前回、前々回と、日本の有名人の奇人ぶり、奇行を紹介してきました。今回は、再び、世界に目を向けて、いろんな国の有名人の奇行を紹介しようと思います。主な拠り所は、「世界変人型録」(ジェイロバート・ナッシュ 草思社 1984年)。世に奇人・奇行のネタと、それを渉猟するマニア尽きまじ、といった感があります(私もマニアのひとりかも知れませんが)。
さて、著者のナッシュに寄ると、奇人たる条件がいくつかあって、
1.尊敬されることこそないが、どこか人々に愛され、畏怖される人間でなければならない
2.奇行が、日常的、かつ、生涯続くものでなければならない など
う~ん、そう言われればそうかも。では、さっそく、その条件に適う方々のごく一部を、同書から・・・・
<タイ・カッブ(1886-1961)>
生涯打率3割6分7厘、通算安打4191本など大リーグ史上最強の打者とも言われる人物。野球と酒にひとかたならぬ情熱を注ぐ一方、野球で稼いだ金は、抜け目なく株や債券に投資し、巨万の富を築く蓄財の才能も持ち合わせていた。一癖二癖ありそうな人物です。
で、彼を奇人たらしめているのは、生涯を通じての徹底したケチぶりである。家政婦には、ぎりぎり生活できる程度の給料しか払わなかった。出入りの食料品屋、洗濯屋、牛乳屋は、彼が納得する金額の請求書を出すまで、暴力沙汰まがいの脅迫をされるのが常であった。
電気代節約のため、夜は、最低限の灯りしか点けないため、使用人はケガが絶えない。そして、ついには、自家発電装置まで作ったが、火災を起こし、あやうく、料理人を死なせかけるなど、その手の逸話に事欠かなかった。
<サルヴァドール・ダリ(1904-1989)>
ご存知、シュールレアリズムの巨匠。スペインでの幼年時代から、精神病理学に新たな章を書き加えるほど様々な病的恐怖心を抱き続けた。その対象は、時計、糞便、死人の顔、腐敗した遺体、バッタ、蠅、蟻の群れ、コウモリ、自分自身の奇形の歯など、終生、多岐にわたった。
幼少時代には、異常なまでの残虐性を発揮している。5歳の時、フィゲラスの街はずれにある15フィートの高さの吊り橋から、少年を投げ飛ばし、危うく死なせかけた、と自伝で書いている。
若い頃には、虫がうようよたかったコウモリの死体を口の中で噛み砕いたこともある、というから、充分異常にして、奇人。
<ハワード・ヒューズ(1905-1976)>
航空機、映画などあらゆるビジネス分野で活躍したアメリカを代表する大富豪。彼の潔癖症は、長年月をかけて、強迫観念にまで育っていく。ありとあらゆる細菌をおそれ、ホコリを忌み嫌った。
60代後半からは、世間との交渉を断ち、自分の体の一部を成すものに、以上な執着を示し始める。髪も爪も切らず、排泄した尿を溜め、脱水症状を起こした体から落ちる皮膚の薄片まですくいとっていた。
最晩年は、ラスベガスの高級ホテルのワンフロアをまるまる借りきり、ごく限られたスタッフだけに世話をさせる生活。いつも素っ裸で、髪、爪はのび放題・・・・・・異様な様であったとの当時のスタッフの証言が残っている。
細菌恐怖の果ての、細菌まみれ、不潔の極み・・・・日本の泉鏡花を思わせるバイ菌恐怖、脅迫神経症ぶりで、なんとも皮肉な人生の結末に思える。
都合6回にわたってお届けしてきた「奇人列伝」ですが、とりあえず、今回で打ち止めになります。新しいネタが集まりましたら、またお送りしたいとは思っていますが・・・・
という次第です。それでは、次回をお楽しみに。