代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

室田武氏の郵政民営化反対論 ―郵貯を環境通貨に―

2005年08月03日 | 郵政民営化問題
 最近、自分自身の研究活動に追われまくっていたため、まったくブログが更新できず大変に申し訳ございませんでした。ようやく少し余裕ができました。いよいよ参院本会議での郵政法案の採決が近づいて参りました。明後日の本会議で否決され、解散・総選挙となることを心より願います。参院自民党の皆様、どうか自民党執行部の脅しに屈することなく、毅然として、己の信念に従って、勇気をもって反対票を投じて下さるよう、心からお願い申し上げます。
 日本は大きな岐路に立たされようとしています。私に言わせれば、この問題は、日本がこのまま米国の植民地になっていくのか、それとも独立国として生き残り、自立的な産業政策を維持・発展させていけるのかをめぐる分水嶺での闘いといってよいものです。単なる利権をめぐる自民党内部の内ゲバであるかのように報道するマスコミは、根本的に誤っています。

 さて、このあいだ同志社大学の社会的共通資本研究センターでの研究会の後、同大学経済学部の室田武先生と、茶飲み話をしながら郵貯民営化問題を論じ合う機会がありました。その中で、室田先生の郵貯改革論を詳しく伺ったのですが、私がこのブログで論じてきた「エコロジカル・ニューディール政策」との接点も多いものでした。室田先生の郵貯改革論は、是非とも多くの人々に知っていただきたいと考え、このブログで紹介させていただきます。
 以下に紹介する室田氏の郵貯論に関して、興味を持ってくださった方々は、詳しくは下記の文献をぜひとも参照してくださりたく存じます。
 
室田武 1998「郵貯から考える環境通貨制への転換試論」『アエラムック 新経済学がわかる』朝日新聞社、94-99頁。
室田武 2004『地域・並行通貨の経済学: 一国一通貨制を超えて』東洋経済新報社、第3章。

 室田氏は、郵貯に預金された貨幣を一般に流通する汎用貨幣と区別して、「戦略貨幣」「戦略通貨」と呼んでいます。それは郵貯の預金が、政府による国策を遂行するという使命を帯びて戦略的に運用されてきたからです。何にでも使える汎用性通貨とは異なるのです。
 室田氏は、郵貯の資金は、戦中においては戦争遂行目的に使われ、戦後においてはダム建設など環境破壊的な用途に多く使われてきた点を批判しながらも、「郵貯は悪い目的に使われてきた良いお金である」として、郵貯・簡保の民営化に強く反対しております。
 そして、郵貯・簡保の資金を、悪い目的ではなく、良い政策課題を遂行させるための新しい使命を帯びた戦略通貨へと転換せねばならないというわけです。このブログを読んできた方は分かるかと思いますが、私も全く同じ考えです。

 室田氏は、大蔵省資金運用部が廃止され、郵貯と財投のつながりが切れたことを評価した上で、郵貯から公共的性格を剥奪してしまうのではなしに、福祉・環境の改善を目的とする新しい使命を帯びた戦略通貨、つまり「環境通貨」へと転換せよと主張します。
 そのために、環境省と総務省の連携の下に、「環境通貨局」(仮称)を設置することを提案しています。環境通貨局は、分権的に各地方に設置し、市民と環境省・総務省との協議を経て融資先を決定するという構想です。利潤追求目的の民間銀行とは全く異なる、民意に基づく戦略的政策金融機関を設立しようというわけです。地域の環境通過局は、国家戦略を担うというよりも、福祉・環境重視の循環型社会の構築のための政策金融として、地域での資金循環を図ります。その具体例として、室田氏は論文の中で、路面電車の復活とか、スギ・ヒノキの間伐材を利用した木材コージェネレーション・システムの構築を掲げています。後者に関しては、私もこのブログで再三訴えてきた通りです。こうした融資先は、民間銀行は及び腰ですが、地域環境通貨局であればできるわけです。

 政策融資というものは、民間の金融機関が及び腰になるようなリスクの高い新産業分野であっても、公共性を最優先して行なうものです。成功すればそれを起爆剤として民間銀行も後を追って融資を行なうことが可能になり、その新産業は一気にテイク・オフすることが可能になります。しかし、当然、失敗もあるでしょう。室田氏は、その元金保証のために、環境税からの税収を利用せよと提案しています。とにかく環境政策の遂行のためには、直接規制や課税政策のみでは不十分であり、どうしても金融による環境保全を目的とした資金の流れを戦略的に作り出さなければならないのです。


 それにしても、『朝日新聞』は、『アエラムック』という自社の発行物の中で、室田氏が、これだけ具体的なオルタナティブのビジョンを提示しているにも関わらず、一回も室田氏のもとに取材にも行かなかったとのことです。自社の社説に反する主張だからでしょうか。こうした具体的な構想が、マスメディアを通じて一般の人の目に触れるだけで、「郵貯→財投→悪者」というステレオ・タイプを信じ込まされている正義感のある市民の目を開かせることもできそうなものなのに・・・・。
 日本のマスコミは、偉そうな顔をして批判することはできますが、積極的な代替案を提示する能力は全く持ちません。これが、日本の今日の惨状を生み出した大きな原因であるように、私には思えます。
 室田氏の構想に反応して連絡してきたのは、自民党の某代議士だけだったそうです。野党からも音なしとか・・・・。

 郵政民営化は、日本から戦略通貨が消えることを意味します。それは、日本が未来社会構築のための戦略的ビジョンを持たず、仮に持てたとしてもそれを遂行する能力を持たない惰性的国家へと腐敗・転落することを意味します。政策金融がなくなれば、産業政策の遂行は不可能になるのです。かくして、プラザ合意・日米構造協議より始まった、米国による「日本破壊プロジェクト」は完結するというわけです。

 中国からの些細な干渉に比べ、私には米国からの戦略的内政干渉による日本破壊の被害の方が何百倍も大きいと思うのです。靖国参拝を止めたところでは誰も死にませんが、郵政が民営化されれば確実に失業者も自殺者も大幅に増加します。それでも中国が怖いから米国に従うべきと主張する自称・愛国主義者の方々は、私の目からは単なる売国主義者にしか見えません。
 
 明後日の参院で法案が否決されることを祈ります。

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2 コメント

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あ~あ、参りました。(苦笑!) (toriya)
2005-08-03 20:12:09
 ご無沙汰しております。

 2ヶ月以上危険性を訴えて来ましたが、ブログ上では異常なほど民営化のようです。

 ストーリーが出来上がっているような気配がします。国民不在の郵政民営化のようです。
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Unknown ()
2005-08-04 10:54:43
 お忙しい中、全力を尽くしているtoriyaさんのお姿には本当に敬服いたします。toriyaさんを見ていると、日本にもまだまだ自分の頭で思考し、闘いを挑むことのできるサムライはおられるのだと安心いたします。

 今後も頑張りましょう。

 
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