長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

やったぜ朱の盤!アニメ第6期『ゲゲゲの鬼太郎』明夫ぬらりひょんの野望 ~ぬらりひょんサーガ第40回~

2021年08月11日 23時58分50秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
前回までのあらすじ≫
 2010年代の最新ぬらりひょんサーガは、文字通り「正真正銘の妖怪総大将ぬらりひょん」から始まった! 演ずるは、歴代ぬらりひょん役者中、最高齢にして「初代ねずみ男」としても妖怪との縁が深い大御所・大塚周夫!!
 21世紀に入り、さらに意気軒高なぬらりひょんの新たなるディケイドは、これ以上ない程に幸先の良いスタートを切った。そして続く、驚くべき「ぬらりひょんバブル」の発生! こはいったいいかなることにやあらん!?
 しかし、ぬらりひょんの野望は幅広い展開だけにはとどまらなかった。やはり10年のシメは、「あいつ」との正面対決でなくてはのう!!


 アニメ版『ぬらりひょんの孫』における大塚周夫ぬらりひょんの後、2010年代は地味~に映像作品の中でのぬらりひょんが今までにない頻度でわんさか登場する、謎のバブル期に突入してしまいます。
 ざっと挙げると、

・アニメ映画『妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』(2015年12月公開)以降の子安武人ぬらりひょん
・3DCGアニメ映画『GANTZ:O』(2016年10月公開)の津嘉山正種ぬらりひょん
・実写アニメ混成映画『妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』(2016年12月公開)の実写パートの斎藤工ぬらりひょん
・アニメ第2期『鬼灯の冷徹』の2018年5月放送回『瓢箪鯰』の龍田直樹ぬらりひょん

 そして、まさしくぬらりひょんのホームタウン(なのにいちばん地獄……)とでもいうべき『ゲゲゲの鬼太郎』、その待望のアニメ第6期における大塚明夫ぬらりひょんのご登場をもって2010年代は打ち止め。
 つまり、アニメ版『ぬらりひょんの孫』での「若き日のぬらりひょん」を演じた遊佐浩二ぬらりひょんもカウントしますと、2010年代は実に「7名」ものぬらりひょん俳優が誕生するという異様な時代となってしまったのでした。なんじゃあ、こりゃあ!?
 ちなみに、アニメ第1期『ゲゲゲの鬼太郎』における、『ダークナイト』ジョーカーの35年先を行く孤高の爆弾魔ぬらりひょんを始祖とする映像作品ぬらりひょん史を振り返りますと、

1960年代 …… 2名(槐柳二、大映妖怪映画シリーズの子役俳優)
1970年代 …… なし
1980年代 …… 4名(夏樹陽子、千葉耕市、青野武、汐路章)
1990年代 …… 2名(千田義正、西村知道)
2000年代 …… 4名(滝口順平、忌野清志郎、青野武、緒形拳)

 ということになりますから、2010年代の様相がいかに飛びぬけているかがおわかりになるかと思います。それにしても1970年代、ひどすぎ……やっぱり、妖怪と好景気は合わないのかなぁ。確かに、2010年代も景気は、よかぁなかったよね。
 ちなみにちなみに、現在2021年8月時点での2020年代のぬらりひょん俳優は、ドラマ『妖怪シェアハウス』での大倉孝二ぬらりひょんと、いよいよ今月公開の映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』での大森南朋ぬらりひょんの2名です。2010年代の勢いを継いで、なかなか良いペースのすべり出しですな。

