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”マダムX”〜ミリタリー・ウーメン

2017-08-14 | アメリカ

昨日に続き、「マサチューセッツ」内の展示
「ミリタリー・ウーメン」から、抜粋してお送りしています。

「ハローガールズ」というのをご存知でしょうか。

通信業務、電話交換などの仕事は軍の計画と調整に不可欠です。

第一次世界大戦では、陸軍は電話線を前線に沿って建設しましたが、
オペレーターは不足していました。
同盟国同士で通信を行うためにはプロフェッショナルな交換手が必要で、
軍隊は国内の民間交換手を登用することにしました。

彼女らは経験豊富であることはもちろん、フランスの回線に接続するために
英語とフランス語の両方を話す必要がありました。

彼女ら「ハローガール」たちは、アメリカ軍に特殊能力で参与した最初の女性となります。
その勇敢さと卓越性は、軍隊における女性の境界を広げ、
その後、戦地への参加を増やす道を開いたと言えましょう。

当時軍人を志望した女性の前職で圧倒的に多かったのが秘書だったそうですが、
彼女は何と海洋学者でした。

写真だけ見ると、カウンターに座っている店主のおばちゃんみたいですが、

メアリー・シアーズ Mary Sears (1905-1997)

はネイビー・リザーブのコマンダーであります。

1943年にWAVESに中尉として入隊した彼女は、海軍水路局に海洋研究ユニットを作り、
そこで海軍に戦略的優位性を与えるために潮、波の高さ、
および海洋指標などのデータを集め、分析することによって
海軍の戦略・作戦立案に多大な貢献をしました。

最初は「ユニット」だった彼女の部隊は、じきに「ディビジョン」となり、
彼女は最終的に400人もの部下を統率する司令官までになります。

戦後も海洋学の研究によって多くの論文を著わし、
各界から名誉賞を与えられた彼女は、現在海軍の

海洋調査船USNS Mary Sears

にその名前を遺しています。


さて、真珠湾に先んじること6ヶ月前、「なぜか」戦争情報局は政府、
そして軍のどちらにも情報局を設置して、諜報、破壊工作、
プロパガンダやその関連を取り扱う

戦略諜報局( OSS)

を統合しました。
その設立者となったのが、「アメリカ情報機関の父」「 CIAの父」と呼ばれる
弁護士出身のウィリアム・ドノバンという人物です。

OSSには時節柄多くの女性が勤務することになり、郵便物整理やファイリング、
電話応対だけでなく、暗号解読や記録などの任務を行いました。

  

また、アメリカはまたスパイに女性を登用しています。

 ヴァージニア・ホール・ギヨ Vaginia Hall Gillot(1906-1982)

 はドイツ側から

 「連合国スパイの中で最も恐ろしい人物」

という評価を得ていました。

彼女は当初イギリス、のちにアメリカの戦略諜報局の特殊作戦部に加わり、
身分を偽って高速魚雷艇でブルターニュからフランスに潜入、
ゲシュタポの捜査から逃れ、フランス中央部の抵抗組織と接触し、
連合軍の補給物資と部隊の降下地点の指定を行い、セーフハウスを築き、
ノルマンディーで上陸した連合軍と現地部隊の連絡を取り持ったほか、
ドイツ軍に抵抗する3つの大隊へのゲリラ戦術訓練を支援し、
9月に連合軍が彼女の部隊と合流するまで重要な報告を続け、そして・・・

