林 住 記

寝言 うわごと のようなもの

赤朽葉家の伝説

2016-10-14 | 重箱の隅

小説「赤朽葉家の伝説」は分厚い文庫本だが、一気読みした。
長い物語は日本神話時代から続く鳥取県の名家・赤朽葉家の女3代記である。

第1章は、中国山地を彷徨う山の民・山窩に置き去りにされ、製鉄工場の工員夫婦に拾われた、万葉の物語である。
万葉は名家に君臨するタツに望まれ赤朽葉家に嫁ぎ、千里眼の奥様として数奇な一生を送る。
万葉の物語はまるで神話のように奇妙奇天烈な展開を見せ、息次ぐ暇もない。


第2章は万葉の長女・毛毬の短い一生だ。
中学生時代には暴走族のリーダーとして中国地方を制覇。引退後は人気漫画家として10年生き、30歳で過労死する。
ここでの物語は、まるで暴走族のように物凄い早さで「ぱらりら」と突っ走る。


第3章は毛毬の一人娘・瞳子による、祖母万葉の殺人疑惑の解明である。
瞳子には恋人がいるが、二人はもたもたうじうじ。その癖ラブホテルはお馴染みなんですね。

この小説は、第60回日本推理作家協会賞を獲得した。

作者・桜庭一樹はあとがきで、編集者に「あなたの初期の傑作を書いてくれ」と勧められ、数か月でこの小説を完成させた。
そして期待されたとおりの小説にできたと自負している。


だが果たしてこれが傑作だろうか。

面白いことは確かに面白い。特に1・2章は一気呵成に読めた。
但し3章がぐずぐずもたもた。肝心の謎解きは夢をみて解決。安易であり、推理作家協会は大甘だ。

豪壮な赤朽葉家の家屋敷の描写も、女帝として振舞う姑・タツの権威の源泉も、不思議な家族関係も殆ど書かれていない。
地方の名家の令嬢である毛鞠・瞳子母子の行状は余りにもぶっ飛んでいて、眉唾ものに感じてしまう。

家業である神話時代からのたたら製鉄業を、近代的な製鉄工場に脱皮させても、工場は海際でなく山上にある不合理。
バブル期の紅緑村は、ディスコもあり、フィリッピンの風俗嬢もいて、大都会のような不自然。
毛鞠のオートバイは「ぱらりら」と村や中国地方を疾走する。

物語の構えの大きさも、疾走感も大したものだ。読者の評判も良く、販売部数を伸ばしたようだ。
しかし腑に落ちないところがあるので、読み返してみると、細部が大雑把で、到底傑作小説とはいい難い。
数年かけて、じっくり書いたら傑作になったかもしれない、惜しい大河小説だった。

1・2章は、確かに面白く、読んで損はなかった。ま、残念な「傑作」ですかね。

   創元推理文庫

   161014A



最新の画像もっと見る

コメントを投稿