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第386回 中学の数学に学ぶ

2020-09-04 | エッセイ

 中学生生活を送ったのは、もう60年ほども前のことです。比較的マジメに勉強していた当時のことをふと思い出したりします。
 「人生に必要な教養は中学校教科書ですべて身につく」(池上彰/佐藤優 中央公論新社)を目にした時は、そんな昔のことを、という気もしましたが、今時の中学生って、どんな事を、どんな風に勉強してるのかな、と少し興味を引かれ、結局、通読しました。

 代表的な8教科の教科書(12社54冊)が素材の対談です。学習指導要領とか検定とかのシバリがある中、各教科とも、生徒が身近に感じたり、楽しんで学習できる素材、手法に知恵を絞り、創意工夫を凝らしているのがよく分かりました。

 今回は、数学を例にとって、ご紹介することにします。好き嫌い、得手不得手が分かれがちな数学という科目にどう生徒を引き込むか・・・腕の見せ所です。

 東京書籍「新編 新しい数学1」はいきなりこんなプロローグで始まります。

 「これまで引き算をするとき、小さな数から大きな数は引けませんでした。中学校では引き算の答えがいつでも出せるように数の世界をひろげます。」
 「小学校ではおもに数字を用いた式を使いました。中学校では文字を用いた式を学びます。文字を用いた式により、表現の手段もひろがるのです。」

 前段は、マイナスという概念の導入、後段は、方程式などにつながる宣言です。中学校の数学は、小学校の「算数」の延長じゃないよ、アタマを切り替えて、しっかり取り組めば理解できるからね、との激励とも読めます。これを読んで、すぐその主旨を理解できる中学生は少ないでしょうが、見事なものです。
 以前にも書きましたが、「算数」を苦手にしていた私が、方程式を学んでから、すっかり「数学」が好きになり、得意にもなりましたから、後段は特に腑に落ちます。

 さて、同教科書が、マイナスの便利さを体験させるために持ち出したのが、イチローの10年連続200安打以上という記録です。年ごとの安打数に加えて、記録達成を伝える新聞記事まで載せる懲りよう。教科書掲載のものかどうかは分かりませんが、偉業を伝える紙面です。

 設問は、「この10年間の年間平均安打数を、下1桁を四捨五入して求めなさい」というもの。
 これだけじゃ、「算数」の問題です。マイナスを使って、少し楽にやる手があるんですね。

 並んでいる数字をざっと見て、平均値を「仮に」230などと決めます、各年の安打数が、230を上回ったプラス分、下回ったマイナス分だけを合計して、10で割る。その結果に230を足せば、平均値が求められるというわけです。
 小難しい理屈抜きで、マイナスという概念の便利さを実感させるなかなかの手法です。

 文字を使って、数字のマジックの種明かしをしているのが、啓林館「未来へひろがる 数学1」の別冊。
 まず、各生徒は、好きな整数を思い浮かべます。その数字に、足したり、引いたり、掛けたりの操作をしていくと、最後はあらあら不思議、という手品(?)です。思い浮かべた数字をNとして、
手順と、その種明かしを( )内で示します。

 はじめに整数を1つ思い浮かべてください。(その数をNとします) 
 その数に5を足してください。( N+5)
 その答えを2倍してください。((N+5)×2=2N+10)
 その答えから4を引いてください。(2N+10-4=2N+6)
 その答えを2で割ってください。((2N+6)÷2=N+3)
 その答えからはじめに思った数を引いてください。(N+3ーN=3)
     
 どんな数を思い浮かべても、最後は3になるという他愛ないマジックです。文字の威力を思い知らせる秀逸な手法で、これなら方程式の学習もスムーズに進みそうですね。

 楽しそうだけど、この程度?と思われてもいけませんので、こんな事も扱ってるよ、という例だけ最後にご紹介します(前掲「東京書籍」版から)。

 車の渋滞がもたらす損失は、金額換算で12兆円になるとの試算、環境への影響などを前フリに、「渋滞学」という分野があることに話は及びます。そして、玉を使った渋滞モデルで、高速道路での解消方法を導き出すという課題です。
 本書に詳しいプロセスは載っていませんが、答えは「車の平均速度を50km近くまで下げた状態で、車間距離を空けて近づいたところ、平均の速さは80km以上に回復し、確かに渋滞は解消された」(同書から)というものだそう。

 う~む、「社会とつながる数学」ということなのでしょうか。今時の教科書作りの創意工夫とレベルの一端をご理解いただければ、ご紹介した甲斐があります。

 機会があれば、別の教科も取り上げようかと考えています。それでは次回をお楽しみに。

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