勲章をもらいました。
彼女に勲章をつけているのは、 CIAの父、ウィリアム・ドノバンです。

若い時に狩猟で間違って自分の足を撃ってしまい、切断して
義足だった彼女のことが、ドイツ側の手配書には

 「足を引きずる女」

 と書かれていたということです。

 パトリシア・フォウラー Patricia Fowler

USS「ダンカン」に乗組の海軍軍人であった彼女の新婚の夫は、
彼女が妊娠中の1942年の10月、「サボ沖海戦」で戦死してしまいました。

息子を出産してから軍に職を求めた彼女は、新しく設置されたOSSに採用され、
なぜかいきなり諜報員の訓練を受けることになりました。

おそらくですが、その怜悧さ、特に記憶力と語学力を買われたのでしょう。

トレーニング終了後、彼女はスペインに派遣され、
解読された暗号翻訳とそれをタイプする任務を行いました。

情報活動を行うにあたり、彼女はボヘミアンのようなライフスタイルで、
フラメンコなどを始めることを()組織に奨励されていたということです。

 

米国海軍暗号解読Bombeを操作するWAVE

第二次世界大戦中、海軍の女性部隊 WAVESが600人、
ドイツのエニグマ暗号を解読するために働いていたことをご存知でしょうか。

彼女らは1943年から米海軍暗号解読機「ボム」の建設とその操作を支援しました。
プロジェクトは秘密のベールに包まれ、多くが携わっていながら
2トン半のマシンの正確な機能を誰も知りませんでした。
そして任務に関わるWAVESは、割り当てられた部屋に入る時、
海兵隊の警備員に必ず身分証明書を提示することが求められ、
自分が関わった仕事について徹底した守秘義務を求められました。

大勢のWAVESが携わったプロジェクトによって、
大戦中にエニグマは解読されたわけですが、
その成果は徹底的に秘密にされ、
終戦までドイツ軍はエニグマを使い続けました。

 

アグネス・メイヤー・ドリスコール Agnes Meyer Driscoll(1889-1971) 

は「ナチュラル・ジーニアス」な(天賦の才能を持った)

「クリプタナリスト」(Cryptanalyst 暗号解読者)

でした。
人呼んで、「ミス・アギー」または「マダムX」。


統計学と音楽を大学で勉強した彼女は、また語学に非常な才を発揮し、
英語の他に独仏語、ラテン語、および日本語まで流暢に話したといいます。

第一次世界大戦が始まってから海軍に入隊し、書記事務をしていた彼女は
その仕事をこなすうちにその図抜けた優秀さを認められることになりました。

そしてコードと信号の部門の事務に割り当てられ、暗号解読に携わったのです。


そこでまず彼女は暗号の作成、デコード(解読)を行う器械の開発に、
その後米海軍の標準装備となる
CM(コミニュケーション・マシン)という暗号器械を
共同で発明しています。

また日本軍のM-1暗号機(米軍にオレンジマシンとも呼ばれていた)を破り、
帝国海軍の暗号を解読するための暗号解読機を開発したのも彼女でした。

また、1926年に日本の外務省が採用していたの手動コード、通称レッド暗号
「 Red Book Code」を三年かかって解読しています。

 

「暗号解読者の一覧」

 というウィキのページを見ると、彼女については

「エニグマや日本軍の暗号を沢山解読した」

 となっています。
ミッドウェイ海戦における日本の大敗の理由を、単純に

「日本側の暗号が解読されていたから」

と評価するなら、米海軍勝利の立役者は「マダムX」だったということもできます。

アメリカの女性暗号解読者には他にも、

エリザベス・スミス・フリードマン夫人(1892−1980)、

ジェヌビエーヴ・ヤング・ヒット(1885-1963)

などがいます。

フリードマン夫人は夫も同業でしたが、常に単独で解読を行いました。
ジェヌビエーブ・ヒットはアメリカ初の女性暗号学者で、陸軍のために
暗号解読の解説書を書き、コーディングとデコードに携わった先駆です。

彼女は生涯を通じて誰にも師事せず、その知識を独学で得ていました。

さて、本項冒頭の「映画女優」が誰なのか知りたいという方、お待たせしました。

みなさんが今日普通に使用しているBluetoothやGPS、そしてWi-Fi、
これらの理論の基礎となる技術を開発したのが
この付けまつげバッサバサの美女だと言ったら驚かれるでしょうか。