 さて、お話を2010年代に戻しますが、本来ならばこの「ぬらりひょんサーガ」で、大塚周夫&遊佐浩二(&藤原啓治……)ぬらりひょんの後に続く子安ぬら、津嘉山ぬら、工ぬら、龍田ぬらに関するつらつらを語らねばならないところなのですが、なんせ、現時点でそれらの作品をわたくし、まことに不勉強なことにじぇんじぇんチェックしておりません! ですので、遺憾ながらこの4名のぬらりひょんの活躍については、涙を飲んで割愛させていただきたいと思います。
 申し訳ねぇ……10年前だったら、ヒマに任せていくらでもジャブジャブ時間を注ぎ込んで作品を鑑賞することもできたのですが、今はキツいんだよなぁ。いずれ、時間ができたらチェックもしたいとは思いますが。
 ただ、いくら忙しくとも万障繰り合わせて観てしまいたくなる「おぉっ!?」というポイントがあったらいいんですが、な~んか食指が動かないんだよなぁ。いや、4名とも素晴らしい俳優さんだとは思うのですが、子安さんはたぶん、いつもの子安さんでしょ? 津嘉山さんはマンガ原作の忠実な映像化なだけという感じだろうし、工さんはいわゆるサービス出演でしょ? 龍田さんは、さすがに『ゲゲゲの鬼太郎』に大いに貢献している方だから気にもなるのですが、マンガ原作を読むだに、「妖怪総大将」の逆張りをしたゲストネタというていですよね。ちょ~っと……目新しい活躍があったとは思えず。

 そうなんですよ。確かに、2010年代はぬらりひょんが最も多く映像作品に出た目覚ましい時代ではあったのですが、特筆すべき新規開拓ポイントは、そんなになかったんですよね。いや、「そうじゃないぞ! ちゃんと観ろ!!」というご意見がありましたら、ぜひともお教えいただきたいのですが。

 ところがギッチョン! そんな感じで終わろうとしていた2010年代も末、ついに日本妖怪カルチャーの真打が、ついにその重い腰を上げた!!
 言うまでもなく、アニメ第6期『ゲゲゲの鬼太郎』(2018~20年)のご登場でございます。いや~、2010年代はやんないのかとヒヤヒヤしちゃったよ!

 アニメ第6期『ゲゲゲの鬼太郎』に関して最も重要な点は、なんと言っても原作者であらせられる「妖怪大翁」こと水木しげる様が、正真正銘の妖怪もしくは神様にお姿を変えられて(2015年11月30日)から、最初に世に出たアニメシリーズだったということです。
 これは別に、歴代アニメシリーズに関して水木サンが原作者としてズバズバチェックを入れていたから、その拘束から解放されたというわけでは毛頭ありません。むしろ水木サンは、「ゼニががっぽがっぽ入るのならば、何しても構わんヨ。」という、まさしく人間の執着というものをとうの昔に捨て去ってしまった境地にあったわけで、そういう意味では、アニメシリーズへの水木しげるご本人の影響力は、ほぼ無かったとも言えるはずです。ただ、水木しげるの寛容すぎるほどのたなごころの中で、アニメシリーズ、特に第3・5期は、けっこう自由にアニメスタッフのオリジナリティを注ぎ込める実験場になっていて、そこが魅力にもなるし、鼻についたこともあるし。ともかく、その時代時代に最前線で活躍していたアニメ業界の制作陣にとって『ゲゲゲの鬼太郎』は、約10年ごとに何度もアニメ化されるだけ「やり甲斐のある」コンテンツになり続けていたのでしょう。シリーズごとにコロッコロ姿を変える猫娘のあり方が、そのいい例ですよね。

 そして、2010年代の後半に6たび『ゲゲゲの鬼太郎』の物語をリブートさせるにあたり問題となったのはまさしく、「水木しげるなき後初めてのアニメ化」という世間からの熱い注目の視線を、制作スタッフがどれほど重く受けとめたのか、ということなのです。
 私の大雑把な印象を申させていただきますと、水木しげるの「フハッ」な空気感から解放されたアニメ第6期は、良くも悪くも、マジメに気合を入れすぎちゃった!!

