林 住 記

寝言 うわごと のようなもの

夜色楼台図

2007-01-20 | 遠い雲

  「夜色町家図」とでも名付けようか 森男

20代の始めの頃は版画に熱中していた。
版画は棟方志向のもの以外は、小学生の版画の方が迫力がある。
東京大手町にある「逓信総合博物館」で毎年開催された小学生の版画展で、このことに気付いた。
素人でも出来るので、初めて雪の夜の寝静まった町並みを彫ってみた。年賀状に使ったのである。
誰も褒めてくれなかったが、いいな、と自画自賛して、会社勤めにのめりこむまで、版画をしばらく続けた。

 
  「夜色楼台図」 与謝蕪村

その後、文人画の与謝蕪村を知った。
豊潤軽妙で,あれこれ見て歩くうちに、ますます好きになった。
江戸東京博物館での展覧会には圧倒された。
重要文化財の「夜色楼台図」を見たとき、森男の版画が似ているのに驚いた。
水墨画に対して版画、横長の画面に対して縦長、楼台のような立派な建造物は無くて平らな町並み、と全く対称的なのに、雪の夜の静まり返った雰囲気は共通している、と自惚れた。

 
  「年暮る」 東山魁夷 山種美術館蔵 三越本店ちらしより 

最近、文化勲章を受章した東山魁夷画伯の日本画に「年暮る」という絵があるのを知った。三越のちらしに載っていた。山種美術館所蔵とある。
この絵も与謝蕪村の「夜色楼台図」に似ている。
蕪村ほど横長ではなく、青くべったりと着色した夜に白い雪が降り、寺院らしい大屋根もあって、随分説明的な日本画だと思った。
東山画伯は人気日本画家だった。哲学的な随筆など、文章も上手かった。
日本画の定義は難しい。画伯の場合、絵の具や筆は日本画の材料を使っているが、絵の具を何度も重ね塗りして余白は無いし、線の美しさなどは無い。素人の感想だが、唐招提寺の襖絵を除いて、日本画の材料を使った洋画だと思っている。
画伯の作品は、蕪村のように数百年後にも残るのだろうか。

 
  (松風荘の滝 部分) 千住博  「よみタイム」HPより

ニューヨーク近代美術館に日本から寄贈した書院作りの「松風荘」があった。吉村順三先生の設計によるこの本核的な日本建築は、簡素な美しさと、大工や職人たちの技術水準の高さが、当時アメリカで評判になった。襖絵は東山魁夷画伯が描いた。
現在、フィラデルフィアに移築された「松風荘」の襖絵は、褪色が激しく、殆ど無くなってしまって、代わりに中堅の千住博さんが滝の絵を書き上げた。絵の具は褪色しないものを選び抜き、道具には毛筆に加えてエアブラシまで使っている。

東山画伯の作品は、画伯が亡くなったら、襖絵は無くなってしまった。
その点では、森男の版画も同じである。
だから、図々しくブログに掲載した。

◇山種美術館で、3月4日まで、松風荘の襖絵を中心に「千住博展」開催中。


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3 コメント

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含蓄 (だだちゃ)
2007-01-20 20:38:41
 先ごろテレビで千住博氏の作品の製作する
工程が放送されていた。
興味深く拝見した。

 森男さんの版画や美術に対する含蓄のある
評論に感銘いたしました。
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言い訳 (森男)
2007-01-21 21:47:56
嫌味な記事で申し訳ありません。
東山画伯は昭和時代限り、日本国内だけの人気画家。
千住画伯は国境を越えて、長く評価されそうな予感がしております。但し、いわゆる「日本画家」ではないと思いました。
毛筆で輪郭線を巧み描く「日本画家」がいなくなったのが残念で、この記事を書いてしまいました。
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夜色楼台図 (風子)
2007-01-21 23:55:21
森男さまと同感です。だいぶ前の個展でも滝は見ました。今回も去年早々に行ってきましたが アクリルを使っているのですから 日本画というのは ちょっと疑問です。日本画と洋画ではなくて 絵の具を何を使っているかで分けるという意見があるそうです。どちらにしても 魅力のある絵なら 良い物は良いのですから・・・。 
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