若い頃、仕事でニューヨークに行ったことがあります。中心部は摩天楼だらけで、見上げても空が、ほんの少ししか見えなかったのが印象に残ってます。
海外の乗物が好きなので、地下鉄にも乗ろうと思ったのですが、当時は治安が悪く、地下の薄暗い改札口から、こわごわ地下鉄の駅の構内を覗くのが精一杯で、いまだに残念無念。
さて、「An Englishman in N.Y.」(Colin Joyce NHK出版)という本があります。ガーシュイン作曲の「パリのアメリカ人」ならぬ「ニューヨークのイギリス人」というわけで、イギリス人の著者が、2010年まで滞在したニューヨークのあれこれ話をまとめたものです。
新書判サイズで、1話4~5ページのエッセイが、25話ほど収録されています。活字も大きめ、行間もゆったり取って、ちょっと難しい単語には注釈付き。私みたいに、やさしい英語なら触れてみたいというシニアには、そんな工夫がありがたい。
その中から、2つほど、興味深いエピソードをご紹介します。
<気まぐれな地下鉄>
ロンドンと並んで、ニューヨークの地下鉄もよく知られています。最近は車両もこんなにきれいになり、治安も改善しているようです。
でも、著者にはいいたいことがあります。それは、その運行がかなり「気まぐれで、いい加減(=erratic)」ということです。
例えば・・・
同じ駅なのに、路線によって駅名が違う。
Q路線では、”Atlantic Avenue"という駅名が、R路線だと、"Pacific Street"になると言う具合。
逆に、4つは、まったく別々の駅なのに、駅名はすべて同じで、"Canal Street"のような例も挙げられてる。
電車の到着ホームもかなりいい加減。3番線の電車が、4番ホームに入ったり、上りの電車が下りのホームに入ったり(もちろん、その逆も)が、ごくありふれた現象のようです。
割合、きっちりと運行されてるイギリスから来ると、この「気まぐれ」には、やっぱり馴染めないみたいですね。
でも、お奨めとして紹介されてるのが、30日間有効パス。ニューヨーク市の交通機関(地下鉄、バスなど)が、30日間載り放題で、89ドルだという。一日300円ほどですから、ニューヨークに腰を落ち着けて、じっくり見て回ろうという向きには、便利そう。
<ダイヤル311>
日本の110番、119番に当る電話番号は、アメリカでは、911、というのはよく知られています。私も知らなかったのですが、「311」という特別な電話番号があるんですね。
ニューヨーク以外の大都市でもやってるとのことですが、行政が提供している24時間の電話サービスです。警察、消防を呼ぶほどではないけれど、日常の困ったことの相談やら苦情申し立てなんかが出来る、というんですから、なかなか便利そう。
道路に穴が空いてる、ゴミの分別方法を教えてくれ、家主が約束の修理をしてくれない、などなど扱う案件は幅広いです。ニューヨークの場合、平日平均で、5万人からの電話を受けるというから、その盛況ぶりにも驚きますが、なかなか気の利いた行政サービスですね。
実際に、著者が相談したのは、騒音問題。
住んでいるアパートメント1階のバーが、連日、朝の4時頃まで大音量で音楽を流し続ける。困り果てた筆者が、311に相談すると、ネットで正式に苦情を申し立てる方法も教えてくれたが、電話を受けたオペレーターが、近くの警察に通報しておく、と気を利かせてくれました。
あまりアテにもしないでいたら、1時間もしないうちに、警官がそのバーに来て、警告を与えてくれて、音はすっかり小さくなったそうだ。その後しばらくして、客足が落ちたのか、そのバーは、閉店に追い込まれた、というのがオチで、締めの文章は、”Thank you 311.”
その気持ち、よくわかる。
いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。
<追記>同著者による「Let's England」を後ほど「第317回 英国暮らしの傾向と対策」で取り上げています。リンクは<こちら>です。合わせてご覧いただければ幸いです。