 先代の全体的に陽気で妖怪バトル要素の強かった第5期(高山みなみ鬼太郎)の逆をいくかのように、2010年代の第6期は、それなりに大迫力の妖怪バトルがちゃんとありつつも、それ以上に非常にシリアスなメッセージ性が前面に打ち出されており、発達した人間社会に順応することに肯定的で積極的だった第5期の妖怪たち(毎週の人間界でのアルバイト先が話題となっていた猫娘がその好例です)と違って、第6期の妖怪たちは「ゲゲゲの森」という人間が立ち入ることが基本的に許されない異次元空間に棲む、「人類文明とは相いれない種族」という線引きがはっきりされています。そのため、第6期で鬼太郎ファミリーが出馬するのは「人類と妖怪の衝突トラブルの仲裁」という意味合いが過去シリーズ以上に強調されており、それがために、鬼太郎のスタンスもまた多分に妖怪よりであり、自分が安楽に生きるためなら他人や他種族が不幸になることも、果ては自然環境の破壊さえも知ったこっちゃないというエゴをむき出しにした現代人に対しては、躊躇なく罰を与えたり妖怪の報復を容認するドライな立場を徹底させています。鬼太郎を演じる沢城みゆきさんの低音の演技も相まって、6期の鬼太郎はクール&こわい!

 ところが、放送開始当初はそんな感じでド硬派な6期鬼太郎だったのですが、シリーズ前半の「第1部 名無し編(第1~49話)」でしょっちゅう顔を合わせることとなった人間の少女・犬山まなとの出逢いによって、鬼太郎ファミリーやその周辺の妖怪たちと人間側との交流は徐々に深まり、「人間側にもっと『人間・妖怪共存の未来』を期待してもよいのではないか」というあたたかい変化も現れていくのでした。
 ご存じの通り、第6期『ゲゲゲの鬼太郎』は放送全97回ということで、アニメ版シリーズが長期タイトル化した第3期以降の中では最も少ない話数となったのですが、「犬山まな」というオリジナルキャラクターと鬼太郎との関係を第1話から最終話までしっかりとつなぎ続けた第6期の構造は非常に完成度の高いものとなっており、生命力と人(妖怪)たらしの魅力にあふれたポジティブヒロインまなの力強さは、レギュラーでありながらも今一つ主体性のない「作劇上都合のいいヒロイン」になりがちだった第3期の天童ユメコや、シリーズ中になんとな~くフェイドアウトしてしまった第4期の村上祐子、そして妖怪同士の激しい抗争の解決を観ないまま終了してしまった第5期の後半ヒロイン・アマミ一族のミウといった数々の先達の無念をはらすものとなったと思います。アツいなぁ!!

 こんな感じでアニメ第6期は、基本的には従来通り原作のスタイルを順守してエピソードごとのゲスト妖怪が巻き起こすトラブル・事件を鬼太郎が解決するという一話完結形式を取りながらも、21世紀に入って10年以上経ち、さまざまな部分で行き詰まりを見せ始めている人間の現代文明を背景にして、滅びゆく妖怪の姿に「かつてあった生活のあたたかみ、心の豊かさ」を見いだす文明批評を一貫したテーマに据えた骨太のシリーズになっていたかと思います。まぁ、そうはいってもそればっかりではさすがに息も詰まりますから、たまには第84話『外国人労働者チンさん』や第90話『アイドル伝説さざえ鬼』のような、全シリーズ通しても屈指の珍作もさしはさまれてくるわけなのですが、それにしても、過激化する SNS社会の闇を照射するエピソードの数々は、ただ笑ってばかりもいられない鋭さを持つものになっていたと思います。

 そんな第6期は、鬼太郎ファミリーが対峙する敵妖怪勢力ごとにざっくり大別すると「第1部 名無し編(第1~49話)」、「第2部 地獄の四将編(第50~75話)」、そして我らがおぬら様が満を持してお出ましになる「第3部 ぬらりひょん編(第76~97話)」の3部構成になっております。当然、それらの全話に名無しや地獄四将、おぬら様が関わるというわけでもなく、3部すべてに共通して毎度おなじみ別の敵勢力「バックベアードと西洋妖怪軍団」が割り込んでくる伏流もあるのですが、まぁ各シーズンの最終エピソードでは、各勢力のラスボスと鬼太郎ファミリーが激突するという流れになっています。

