大阪地検トップの検事正が部下の女性検事に犯した性暴力事件の刑事裁判が始まった。捜査機関にあるまじき事件だ。被害者の告発で公になるまでに6年もかかっている。個人の犯罪を裁くと同時に組織内で隠蔽(いんぺい)などがなかったのか否か、徹底した検証も必要だ。
準強制性交罪に問われているのは大阪地検元検事正で弁護士の北川健太郎被告(65)。
起訴状などによると北川被告は2018年、自身の検事正就任を祝う懇親会で、酒に酔った女性部下を無理やりタクシーに乗せて自宅官舎に連れ帰り、「やめてほしい」と懇願する女性に性的暴行をしたとされる。6月の逮捕時には否認していたとされるが、25日の初公判で罪を認めた。
被害者の女性検事は初公判後に会見し、被害後、北川氏から「これでおまえも俺の女だ」と言われ「公にしたら俺は死ぬ」「大阪地検は機能しなくなる」などと脅されたことを明かした。
被害者が性暴力を告発しようとすると、女性の同僚によって「彼女の言っていることは虚偽だ、金目当てだ」と検察内部やOBに吹聴されるなど、二次被害にも苦しめられたという。
誹謗(ひぼう)中傷が事実なら、被害者を黙らせ、組織からの排除につながる許しがたい行為だ。
検察は性犯罪捜査も担う巨大な国家権力組織だ。自らが性暴力の加害者を抱えていたり、隠したりしていれば、組織に対する信頼や捜査の公正さは失われる。
被害者が沈黙を強いられている間に、北川被告は19年に退職し、大阪を拠点に企業法務を手がける弁護士となった。
被害が地検内部で起きたため、捜査は大阪高検が担当したが、事件発生から告発を受けて捜査が始まるまで、被害者には長く重たい時間だったのではないか。不正義を追及する検事でありながら、自らに起きた不正義を見逃し、加害者を野放しにすることも耐えがたい苦痛だったに違いない。
なぜ性暴力が起き、公になるまで長きを要したか。事件の全体像が明らかになり、被害者の尊厳を回復する裁判となるよう求める。
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