全国キャンペーンを実施すると発表。キャサリン・ヘップバーンなど、名だたる女優も応募してきますが、あえなく落選。

 さらに、くまなく探すため、5万ドルが追加投入されて、誰でも応募出来るオーディションが全米各地で、準備期間の2年目ぎりぎりまでおこなわれる騒ぎとなった。

 撮影開始が近づき、スカーレット熱が高まる中、セルズニックが、ついにスカーレットを見つけた、と発表しました。

 それによると、山場の炎上シーンの直前に、ビビアン・リーというイギリスの女優が、セルズニックの弟(ハリウッドで、タレントエージェントをしている)に連れられてやってきた、というのです。「炎のような激情を秘めた」目を持った彼女を一目みて、セルズニックは、彼女こそ、スカーレット役だと確信し、3回のテストで採用を決めた・・・・・・と「発表」されました。

 発表通りだとすれば、いかにも劇的な出会いですが、実は、ビビアン・リーは無名ではありませんでした。イギリスで数多くの舞台を踏んでおり、何本かの映画にも出演歴があり、その美貌と演技力は、数多くの人の注目を集めていた「女優」です。

 その上、セルズニックが、ビビアン・リーに紹介されたのは、炎上シーンの撮影が終わり、セットが取り壊された後だったと言う事実があります。

 通常は、メモや日記をきっちり残しているセルズニックが、リーの抜擢に関しては、何も記録を残していないのも不自然。

 結局、リーの採用は、早くから決まっている「出来レース」で、一連の「騒動」は、映画を大成功に導くためのキャンペーンであった、と理解すれば、腑に落ちる。そして、まんまと映画は、大成功というのが、本書の謎解き。

 今どきのテレビ業界を見ると、とにかく視聴率を取らんがためのミエミエで、卑しく、小手先の仕掛けが目に余る。ドラマの主役を、あちこちのつまらない自局の番組にゲスト出演させての話題作り・露出、番組宣伝丸出しの「特別番組」放映、果ては、新聞のテレビ欄での宣伝などなど。

 それと比べて・・・という話になりますが、「風と共に去りぬ」では、映画ファンのほとんどが、乗せられたというか、騙されていたことになります。でも、ウソもこれくらい壮大につかれると後味は悪くない、と思います。

 ハリウッドという(かつての)夢の世界のスケールのデカさにあらためて感心します。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。

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