 それにしても第6期の放送開始当初を思い出しますと、なにやらのっけから、不思議な矢のような呪具とダウナー系ラッパーを彷彿とさせるあおりリリックを駆使して日本各地の妖怪を暴走させる、黒衣に不気味な仮面の名無し(声・銀河万丈!)という、原作マンガのどこにも登場しない謎の存在が現れ、私もかなり戸惑いました。「これは、かなり独立独歩のダークなシリーズになるのでは……」と感じたものでしたが、エピソード自体は水木しげるの原作マンガに準拠した部分を丁寧に残して、毎週毎週、その独自のアレンジ具合を楽しみにしていたものでした。
 ただひとつだけ心残りなのは、愛しのおぬら様が出てくるのかどうか……

 今でもよく覚えていますが、放送開始当初、第6期のシリーズ構成を担当された大野木寛さんがインタビューに答える形で、「かつてのアニメシリーズのぬらりひょんのような明確なラスボスが登場する時代ではない」といった内容の発言をしておられたことは、私個人としては残念な気もしました。でも、その発言にも大いにうなずけるものがあり、人間の欲望や悪意を利用して妖怪を暴走させる名無しは本質的に徒党を組むような思想を持った敵ではなく、言ってみれば、あの原作マンガ『墓場の鬼太郎』に登場した「爆弾魔ぬらりひょん」のように理解不能な孤高さをたたえた純粋悪であり、そういったすさんだテロ時代を反映したカオス感のただよう第6期の作風に、今さらかつての第3~5期のぬらりひょんのような、妙に人間臭く滑稽な俗っぽさを持つライバルキャラがしゃしゃり出てくる余地はないように見えたのです。


 ところが。それでもおぬら様は出てきた! 人間側に心を近づけてゆく鬼太郎の、希望を踏みにじる最悪の敵として!!


 先述したように、アニメ第6期における妖怪ぬらりひょんは、過去シリーズのようにエピソードの初期からちらっちら登場するような準レギュラー的な立場ではなく、シリーズ終盤の第3部のみに集中して登場するという、よりラスボスみを強めた特殊な存在になっています。
 ちょっとここで、過去シリーズでの歴代ぬらりひょんと今期の大塚明夫ぬらりひょん(以下、明夫ぬら)とを、その登場話数で比較してみましょう。

第3期・千葉耕市&第一次青野武ぬらりひょん「全115話中15話登場(貢献度13%)」
第4期・西村知道ぬらりひょん「全114話中18話登場(貢献度16%)」
第5期・第二次青野武ぬらりひょん「全100話中12話登場(貢献度12%)」
第6期・大塚明夫ぬらりひょん「全97話中10話登場(貢献度10%)」
ちなみに
アニメ『ぬらりひょんの孫』大塚周夫ぬらりひょん「全24話中18話登場(貢献度75%)」
同・遊佐浩二ぬらりひょん「全24話中2話登場(貢献度8%)」
アニメ『ぬらりひょんの孫 千年魔京』周夫ぬらりひょん「全24話中13話(貢献度54%)」
同・遊佐ぬらりひょん「全24話中7話(貢献度29%)」

 こんな感じになります。少ない! たった10話のみの登場でしたか。その10話にしても、最初っから最後まで明夫ぬらが出ずっぱりというエピソードは最終3話(第95~97話)までほぼなく、例によって各エピソードのゲスト妖怪の暴走を裏から操る黒幕という立場に徹しています。
 でも、今期の明夫ぬらを観て、過去のぬらりひょんたちに比べて「存在感が薄い」と思う人は、そうそういないのではないでしょうか。

 そうなのです。今期の明夫ぬらはまさに「黒幕中の黒幕」、「短期集中型ぬらりひょん」といった感じで、おふざけ一切なし、イージーミスもブチギレも一切なしで不敵に鬼太郎の前に立ちはだかる、「史上最恐」にして「史上最凶」のぬらりひょんなのです!!

