林 住 記

寝言 うわごと のようなもの

スミレちゃん

2007-08-19 | 遠い雲

「横顔」森男

 従妹のスミレちゃんの本当の父親は戦病死した。

 叔父さんが復員して直ぐ、叔母さんは子ども3人を連れて叔父さんと再婚した。
家族を守るために、祖父の判断に従ったのである。
叔母さんにしてみれば、わが子3人のために、義弟と再婚したわけであり、あの頃はそういう事は当たり前だった。

 異父きょうだいが2人生まれ、合計5人になったきょうだいは、おおらかな新しい叔父さんと、しっかりものの叔母さんと、お祖父さんに見守られて、揉めごとも無く大きくなった。一家は力を合わせ、よく働き、農産物に恵まれた。
 森男一家が餓死せず生き延びたのは、この一家8人に負うところが大きい。

 スミレちゃんは長女である。あの頃は明るく可憐な少女だった。
高校卒業後、一時、勤めに出たが、大家族を守る母親を助けるため、家事見習いをしていた。

 森男の母は、生家に当たるこの一家、特にスミレちゃんを大変に気遣っていて、お婿さん候補を探し出してきた。候補者は森男の兄嫁の末弟である。

 お見合いは、森男の実家の敷地内にあった兄宅。
一流会社勤めのお婿さん候補には、父親が付いてきた。
そして、お婿さん候補より先に、父親がスミレちゃんを気に入ったようである。

 息子を残して、父親が先に帰る際、本人が承知しなければ私が必ず説得する、是非嫁に頂きたい、と母に懇願したそうである。

 間も無く、スミレちゃんは嫁入りした。

 あのお舅さんの葬式に行った時、就学前の男の子が2人いた。スミレちゃんはちゃんとした服装をさせようと、子ども達を追いかけたが一向つかまらず、ま、いいや子どもだから、とあっけらかんと諦めて式に参列。

 母親である叔母さんの葬式には、あの時の駄々っ子2人が、嘘みたいに立派な社会人になって参列した。
スミレちゃんは、叔母さん似の堂々のお母さんになっていた。

 今日は母の一周忌。
スミレちゃんは、森男と同い年の旦那さんと、一族の長老になった陽気な叔父さんと、3人で揃って来てくれた。

 精進落としの宴席で、スミレちゃんは、明るく賑やかに、お酒を勧めて回るのである。
昔の光いまいずこ、ではあるが、横顔には面影は残っており、今は豊穣の秋である。
これもまた、悪くない、と思った。 


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