代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

ポスト自民党時代の公共事業 「鉄とコンクリート」から「木と土」へ

2009年10月16日 | エコロジカル・ニューディール政策
 前回と前々回の記事に関連して、バクさんから以下のようなコメントをいただきました。

*****バクさんのコメント引用******

 前原氏はダム工事の全面見直しを進めるようですね。趣旨には賛成できますが、それに変わる公共事業を展開しなければ日本経済はさらに悪化するような気がします。関様は八ッ場ダムについて大変ユニークですばらしい代替案を提示されていて、「なるほど」と大変勉強になりました。しかし、これはダム工事に関わる建設業者やそこではたらく労働者への対策にはならないと思います。今の金融危機に対して即効性のある取り組みはやはり公共工事しかないと考えます。
   (中略)
 民主党政権で藤井氏と前原氏および官房長官の言動を聞いていると、不況政策を進めているのではないかと思います。期待できるのは亀井氏だけのような気がします。少なくとも彼らには今の格差社会をなんとかしようというものが感じられません。彼ら3人の言動と麻生氏を比べればまだ麻生氏の方が上に見えます。少なくとも積極的な財政出動が今もっとも必要であると思います。

*****引用終わり********

 以上のコメントに対する私の回答に加筆して新しいエントリーとさせていただきます。自民党政治の終わりの後を受けた新しい公共事業の真髄を一言で表現するとしたら、「鉄とコンクリートから土と木へ」ということになるのではないでしょうか。「鉄コン事業」を文字通りの「土木事業」に変えることです。雇用吸収力と地域経済への波及効果は倍加されるでしょう。前原国交大臣に提案したいと思います。

もっとも大事なのは農業と林業

 何と言っても重要なのは、農業と林業に雇用の受け皿をつくり、建設業界も農林行に参入可能な規制改革を行うことだと思います。

 例えば八ッ場ダムに関連して、『読売新聞』や『産経新聞』などは、「洪水がきたらどうするのだ!」などと血眼になって叫んでおります。実際には国交省の洪水計算はウソなのですが、とりあえずそんなに洪水が心配であるのなら、耕作放棄された棚田を復田することを真っ先に考えるべきでしょう。豪雨の際、水田が目いっぱいに雨水を貯留して洪水対策となるように、畦の高さを30cmとします。すると1haで3000立米の貯水容量が発生します。

 八ッ場ダムの洪水調整容量は6500万立米です。水田でこれを代替しようとするとざっと減反された水田や放棄された棚田を2万1700haほど復田すればよいわけです。利根川水系の流域面積は168万haもありますから、ちょっと棚田を復田するだけでかるく2万haは集まるでしょう。これで八ッ場ダムの洪水調整容量を代替できるのです。 
 国交省は「森林の治水能力は計量できない」といって代替案から遠ざけようとします。水田ならばちゃんと計量できますので、確実な代替策です(本当は森林の洪水調整能力もちゃんど計算できるのですが・・・・)。

 この洪水調整用水田(=遊水池)を、地方の建設業者に造成・管理してもらいます。畦を高くしながら復田する作業も立派な公共事業です。そこで生産されたコメは米粉用にすればよいでしょう。民主党はすべての農地に所得補償制度を導入しますので、市場価格と米粉の生産コストの差額分は政府から補填されることになります。

 条件不利な山間の棚田に関しては、洪水調整用の機能を鑑みて、個別の所得補償の対象に加え、国土保全費用として別枠の予算を追加で支払うべきでしょう。ダムの維持管理費を支払うのと同じ理屈ですから何の問題もありません。そうすれば、ダムという一過性の公共事業ではなく、建設業界により永続的な公益的な業務を提供できます。

 林業での雇用創出策ですが、私がこのブログで以前から述べているように、間伐材の運搬を治水対策の公共事業として実施し、運び出された木材を自然エネルギー源として活用することです。間伐材の運搬も、建設業界にも請け負ってもらえばよいわけです。  
 
 もともと地方の建設業界は、兼業農家の働き先として発展してきたので、農業・林業で再び食べられるようになれば「元のサヤに収まる」というだけです。そのために、建設業界が、農・林業に参入できるような政策的後押しが必要だと思います。