 まず、第2部のラスボスにあたる「地獄の四将」、すなはち「鵺」、「黒坊主」、「鬼童伊吹丸」、「九尾の狐玉藻前」の妖怪ビッグ4(黒坊主……?)を解き放った真犯人こそがぬらりひょんだったという、登場前の前提からしてものすごいハードルの上げ方なのですが、その悪行に恥じないかのように、今期の明夫ぬらは日本の政財界に大きな影響力を持つ謎のフィクサーとして人間界に完全に溶け込んでいるらしいことがわかります。この時点で、どんなにがんばってもゼネコン企業の社長どまりだった過去のぬらりひょんたちとは一線を画すサクセスぶりを見せているのですが、最終的にはあの西洋妖怪軍団をも手玉に取って、自分以外の全妖怪と全人類とを全面衝突させて双方ともに力をそぎ、そののちに自分の思い通りになる妖怪のみを従えた「新世界」を創ろうとする、正真正銘の破壊者としての野望をあらわにするのでした。こわすぎ……

 今期の明夫ぬらの容姿に関してみてみますと、その姿は、まさに原作者水木しげるがその妖怪画集で描いた、我が『長岡京エイリアン』で言うところの「ダークぬらりひょん」(薄暗い日本家屋の玄関口に暗めの羽織袴姿で上がり込んでくる姿 1970年刊の『水木しげる妖怪画集』が初出か)をかなり忠実にトレースしたデザインになっています。つまり、同じく水木しげるの作画を元にしていると言っても、マンガ『墓場の鬼太郎』の『妖怪ぬらりひょん』に登場する「タレ目でひょろっとした体型のぬらりひょん」とは全く別流の容姿になっているのです。
 そのためこの明夫ぬらは、マンガのタレ目タイプに準拠したアニメ第2・4期のぬらりひょんはもちろんのこと、ダークぬらりひょんを基盤としつつもやや頭身を高くして人間味のあるアレンジを加えた第3期とも、そもそも水木しげるデザインを元にしていない第5期ともまるで違う、頭部が異様に膨張し(3.5頭身くらい?)、小さめの目にも鋭い眼光をたたえた異形の老人の姿をしています。
 この容姿からもわかるように、明夫ぬらは自らの手を汚して格闘戦に出るという局面はほぼなく(アニメぬらりひょん伝統の手製爆弾と仕込み杖は一応持っていますが)、自分の身に危機が迫った時のバトル対応はもっぱら、腹心の妖怪・朱の盤(演・チョー!!)に一任しています。
※『ゲゲゲの鬼太郎』サーガでは、アニメ第3期いらい、顔の赤い股旅姿の妖怪の名前を一貫して「朱の盆」と表記していますが、我が『長岡京エイリアン』では、この妖怪伝承の起源から使用されている「朱の盤」表記で通させていただきます。

 ここよ! この、「ぬらりひょんと朱の盤」というコンビ自体はアニメ第3期いらいの腐れ縁なのですが、ここの関係性もまた、第6期はだいぶ違うんです。
 まず、朱の盤がギャグ要員じゃない! 決して知的な存在のようにも見えないのですが、過去シリーズで定番となっていた「ぬらりひょんの指示を間違える」とか、「ぬらりひょんの過失に愚痴をつぶやいて逆ギレされる」といった漫才コンビのような笑える関係がいっさいなく、ただひたすらにぬらりひょんの破壊的な思想に心酔し、「頭脳」で立ち回るぬらりひょんを「パワー」で守る用心棒の立場に尽くしているのです。
 そしてそのパワーも決して伊達ではなく、わりと本気めにぬらりひょんを狙ってきた鬼太郎のリモコン下駄、髪の毛針、霊毛ちゃんちゃんこの全攻撃をなんなく食い止める超頑丈な肉体と顔面を有しており、鬼太郎との全面対決が実現せずにシリーズが終了したことが悔やまれるような無限の可能性を秘めた強キャラに描かれているのです。また、演じているのがあのチョーさんなもんですから、とぼけた雰囲気の中にもたま~に見えるサイコな振る舞いやドスのきいた啖呵が、こわいこわい!
 かつてのシリーズでの経歴をひもとけば、だんだん人間(ユメコちゃん!)や鬼太郎ファミリーのあたたかみにあこがれを抱くようになり、なんとかご主人様と鬼太郎たちを仲直りさせる方策は無いものかと苦悩する軟派っぷりを見せることもあった朱の盤だったのですが、思いッきりドス黒い悪に染まった明夫ぬらに巻き込まれる形で、今期の朱の盤もまた、妥協いっさいなしの冷血殺戮マシーンと化していたのでした。セーラー服と機関銃ならぬ、股旅姿とガトリングガン!!