へディー・ラマー Hedy Lamarr(1914-2000)

女優のような、ではなく彼女は本当に女優です。
1930年母国オーストリアでデビュー後、1933年の『春の調べ』で全裸シーンを披露し、
それで有名になった彼女は、その後アメリカに移住、1930年代から1950年代までの間は
ハリウッドスターとして活動し、シャルル・ボワイエ、スペンサー・トレイシー、
クラーク・ゲーブル、ジェームズ・ステュアートなど錚々たる面々と共演しています。 

で、なぜこの人を取り上げるかと言いますと、彼女は女優でありながら
発明家、科学者というもう一つの顔を持っていたのです。

 

時は第二次世界大戦真っ最中。

彼女は海軍の魚雷無線誘導システムが頻繁に枢軸国側の通信妨害を受け、
目標を攻撃することに失敗していることを知り、日頃お世話になっているアメリカのために
妨害の影響を受けないような無線誘導システムを開発しようと思い立ちました。

彼女と共同研究者のジョージ・アンタイルは、魚雷に送る電波の周波数を頻繁に変えれば
妨害されにくいと考え、周波数ホッピングシステムの基礎設計案を作成します。

ちなみにアンタイルも、科学者でありながら音楽家でした。


彼らはこの基礎理論で特許も取るのですが、実装が困難であったことに加え、
肝心のアメリカ海軍が
軍隊の外(しかも外国人女性)の発明を受け入れることをせず、
案は長い間棚上げにされていたということです。

改良された彼女の理論が軍艦に採用されたのは、キューバ危機になってからのことでした。

 

これだけの天才で美貌も兼ね備えた、側から見ると天から二物を与えられた
誰でも羨むような女性であるのに、彼女の晩年は決して幸せではなかったようです。

生涯に六人もの夫を取り替え、死んだ時には天涯孤独の独身。
全ての夫との生活は長くて7年、短くて1年と短期間で終わっているだけでなく、
二回万引きで(しかも万引きしたのは目薬と下剤)逮捕されています。

また、若い時の美人が陥りがちな加齢による醜形への異常な恐怖から
整形手術ジャンキーになってしまい、なんども手術を受けたそうですが、
その結果は決してよくなかったという話も残されていますし、
亡くなった時には薬物中毒であったという息子の証言もあります。

 

85歳で心不全のため亡くなった彼女は、遺言によって、
故郷のウィーンの森に散骨され、
そこで永遠の眠りについています。

彼女のなした発明は、現代における

「周波数ホッピングスペクトラム拡散技術」

の前身の一つです。
その原理はこんにち全てのワイヤレス技術の基礎となって、
後世の我々の日常に大きな恩恵をもたらしています。

 

 

続く。 




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2 Comments

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周波数ホッピング (Unknown)
2017-08-15 07:06:35
周波数ホッピング方式で有名な通信システムはHaveQuickとLINK-16ですが、実用化は1980年代で、キューバ危機(1960年代初め)の頃には無理だったのではないかと思います。

おっしゃる通り、思い付くのは簡単でも実現には困難が伴います。資金を掛けられる軍需での実用化は前世紀ですが、携帯電話等民需での実用化(例:CDMA)は今世紀に入ってからです。
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Unknown (理系女子オンパレード!)
2017-08-15 08:59:55
これを読むと、男性に比較して女性には科学的センスがないとか創造性が劣るとかの男性優位論者が、欧米に比べて日本は~と同じ事を言っている連中と同じで、劣等感が強いところから生じたと分かりますね。今で言うリケジョ、当時すでに大学教育を受けた女性の比率の高さを示してますが、まだ女性に選挙権のない州もあった時代、ガラスどころかコンクリの天井にぶつかって、暗号解読室もスパイも彼女たちにはやっと見つけた活きるフィールドだったかも。万引き……日本にも最近もいましたね、女優の万引き(笑)
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