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第524回 ユニークな国 オランダ

2023-05-19 | エッセイ
 オランダは、江戸時代を通して、唯一、通商、交流があった外国でありながら、明治以降は、すっかり縁が薄くなりました。でも、なかなかユニークな国です。首都アムステルダムでの一週間ほどのささやかな滞在経験と、国の歴史は、もっぱら清水義範さんのエッセイ「オランダ人の謎」(「もっとどうころんでも社会科」(講談社)所収)を参考に、その一端をご紹介します。

 10数年前、退職を機に夫婦で海外旅行を計画した時、行き先は、ゴッホとフェルメールという二人とも大好きな画家ゆかりの地、オランダにすんなり決まりました。フランス、イタリアもさりながら、私たちにとっては、「アートの国」でしたので。門外不出とされるフェルメールの名作「デルフトの眺望」をじっくり観られたのがなによりの思い出となりました。こちらの作品です。

 アムステルダム市内や、日帰りでの観光を楽しみながら、肌で感じたのは、「本当に、自由で、開放的な国だなぁ」ということです。朝夕の人の流れや表情にも、あくせくしたり、ピリピリしたところは微塵もなく、余裕が感じられます。訊けばいろいろ親切に教えてもらい、ずいぶん助かりました。

 そんな国が出来上がった秘密を知るため、少しだけ歴史のお勉強にお付き合いください。
 オランダは、1555年に、当時の強国スペインの統治下に入ります。しかしながら、低い土地など厳しい自然環境の中、海に活路を求め、漁業で栄えていました。また、多くの良港を持つことから、海外貿易の拠点となり、優秀な商人が育っていました。そんな自由闊達なオランダ人が、堅苦しいカトリック教国スペインの支配に甘んじるはずもなく、1568年、独立戦争が始まりました。途中の休戦期間を挟んで、80年続いたこの戦争は、1648年に終結しました。

 当時のスペインには、優秀なユダヤ人が多くいて、繁栄の一翼を担う一方、カトリックとは相容れず、迫害されていました。独立戦争の結果、多くのユダヤ人がオランダを目指したのです。そして、オランダは、スペインにいた20万人のユダヤ人のうち、15万人近くを受け入れたともいわれています。1602年、「東インド会社」の設立により、日本を含めたアジア圏での大規模な交易の展開に乗り出すなど、ビジネス上手なユダヤ人が貢献したのは間違いありません。その結果、17世紀が「オランダの世紀」と呼ばれるほどの繁栄を享受しました。その後は、産業革命もあり、イギリスが世界経済を席巻するに至ります。イギリスも好きな国ですが、オランダの地盤沈下がちょっと残念です。
 先ほどの夫婦旅行で、アムステルダムにある「ユダヤ歴史博物館」をたまたま訪れました。どうしてこの博物館がオランダにあるのだろうと、その時は不思議でしたが、今、その謎が解けました。展示についてはほとんど覚えていませんが、館内でハグしあう若い男性同士の姿を見た時、ジェンダーの面でも開放的な国なのだ、と強く感じたことを思い出します。

 一方、キリスト教ともうまく付き合っているのがオランダです。8世紀からキリスト教化が進んでいましたが、1517年にドイツで始まった宗教改革の波はすぐオランダにも及び、カルヴァン派プロテスタントが普及しました。現在オランダでは、プロテスタントが30%、カトリックが40%だといいます(清水のエッセイによる)。教会の締め付けから自由になろうよ、というプロテスタントの発想が、自由を重んじ、人種差別のないオランダのお国柄を生み出した、という清水の説明になるほどと納得しました。

 そんなオランダ(正式の国名は、「ネーデルランド王国」)ですが、商売熱心なことへのヤッカミなどもあるのでしょうか、「変わり者」・・・国ですから「変わり国」(?)とまわりから見られているフシがあります。英語で「オランダの」に当たるのは、ダッチ(Dutch)です。もともとは、「ドイツの」という形容詞を、17世紀あたりから、商売敵のイギリス人が(意図的に(?))使い出したようです。そのため、あまりいい使い方はされません。ダッチ・アカウント(オランダ式勘定=割り勘)、ダッチ・ワイフ(説明は勘弁してください)、ダッチ・ロール(飛行機が墜落する時の激しい揺れ)などロクなものがありません。
 きわめつけは「さまよえるオランダ人」(Flying Dutchman)という言葉です。清水は、司馬遼太郎のエッセイ「オランダ紀行」(朝日文庫)での説明を援用しています。かつて、復活祭の日には船を出さない、という習慣がありました。しかし、商売熱心なオランダ人は、そんなことを気にせず、船を出します。それが人々の間に、そんな船は遭難し、幽霊船となって永遠に海をさまよい続ける、という伝説を生みました。
 その伝説を詩人・ハイネが小説化し、ワグナーがオペラにしたことから、世界的に有名になったというのです。心の広いオランダの人たちですから、有名税だ、程度に割り切ってるとは思いますが、ちょっぴり同情します。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。
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