公共事業の木造化

 林業と関連しますが、「公共事業の木造化」も大事だと思います。「コンクリーから木」へ。ちょっとした砂防堰堤程度のものなら木造で対処できます。
 昭和に造られた砂防ダムの多くは、すでに堆砂で埋まっています。砂防ダムが堆砂をせき止めているせいで、日本の海岸線の砂浜の侵食は著しく、国土は狭くなっているのです。
 下流の方から、すでに埋まった砂防ダムを壊すのも公共事業です。砂防ダムを壊しながら堆砂を流せば、海岸線の復活につながります。コンクリート砂防ダムを壊しながら、再び造る必要のある砂防ダムや堰堤は、木造の透過型で造り替えるという公共事業を起こすべきでしょう。木造透過型ですと、常時、砂を流すことができます。よって海岸線侵食を起こしません。大雨の際にのみ、巨大な土石を止めて災害防止機能を果たすのです。(木材のみでは構造的に弱いという場合、一部は鉄骨を使えばよいでしょう)
 
 地元の木と土を使って、地元の企業がやれば、従来の公共事業と違って、資金は100%地元に落ち、地元の雇用に貢献します。従来の公共事業は、だいたい総額の70%はゼネコンに流れて、地域の外に持ち出されていたのです。公共事業の「地産地消化」を進めれば、公共事業費の総額が半分に減っても、地元経済への波及効果は、なお従来の鉄コンクリート型の公共事業を上回るに十分なものとなります。

公共事業の民生化

 「公共事業の民生化」も大事ですね。子育て支援というなら、保育園を増設し、小学校も改築・増築しましょう。これを各県の県産材でやれば、林業による雇用確保、ダムや道路に代わる建設業関連の仕事創出と一石二鳥です。
 公共施設と住宅への太陽光パネルの取り付けなども、補助金とフィードインタリフ(固定価格買い取り制度)の二本立てで、麻生政権のプラン以上に野心的に行えば、地方の建設業界には、公共事業で失う以上の仕事が生まれます。

国家戦略局はどうした?

 こうした具体的な戦略の立案は、やはり菅さんの国家戦力局マターになると思います。今のところ菅さんが政権の中で干されている印象で、私としては心配です。やはり今の閣僚の中で、亀井さんの他に能力的に期待値が大きいのは、菅さんです。ぜひ国家戦略局にはがんばってもらいたいのです。
 
 「反貧困」の湯浅誠さんも国家戦略局入りするようです。東大前総長の小宮山宏さん(工学博士)も国家戦略局入りするとか。こうした人々を選べる点で、やはり菅さんの目に狂いはないと思います。あと私が推薦するとしたら、森谷正規さんなんかふさわしい人材だと思います。
 小宮山宏さんの温暖化対策は、約2兆円の国債の発行で、一般住宅を片端からエコ住宅に替えていき、節約できたエネルギー代で国債の償還にあてていくというプランです。(このページ参照

 このくらいやらなければ「2020年までの25%削減」は不可能です。しかもこのプランのすばらしいところは、国債によって実施するので家計への負担にならない点です。とかく麻生政権の頃は、「温暖化対策で家計負担が年間7万円も増える」などとウソの計算で脅され、低所得者層が怒って温暖化懐疑論がどんどん広がるという状況でした。国民が豊かに快適になり、負担はないという温暖化対策プランをこそ政府は立案すべきです。そうすれば低所得者層も味方になり、懐疑論がこんなにブームになるという事態も終わるでしょう。

 こういうプランを立案できる小宮山さんのような工学系の人こそ、日本に必要な理系脳なのです。経済学者にはできない計画です。いままでの自民党政府は、具体的なプロジェクトの計画や技術面で全く無能な経済学者を重用しすぎました。これからは理系の人間を重用すべきでしょう。一部の経済学者は「不況になれば創造的破壊が起こる」なんてノーテンキに言っていますが、彼ら本人は「創造的破壊」を起こせるような技術的知識なんて何もないのですから、いい気なもんです。「自分が創造的破壊に寄与できないんなら、邪魔にならないように引っこんでなさい。あんたたちの出る幕じゃないんだ!」と言ってやりたいです。

 私たちとしても、国家戦略局が、縦割り行政の利害でがんじがらめの官僚に負けないよう、果敢にプロジェクトを立案し、その要求を財務省に呑ませて予算化できるよう、応援していかねばならないと思います。
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1 コメント

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Unknown (apeescape)
2009-10-17 02:15:57
林業は本当にunderappreciateされてますよね。温暖化対策も雇用対策も治水のためにもなりますし。ブラジルは温暖化対策として2020年までに森林伐採を80%下げると最近命じましたね。

森林の治水能力が計算できないってw。治水能力の計算だけ比べればダムの方が勝るかもしれませんが、副作用など全体的なuncertaintyを見ればダムって分からない事だらけだと思うんですが。少なくともサーモンなどは生育環境を元の自然体に戻せば喜みますね。
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