 そして、なにはなくとも、そのような悪のカリスマを見事に演じきった大塚明夫さんの名演! 第6期ぬらりひょんの強大な存在感の源泉は、ひとえにそこに尽きますね。
 『ゲゲゲの鬼太郎』サーガとは関係が無いにしても、奇しくもその偉大なる父・大塚周夫が演じた約10年後に自身も演じることとなったぬらりひょん役だったのですが、明夫ぬらは驚くほど大塚周夫の声質にそっくり! 彼の得意としていた老獪でひょうひょうとした身軽さを自家薬籠中のものとしていながらも、周夫ぬらが持っていた妖怪総大将としての人望(妖怪望)あふれる「あたたかみ」はきれいに取り払って、その代わりに大塚明夫さんご自身が持ち味としている渋みのききまくった蠱惑的な低音ボイスを差し込むことで、変幻自在に軽々と立ち回りながらも、悪意を増幅させる重さをまとった呪いの言霊を的確にはなって周囲の人々や妖怪たちを扇動する黒幕の役を、嬉々として演じてみせているのでした。銀河万丈さんとか古谷徹さんとか田中敦子さんとか(もとこォオ!!)、なみいる名優の方々が敵役を演じてきた第6期だったわけですが、そのトリを飾るにふさわしい、文句のつけようのない堂々たるラスボスっぷりだったと思います。

 やっぱりね、明夫ぬらがたった10話とはもったいない話ですよ。全97話できれいに完結した第6期ではあるのですが、最終話も規模こそ世界サイズではありますが、あくまでもぬらりひょんの作戦の一つが失敗に終わったという範疇のものですし、だいたい第6期のルールとして、妖怪は消滅する直前に青い火の玉に姿を変えることになっていますから、それで言えば自ら持っていた爆弾を炸裂させて自決したように見える明夫ぬらも、青い火の玉が出てこなかったことから、爆炎にまぎれてトンズラぶっこいただけである可能性が非常に濃厚です。
 ご主人様を失った朱の盤も、最終話のエピローグであんなに意気消沈していたことですし、また帰ってきてほしいですね、明夫ぬら!

 このように、同じ悪役ポジションではありながらも、過去のシリーズとは全く異なる性質の「ガチで笑えない悪」として登板した2010年代最後の大塚明夫ぬらりひょんだったのですが、その異質ぶりを象徴する最大の特質は、やはり「鬼太郎討滅に執着していない」という点だと思います。
 そうなのです。この明夫ぬらは、鬼太郎に別段因縁があるとかいう過去もありませんし、そもそも感情も思い入れも持たずに「妖怪のたぐい」の一勢力としか捉えていないようですから、できれば自分の鉄砲玉の一つに組み入れたいけど、できなきゃ適当に人間側を扇動して潰すから別にいいや、程度のコマとしか考えていないのです。
 これは革命的ですね……過去の英霊ぬらのみなさま方は(すみません、西村知道さんはまだ現役バリバリよ!?)、自分の妖怪総大将の夢を執拗にツブしにかかる鬼太郎を強く恨み、自らの手で鬼太郎を倒すことにこだわり、そのためにいつの間にか愛憎半ばする感情を持ってしまい、「わしが殺すまで、死ぬな鬼太郎♡」的な矛盾しまくったベジータ思考におちいりながらも、肝心の鬼太郎からはなしのつぶての塩対応ばかりで毎回ひどい目に遭わされるという悲惨な運命をたどっていました。谷崎潤一郎の『痴人の愛』か!!
 ところが、そのあたりの敗因たる執着を明夫ぬらはハナッから捨てているんですからね。なるほど、だから今期のぬらりひょんは一貫して鬼太郎のことを「鬼太郎君」と呼んで距離を置いていたのか。君子危うきに近寄らず……煮ても焼いても死なない奴はほっとけということですね。さすが、ばかに大きな頭は見せかけだけではありません。

