長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

在りし日の名曲アルバム  鬼束ちひろ『 infection / LITTLE BEAT RIFLE 』

2014年10月17日 23時02分10秒 | すきなひとたち
『 infection / LITTLE BEAT RIFLE 』(2001年9月7日リリース 東芝EMI)

 『 infection / LITTLE BEAT RIFLE(インフェクション/リトルビートライフル)』は、鬼束ちひろ(当時20歳)の5thシングル。作詞・作曲は鬼束ちひろ、プロデュースは羽毛田丈史。
 このシングルがリリースされた4日後の2001年9月11日にアメリカ合衆国で同時多発テロ事件が発生し、奇しくも『 infection 』の歌詞にある「爆破して飛び散った心の破片」という部分が事件を髣髴とさせるということで、同年11月まで同曲のプロモーションは自粛され、『 LITTLE BEAT RIFLE 』のプロモーションのみが行われた。
 オリコンウィークリーチャートでは最高5位を記録した。

収録曲
1、『 infection 』(5分44秒)
・テレビ朝日系列連続ドラマ『氷点2001』主題歌
 オーケストラ演奏をバックにしたバラードになっている。『月光』以来約1年ぶりに TVドラマ主題歌に起用された。ドラマ制作側が「人間の陰の部分・感情を豊かに歌い上げる歌声と世界観が完全にドラマと一致する。」と賞賛して楽曲起用を決定したが、この作品自体は鬼束がデビュー直後に書き上げていたストック曲のひとつであったという。リリース直後に発生したアメリカ同時多発テロ事件を予見していたかのような歌詞から、リリース後2ヶ月間はこの曲のプロモーションは自粛された(ただしドラマ主題歌であったため、楽曲はドラマで毎週使用されていた)。鬼束本人のコメントによると、次回作『流星群』に直接つながる歌詞内容になっている。
 レコーディングもプロモーションビデオも、イギリスのロンドンで収録が行われた。

2、『 LITTLE BEAT RIFLE 』(4分35秒)
 カントリーロック調に制作されたアップテンポなナンバー。『 infection 』のプロモーションが自粛されていた期間はこの曲で音楽番組に出演していたが、もともと『 infection 』のプロモーションはリリース直前まで行われず、この『 LITTLE BEAT RIFLE 』の方がラジオで先行オンエアされていたりプロモーションビデオがオンエアされるなどしていた。


 はい~出ました、『 infection 』。私、好きですねぇ、この曲。

 前にも言ったように、私が初めて「鬼束ちひろという歌手がいる。」ということを認識したのは、ドラマ『トリック』シーズン1の最終回だったのですが、「どうやらこの人はすごいみたいだぞ!」とまで意識するようになったのは、リリース直後のこの曲のプロモーション映像が『カウントダウン TV』で流れていたのを、友人の家でなにげなく観たときでした。

「はぁ~へんがぁあ! はぁ~へんがぁああ!!」

 と何やらものすごい表情で髪を振り乱して絶叫している女の人がいたら、そりゃあ目を見張らずにはおられないですよねぇ。

 でも、この『 infection 』が9.11テロの影響で自粛されていたという情報は、今回初めて知りました。いやぁ、知らなかったなぁ!
 ということは、私はこの曲のプロモーション映像を、2001年9月8日(土曜日)の深夜(正確には翌9日日曜日の午前1時ごろ)に放送された『カウントダウン TV』の新譜紹介コーナーあたりで観た、ということになるのでしょうか。
 あらー、私が大学生だった当時は、友だちの家で夜明けまでダベるなんてことは日常茶飯事だったわけなんですが、そんな中のなにげないある一日の日付がこういう特殊な事情で限定されるのって、なんだかヘンな感じですよねぇ。ミステリー小説みたい。そうそう、9月だった。だって、遊びに行った先の友だちも、卒業制作の課題でヒーヒー言ってたもんね。うわ~13年前! どうあがいても13年前!!

 基本的にバックはピアノくらいで、なにはなくとも鬼束さんの声を重視するという羽毛田プロデュース時代の中でも、オーケストレーションという形式で演奏に相当な力を入れた大作となっております。
 私は、この『 infection 』の大いなる序曲として見逃せないものに、リリース順でいくとこの前作ということになる1stアルバム『インソムニア』の最終収録曲だった『月光 アルバムバージョン』があると思います。

