ジャニーズ事務所で発覚した子どもたちへの性加害を、特殊な事例として片付けてはならない。「いかにして身を守るか」。専門家は子どもたちへの教育の重要性を説く。政府も教材を作るなどして学校に性被害を防ぐ教育を促すが、道半ばの状況にある。(戎野文菜)
◆大人でも後から「あれはおかしかった」
「あれ? いま、胸もまれてるのかも…?」。例えば、マッサージ店で胸に施術者の手が伸びてきたとき、性被害かどうかを瞬時に判断し、抵抗できる女性はどれほどいるだろうか。
「大人でも後から『あれはおかしかった』と気付いて相談に来る人は少なくない。ましてや子どもとなると、もっと分からない」。性暴力被害者を支援するNPO法人「TSUBOMI」(東京)の代表、望月晶子弁護士は話す。
学校での性教育は、思春期の心身の変化や性感染症の予防が中心で、性被害を防ぐことに焦点を当てていない。中学の学習指導要領にある「妊娠の経過は取り扱わない」との「はどめ規定」から、多くの学校現場では性交すら十分に教えられていない。望月弁護士は「子どもたちには何が性被害なのかを伝え、どう対処すればいいかを教えておく必要がある」と指摘する。
◆教材はあるけど…活用されない
政府は、子どもたちを性加害から守るための対策に乗り出してはいる。2020年度には「生命の安全教育」のための教材を作り、活用を推奨してきた。性的な加害・被害を避けるための知識を文章やイラストで伝える内容で、文部科学省ホームページからダウンロードできる。
ただ、文科省の21年度の利用実績調査で「活用した」と答えたのは、全国の教育機関のうち28.1%。小学校で37.1%、中学校で25.1%、高校では12.9%にとどまる。望月弁護士は「今は学校や教師ごとに教える内容がバラバラ。学習指導要領にきちんと盛り込むべきだ」と訴える。
文科省男女共同参画共生社会学習・安全課の担当者は「学習指導要領の改定まで数年あり、この性教育を急に入れ込むことはできない」とし、「事務連絡でことあるごとに教材の使用を促し、教育の実施を強く推奨している」と説明する。
「大人になっても相談の仕方を知らず、泣き寝入りする人は多い」。望月弁護士は被害者に向き合ってきた経験から、救いの手が届きにくい実情を明かす。
「ジャニーズJr.が被害を受けていたのと同じころ、他にも被害を受けていた人はたくさんいる。まずは被害を被害として認識し、相談してほしい。周囲は相談を軽んじることなく、受け止められる存在でいないといけない」
◆調査から浮かんだ「平均7年」
子どもたちが性被害を受けても、すぐに被害と認識しにくい実態は、民間団体の調査からも浮き彫りになっている。性被害当事者らの団体「Spring」が、2020年に被害者約6000人にアンケートした結果、7割以上が「10代以下」で被害に遭ったと答えた。
「すぐに性被害だと認識できなかった」と答えた人は半分以上に上る。被害を受けたと認識するまでにかかった年数は平均で7.01年で、認識するのに20年以上かかった人もいた。
被害に遭った年齢が若いほど、認識するまでに時間がかかる傾向も。身体を触られる性被害では、被害時6歳以下だった人のうち3割以上が「認識までに11年以上かかった」と答えた。
被害に遭ってから身近な人に相談したケースは6割強だが、相談するまでには平均で5.23年かかっていた。さらに被害に遭って専門家や支援機関に相談した人は2割にも満たず、相談までに平均で15.27年もかかっていた。
団体は「被害が起きてすぐ被害だと認識できる人のほうが少なく、多くの場合には、自分の身に起きたことを被害だと認識できず、被害を相談するには大きなハードルがあることが明らかになった」としている。
性被害の相談は、「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」が全国共通の短縮ダイヤル「#8891」で受け付けている。最寄りのセンターへつながる。通話料は無料。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます