自民、公明両党は10日、防衛装備品の輸出ルール緩和に向けた与党協議を開き、米国のライセンス(使用許可)を得て日本で製造した武器の輸出を認めるかどうかなどについて議論した。この日の会合では結論は出なかったが、仮に容認することになれば、殺傷能力のある武器の提供がなし崩しに拡大する恐れがある。(川田篤志)
ライセンス生産 高い技術力を持った企業が開発した製品の設計や技術について、他の企業がライセンス(使用許可)を受けて、本来の企業の製品と同じ規格や仕様の製品を生産すること。航空機だけでなく、医薬品や自動車、ファッションなどで広く行われている。
◆「米国の戦力が落ちたら、日本の抑止力低下にもつながる」
現行ルールでは米国がライセンスを持つ武器の「部品」に限って輸出でき、F15戦闘機のエンジン部品などの実績があるが、完成品は対象外。米国以外の国のライセンス生産品は部品も完成品も輸出できない。
自民の小野寺五典安全保障調査会長は会合の冒頭、「日本に(輸出の)要請があった場合、要請に応えるかどうかは両国の信頼関係に非常に重要な問題だ」と指摘。自民の熊田裕通衆院議員は会合後、記者団に「わが国の安全保障に資するなら(容認を)考えなければならない」と説明した。
政府与党が対米輸出を想定する完成品には、迎撃用地対空誘導弾パトリオット(PAC3)などがあるとみられる。自民のメンバーは「武器や弾薬が枯渇して米国の戦力が落ちたら、日本の抑止力低下にもつながる」と必要性を語る。
ただ、自衛隊が保有する米国のライセンス生産品はPAC3のほか、F15戦闘機や多連装ロケットシステム(MLRS)、輸送ヘリCH47など多岐にわたる。完成品の対米輸出を認めれば、戦闘機などにも広がることになりかねない。
ライセンス生産品の扱いを巡っては当初、ウクライナへの武器提供で砲弾不足が深刻化する米国への輸出を念頭に、日本が英国企業に特許料を支払って製造する155ミリりゅう弾も検討対象とされた。ただ米国以外の国のライセンスによる完成品の輸出解禁は「最もハードルが高い」(公明議員)ため、今回は議題としなかった。
次回会合は15日。12月には政府への提言書をまとめるとみられるが、自公で意見が割れれば長引く可能性もある。
◆元内閣官房副長官補・柳沢協二氏「逆効果も」
完成品を輸出するということになれば、わが国の防衛で必要とされる以上のものを生産することになる。米国の要請を受けて輸出するだけの余剰力が、日本にあるのか。防衛予算で対応できるのか。
米国のニーズはウクライナや、パレスチナ・ガザ地区で緊張が高まる中東(で使用が想定される武器)にある。米国から第三国への移転を管理できるのかという問題もある。
日本の防衛ニーズではない武器を生産しないといけないことと、紛争地域で使われる可能性があることの2点で、日本の安全保障にとって、むしろ逆効果になる場合もあるのではないか。
さらに、ライセンス料を含めた完成品を米国が輸入することになれば、自国で調達するより価格が高くなると考えられる。そんなものが本当に売れるのか、経済合理性からみても疑問がある。与党協議の当事者がこれらの問題をどう考えているのかが分からない。
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