 もう一つ第6期で気になったのは、『ゲゲゲの鬼太郎』サーガの中でも随一の知恵袋であるはずの目玉おやじが、地獄の四将事件の黒幕にぬらりひょんがいる可能性に露ほども思い至っていなかったということですね。
 たいていこういう場合、目玉おやじはぬらりひょんの名を聞いたとたんに「やはりあいつじゃったか……」とかなんとか言って、妖怪界における口八丁手八丁のペテン師妖怪ぬらりひょんの存在をしたり顔で語りだすはずなのですが、今期に限って、博識なはずの目玉おやじですら、その名を聞いても「ぬらりひょんじゃと!?」とおうむ返しに応えるだけで、全然ピンときていないような反応なのです。

 つらつらかんがみまするに、これ、目玉おやじはぬらりひょんのことを「妖怪をけしかけて人間を襲わせる過激派」と昔から認識はしていても、まさか地獄の四将を脱獄させるようなことをしでかす大物とは捉えていなかった、もっと踏み込むならば、ぬらりひょんのことを「瀬戸内海にいるぷかぷか浮き沈みするだけのタコ妖怪」としか認識していなかったのではないでしょうか。また目玉おやじは、ぬらりひょんが日本の政財界に通じているという現状も把握はしていたようなのですが、それだけに、なんだかんだ言っても人間界に依存して生き延びておるではないかと、その妖怪・人間どっちつかずのフワフワした態度を見くびっている部分もあったのではないでしょうか。そういう処世の仕方もアリなのかのう、みたいな感じで。

 つまり目玉おやじは、目の前に現れた頭でっかちの老人妖怪が、あの人畜無害なイタズラ妖怪ぬらりひょんのなれの果てであることなぞ知る由もなかったので、あれほどまでに驚いていたのではないでしょうか。ということは、ぬらりひょんが最終的にあのような姿と性質に進化したのは、目玉おやじがあずかり知らない経緯をへて「いつの間にかそうなっていた」ということだったということなのでしょう。

「いつの間にかそうなっていた」……まさに、妖怪ぬらりひょんの歴史を体現する文言ではありませんか。

そして、ぬらりひょんがそうなってしまったのは、間違いなく、佐藤有文さんをはじめとする昭和妖怪ブームでの「人間たち」の想像の結果に他ならなかったのです。

 なるほど……目玉おやじがぬらりひょんの進化に全く気づかなかったのも非常に筋の通った話ですね。だって、完全に人間ルートで進化したのが今のぬらりひょんなのですから。
 そう考えると、内心で「ぬらりひょん……? あの江戸時代生まれのペーペーで、せいぜい夜の海をぷかぷかしてるか、百鬼夜行のモブにまざってうろうろしてるだけの奴が、なぜ日本政財界の黒幕で、地獄の四将を脱獄させてんの?」という目玉おやじの困惑も、よくわかろうというものです。

 余談ですが、私がいつもお世話になっている Wikipediaのアニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』の「第6期ぬらりひょん」の項では、彼が「鬼太郎や目玉おやじとは旧知の間柄」と記している文章があるのですが、こればかりは全く承服しかねるものがあります。だったら地獄の四将事件の真犯人にぬらりひょんを想起しないわけがないじゃありませんか。第6期の設定ではどう考えても、せいぜい鬼太郎父子はぬらりひょんの名前か昔の姿を知っている程度どまりだと思います。これはおそらく、記事を投稿した人が明夫ぬらの異常になれなれしい言動に幻惑されて誤った認識を脳裏に刻み込んでしまった結果に違いありません。ホ~ラ、妖怪ぬらりひょんは現実世界にちゃんと生きてるよ!!

