10月と11月の東京の中華料理のお楽しみと言えば、上海蟹である。上海蟹は一匹丸ごと姿蒸しが3000~5000円もする高級食材で、佐渡の中華料理屋ではまずお目にかかれない代物だ。この蟹は組織が傷み易く、更に特定外来生物に指定されているため生きたまま空輸され、許可を得たお店でなければ調理できない仕組みになっている。10月は卵を持つメスが美味しいが、11月に入ると味が落ちるため、オスに取って代わられる。伊勢丹の地下にある高級中華惣菜店の「富麗華」ではこの時期、上海蟹の身をほぐした物を使用した惣菜が並ぶが、その味はやや泥臭くそして時に塩味がきつい事がよくあった。上海蟹の足の身にはチョコレート色をした縦じま模様が入っており、見た目はずわい蟹とは明らかに異なる。味もずわいの方がすっきりとした旨みがあり、何も大枚をはたいて食べに行くほどの物ではないと思うが、そこはそれ見栄張り者の本領を発揮させるのにふさわしい高級食材であり、筆者もご多分に漏れずこの蟹を安全に調理してくれる高級中華レストランへと足を向けた。筆者は、上海蟹シーズンが終わりを告げるのが間近に迫った11月の24日、ホテルニューオータニメイン棟の16階にある中華レストラン「Taikan En」を訪ねてみた。このお店は、1964年の開店以来、多くの美食家に愛されてきた、王道主義を掲げる本格上海料理を提供する名店である。黒を基調に洗練を極めた店内は、全面フルハイトウインドウの窓から、眼下に広がる1万坪の日本庭園から遠く東京タワーまでが一望にできる。
午前11時半の開店と同時にお店にお邪魔したら、中央部の窓際席へと案内された。筆者は、「上海蟹、たらば蟹、ずわい蟹、渡り蟹のミックスクラブ淡雪仕立て(3150円)(画像)を注文した。注文後20分が経過したところで、ウエイター氏が「大変お待たせいたしております」と恐縮しながら、時間繋ぎにとザーサイと大根の漬物を持って来てくれた。25分経過したら、今度は「お待たせして大変申し訳ございません」と言いながら、白菜のスープを持ってきてくれた。このスープは火傷するくらい熱かったが烏骨鶏でダシを取ってあり、いいお味であった。30分経過後ようやくお料理が出来上がった。見ると直径5センチ程度の甲羅の中に蟹の身をほぐした物と蟹味噌を詰め、その上を雪に見立てた卵白を泡立てた物で覆ってあった。蟹の味はやや泥臭く、間違いなく上海蟹であるが、その強烈な泥臭さを中和するために、すっきりとした旨みのたらばやずわいの肉を混ぜたものと思われた。これっぽっちの量であるからしてわずか数分で食べ終えた。さすがにこれだけでは物足りなかったので、デザートとして「杏仁プリン(メロン乗せ)、黄な粉あん餅、エッグタルトの三種盛り合わせ(1260円)」を注文した。出来上がるのに更に15分を要したが、あん餅とエッグタルトは熱々で美味しかった。これでようやくお腹が膨れたので、サービス料込のお代4851円を支払い、この超お高い中華レストランを後にした。
3月18日の日記:日に日に春めいて来たが、本日の関東地方は南から暖かく湿った空気が流れ込むため春一番が吹くとの予報である。彼岸の入りに合わせたかのような春一番の到来だ。春本番となる桜の開花までにはまだ9日ほどが必要だが、ようやく待ちに待った春である。筆者はそれまでのフルレングスのパンツから七分丈のクロップドパンツに穿き替えて出勤した。ちなみに春一番とは、『1)立春から春分までの間で、2)日本海で低気圧が発達し、3)東南東から西南西の風向で8m/s以上の風が吹いて、気温が上昇する現象』である。つまり、これらの3条件が揃わないと春一番とは言えないのだ。
ホテルニューオータニの
威容が迫って来る
訪問時はクリスマス間近
お店の入口
Table setting
お箸とスプーン
眼下には日本庭園が見える
これは首都高速環状線
店内の様子
これはサービスのスープとザーサイ
ミックスクラブの割面
蟹の甲羅部分
デザート