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第546回 中学英語の今 英語弁講座43

2023-10-20 | エッセイ
 今や、小学校の高学年から英語を習う時代。私が初めて英語に触れたのは、60数年前の中学入学と同時でした。ちょっとオトナの気分になり、私なりにがんばって勉強したのを思い出します。教科書は、「JACK AND BETTY」(開隆堂)(画像は復刻版)でした。

 英語教育のあり方などについて、いろいろ議論がある中、今の中学生の皆さんはどんな教科書を使っているのか知りたくなりました。以前、数学編、理科編でネタ元にしました「人生に必要な教養は中学校教科書ですべて身につく」(池上彰/佐藤優 中央公論新社)に拠り、中学英語の今を、堅苦しい話抜きでお届けします。気軽にお楽しみください。(文末に、数学編、理科編へのリンクを貼っています)

 まずは、教科書で学ぶ文章の1例です。アラスカを中心に優れた作品を残してこられた写真家の星野道夫さん(1996年、カムチャッカ半島でヒグマに襲われ亡くなりました)について綴られています。英文抜きの、私の参考訳のみですが、こんな素晴らしい世界に触れているのだ、ということを知ってください。(以下、引用は、東京書籍「NEW HORIZON English Course 1~3」に拠ります)

<道夫の写真には、アラスカの美しさが永遠に私達と共にあります/それこそが写真の魔術です/しかしながら、アラスカの野性は地球温暖化により変わりつつあります/北極の氷河が溶けているのです/道夫が写真に撮った北極グマやアザラシは、もはやエサを獲ることができません/カリブーの生息数は減少しています/イヌイットの人たちでさえ、伝統的な生活様式を失いつつあるのです>

 いかがですか?3年生用とはいえ、内容的になかなかのレベルでしょ。ひとつひとつの文は短いですが、地球温暖化が、アラスカの自然、動物、そこに暮らすイヌイットの人々に与えた影響、というタイムリーな話題がヴィヴィッドに、かつ力強く語られています。
 資料編には、2014年にノーベル平和賞を受賞したマララさんの国連演説の抜粋が載っているといいます。今や、中学生が(その気になれば)国連演説まで読める時代なのです。生きた素材、多様な素材の導入が進んでいることを知りました。

 さて、最近の英語の教科書を開いて、著者の池上さんと佐藤さんが指摘するのは、圧倒的に「会話文」が多いということです。中高で6年間英語をやったはずなのに、ロクに英語を話せない日本人が多すぎる、との各方面からの声もあるのでしょう。いろいろ工夫の跡が見えます。
 1年生用では、最初に、主な登場人物11人が紹介されます。
 日本人は4人ですが、カナダ出身で日本文化に興味を持っているAlex、インド出身でバンドをやっているDeepa、ブラジル出身でサッカー部のコーチをやっているPauloなど、グローバル時代を踏まえたラインナップです。ちゃんとキャラ設定までする芸の細かさに感心します。
 また、"Daily Scene”というコーナーがあって、こんな「実用的な会話」の例が紹介されます。「年末のにぎわう街で、外国人観光客から道を尋ねられる」という設定では、地図がついています。どう案内するかが問われます。そこには、
 "I'm sorry.I don't know.I'm a stranger here."(すいません。よくわかりません。ここは不案内なので)という極めて「実用的な」例文まで載っている、というのには笑ってしまいました。
 同コーナーには、こんな(NHKの語学講座っぽい)父親と娘のやり取りもあります。調子が良くないという娘エリカに、やさしく声をかけるお父さん。
Erika,how are you today?(エリカ、今日は調子どう?)
Not so good.(あまりよくないの)
What's wrong?(どうしたんだい?)
I have a headache.(頭痛がするの)
Take this medicine and take a rest.(この薬を飲んで、ゆっくりしていなさい)
Thank you,Dad.(ありがとう、お父さん)

 いろいろ議論はあるのでしょうが、「会話重視」がすっかり定着しているようですね。
 さて、私自身を振り返ると、A,B,Cの読み書きから始まった中学3年間での英語がすべての基礎です。
 その後、自分なりに積み重ねもして、今は「趣味」として楽しめることに感謝しています。高みを目指さずとも、(ちょっとした努力とその結果としての)レベルに応じて、役に立ち、楽しい経験ができるのが英語じゃないでしょうか?出来るだけ多くの人に、英語で世界を広げて欲しいと心から願っています。その意味で、中学英語の3年間って、本当に大切です。英語嫌いを作らず、楽しく学べる教科書を理想として、教科書会社、執筆者の皆さんの更なる創意工夫に期待しています。
                                                                                                            
 いかがでしたか。過去の関連記事へのリンクは<数学編><理科編>です。合わせてご覧いただければ幸いです。それでは次回をお楽しみに。