 それはともかく、劇中ではそんなこと一言も言っていませんが、2010年代最後の大塚明夫ぬらりひょんは、史上最悪のヒールっぷりを発揮した「悪の権化」でありながらも、同時に、江戸時代生まれの海の妖怪ぬらりひょんという設定も見据えた正体不明の「新しい妖怪」であることを、あの目玉おやじのぼんやりしたリアクションは体現していたのでした。第6期、やっぱすげぇな!!

 字数もかさんできましたので、アニメ第6期『ゲゲゲの鬼太郎』に登場した大塚明夫ぬらりひょんに関するつれづれはここまでにいたしとうございますが、ともかく史上最大規模の発展を遂げた狂乱の「ぬらりひょん2010年代」は、「悪」の方向での究極進化ともいえる明夫ぬらの大活躍によって幕を閉じたのでございました。

 さぁ、次なる2020年代に登場する最新モードスタイルぬらりひょんは、いったいどのような方向性に活路を見いだしてゆくのでありましょうか!?
 まだまだ終わらないぬらりひょんサーガの続きは、まったじっかい~!!

 明夫ぬらもまた観たいけど、チョーさん朱の盤の胸をすく活躍も、いつかまた観たいな♡


≪特別ふろく 息子もストーキング!!明夫ぬらりひょん、全出演時間、全行動≫
第76話『ぬらりひょんの野望』(2019年10月6日放送)
 …… 出演3シーン計4分05秒、セリフ9言(大塚議員との会話、土転びとの会話、朱の盤との会話)
    ※朱の盤は出演3シーン計4分20秒、セリフ5言
第77話『人間消失!猫仙人の復讐』(10月13日放送)
 …… 出演2シーン計7分05秒、セリフ20言(鬼太郎との会話など)
    ※朱の盤は出演2シーン計7分05秒、セリフ5言
第82話『爺婆ぬっぺっぽう』(11月24日放送)
 …… 出演1シーン50秒、セリフ2言(鬼太郎との会話)
    ※朱の盤は登場しているがセリフなし(出演50秒)
第85話『巨人ダイダラボッチ』(12月15日放送)
 …… 出演3シーン3分45秒、セリフ11言(鬼太郎との会話)
    ※朱の盤は出演2シーン計3分35秒、セリフ7言
第89話『手の目の呪い』(2020年1月19日放送)
 …… 出演3シーン計4分45秒、セリフ10言(鬼太郎との会話、人間への妖怪決起をうながす演説)
    ※朱の盤は出演3シーン計4分45秒、セリフ4言
第92話『構成作家は天邪鬼』(2月9日放送)
 …… 出演1シーン計55秒、セリフ1言(天邪鬼の封印を解く)
    ※朱の盤は出演1シーン計55秒、セリフ3言
第94話『ぶらり不死身温泉バスの旅』(2月23日放送)
 …… 出演3シーン計4分25秒、セリフ10言(朱の盤との会話、西洋妖怪軍団との会話)
    ※朱の盤は出演3シーン計4分25秒、セリフ7言
第95話『妖怪大同盟』(3月15日放送)
 …… 出演3シーン計4分20秒、セリフ8言(西洋妖怪軍団とともに宣戦布告、警察への妖怪ゲリラアジトの通報、ねずみ男との会話)
    ※朱の盆は出演3シーン計4分20秒、セリフ2言
第96話『第二次妖怪大戦争』(3月22日放送)
 …… 出演3シーン計9分15秒、セリフ31言(西洋妖怪軍団に毒を盛る、ねずみ男を籠絡、ねずみ男にマナを狙わせる)
    ※朱の盆は出演4シーン計9分50秒、セリフ9言
第97話最終回『見えてる世界が全てじゃない』(3月29日放送)
 …… 出演1シーン計3分05秒、セリフ5言(鬼太郎との会話)
    ※朱の盆は出演2シーン計3分12秒、セリフ2言
トータル …… 全出演23シーン総計42分30秒(97話中10話に出演)、セリフ総数107言
ちなみにチョー朱の盤は …… 全出演24シーン総計43分17秒(97話中10話に出演)、セリフ総数44言

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