 この『月光 アルバムバージョン』は、シングルバージョンの制作時にボツになったという「ピアノだけ伴奏バージョン」が元になっているということなのですが、アルバムバージョンは単なる没テイクのボーナス収録という意味合いではなく、アルバムの締めを飾る鬼束さんの最新バージョン(当時)のアップデート、そしてこれから始まる新たな動きの予告編となるものでした。
 このアルバムバージョンがシングルバージョンとどう違うのかと言いますと、実は「ピアノとストリングス」という形式はほとんど変わっていないのですが、遠い所から響いているようなコーラスがかなり淡く入ったり、鬼束さんの声自体にもエコーが入っていたりして、「かなり広い空間の中で鬼束さんが唄っている」という印象が強くなっているのです。
 つまりこれは、鬼束さんがいよいよ、あまり広くなさそうな録音スタジオで1本のマイクから想いを発信していくスタイルにとどまらず、もっと自分と周囲の空気とが同化したひとつの「世界」を持ちうる強度をそなえた楽曲を生み出すフェイズに突入した、という証なのではないのでしょうか。

 もちろん、これから創りあげていく作品の全てがそうなるということではないでしょうし、そんなに毎回毎回スペシウム光線ばっかぶっぱなしていたら本人もファンも疲弊してしまうわけで、あくまでも「そんな必殺技も出せるようになりました。」ということなのでしょうが、とにかくその人ならではのオンリーワンがあるのとないのでは、エンタテインメントの世界における実力の差はお話にならないものがあるとあると思うんですね。
 そして、商業的にどの曲がいちばん売れたのかとか有名なのかとかいう話はわかりませんが、あの『月光』をさしおいてでも、「どの曲が鬼束さんを『ジャンル:鬼束ちひろ』にしたのか」という疑問の答えになる一曲こそが、この『 infection 』であると私は確信しているのであります。

 この『 infection 』では、まず、気持ちいいくらいに他者がいません。
 これまでの楽曲では、『月光』もそうでしたが、何らかの理由で自分の想いが届かない「あなた」との距離から物語が始まるものがあったり、他者がいない歌詞だったとしても、自分と、自分を受け入れてくれない「環境」との対峙を訴える構図になっていたのですが、この『 infection 』では、もはや自分の鬱屈を生み出す要因は外にはなく、いつの間にか「愚かな病」に「感染」して弱くなってしまった自分自身そこにこそある、という異常に硬度の高い確信がひたすら語られていくのです。

 『月光』でなんやかや言いましたが……私は神の子なんかじゃありませんでした!

 まさにこれは、デビューして間もなく期待の新人歌手として世間の脚光を浴び、「王道のアイドル路線にはあんまり乗っていけない人たちのためのアイドル」的な時代の寵児となった鬼束ちひろの「人間宣言」だったのではないのでしょうか。

 ただし、なんとも周到なことに、この『 infection 』は『月光』以下、過去の曲の否定にはまったくつながっていません。むしろ、今までの「独白形式」をさらに強化した延長線上にある作品ですし、歌詞の中では「夜になればこの心の境地に陥ってしまう」という、「夜になれば」の限定が繰り返し語られていくのです。スタイルにまったくブレがないんですね。
 つまり、自分の今おかれている状況に関して、環境のせいにして嘆くのも、他人との関係に一喜一憂するのも、全てを自分自身のせいにしてガクーンとくるのも、ぜ~んぶ生きているひとりの自分なんですという、人間ならではの「一貫した支離滅裂っぷり」! それこそが鬼束ちひろの世界であり、多くの人々の強い共感を得る理由なのではないのでしょうか。

 だからこそ、「あ~、スッキリ♪」といった感じで『 LITTLE BEAT RIFLE 』もいい感じに聴こえてくるんじゃないのかなぁ。ホントに、この2曲が合わせられてひとつの商品になっている、その振り回しっぷりというか情緒不安定っぷりこそが、鬼束さんの魅力の本質なのでしょうねぇ。まさしく夜の『 infection 』があってこそ、夜が明けた後の『 LITTLE BEAT RIFLE 』があるのです。
 『 LITTLE BEAT RIFLE 』は、もう勧誘ですか?ってくらいに神、神って言ってますね。いや、勧誘って言うとずいぶんつまんない例えになって申し訳ないんですが、ジャンヌ=ダルクって言うと大げさになりすぎるしねぇ。でも、鬼束さんとジャンヌ=ダルクって、やっぱりどちらも「……こわっ。」っていう空気がありますよね。

 ジャンヌ=ダルクは16歳から世界史の表舞台に姿をあらわして、4年後に19歳で処刑されたわけなんですが、鬼束さんはまさに、その没した年齢から歌手としての活動を始めた、ということになります。
 よもや臆面もなく「転生」なんてアホなことをぬかすつもりはありませんが、まぁ『ドリフ大爆笑』の1コーナー「もしもジャンヌ=ダルクが歌手になったら?」をやれるくらいのオーラは、2001年当時の鬼束さんははなっていたのではないのでしょうか。

 ててれ てててっ てーれ ふぁぁ~ん♪

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