ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

戦艦「伊勢」慰霊祭~「いせ」出航作業

2015-01-17 | 自衛隊

「ただいま出航いたしました」というアナウンスの後、
矢継ぎ早に艦橋では乗員たちの声が飛び交います。

「内角5度~!」「内角5度!」
「右後進最微速翼角整定!」「右更新最微速翼整定!」



そのとき艦首では、喇叭と同時に降下された艦首旗を
たたんでいるのが見えました。

続いて

「内角7度~!」「内角7度」
「両舷ていーし」「両舷停止っ」



こちら航海長でしょうか。
今ここにいるのは、艦長が立ち確認するのを待っている模様。

その間もその後ろの乗組員たちの真剣な声が飛び交います。
冒頭写真はその様子ですが、真ん中にいる先任伍長に、
わたしはその少し前ご紹介を受け挨拶をしました。

「こんな格好をしてますが普通の男です」

と笑いながらおっしゃったので思わず和んだのですが、実のところ
こちとら「こんな格好」を見慣れているため、先任伍長の言葉に

「いやすみませんが十分普通の人に見えますけど」

などと内心思っていたのでした。

ところが出港後の艦橋で見かけた先任伍長は、もしさっき合わなかったら
同じ人とは思わなかったかもかもしれない、というくらい、
その雰囲気や顔つきまでもががらりと変わってしまっていたので、

「今がその”普通でない瞬間”なのね」

と深く頷いた次第です。
いやー、かっこよかったですよこのときの先任伍長。美声だし。
「取り舵」の指示を出すのが先任伍長の役目のようです。

「両舷後進両角整定」「両舷後進両角整定」

ぼ=====、ぼ=====(汽笛)

「とーりかーじ」(先任伍長)「とーりかーじ」
      「とーりかーじ」   「とーりかーじ」

大事なことなので三回復唱します。

「取り舵15度っ」「取り舵15度」

「30度」「30度~~!」

「取り舵30度」「取り舵30度」

「両舷後進びそーく」「両舷後進微速」



ちょうどこの時ウィングの艦長。
厳しい眼差しを見せる横顔が絵になります。



岸壁に立つ見送り。
こういうときにもちゃんと整列するんですね。
帽触れはこういうときにはしません。



タグボートもお仕事しています。
自衛隊的にはタグボートは「支援船」(またでた、”支援”!)の
「曳船」というのが正式名称です。
海上自衛隊の所有ですが、「自衛艦」ではありません。
つまり自衛艦所有のゴムボートにさえつけられる自衛艦旗を
付けることはないということになりますが、ごらんのようにちゃんと
艦首旗・・・・じゃないですよね。なんていうのかしら。
とにかく日の丸をはためかせて巨大な「いせ」の出航作業を補助しています。



押し終わったらしく、曳船は「いせ」から離れていきます。
艦体を押す舳先にクッションのようなものをかけていますね。
拡大してみると、操舵室にいるのは三人でした。



曳船はつねに二隻一組で曳航作業を行います。
一仕事終わってこうやって並んで(必ず前の船の航跡を追っている)
帰っていく姿に萌え~。



曳船から目を転じるとそこには雨雲に煙った呉の山々が。
わたしなどこういうとき、かつて先ほどと同じ出航作業の声によって
出航していった海軍の軍艦がここにあったときのことを彷彿としてしまい
つい70年以上前に想念を辿らせてしまうのでした。



ちょうど眼下の後甲板では、出航と同時に降納された自衛艦旗を
たたんで手にした降納係?の海曹二人が歩いて戻ってくるところ。



気がつくとジャイロコンパスレピータの前に艦長がいました。
右に左に目を走らせ、双眼鏡を当てて、を繰り返します。
ジャイロコンパスレピータは

「ジャイロコンパスの指度を指示するレピータ」

という定義が防衛省の資料に示されています。
別のところにあるジャイロコンパスの指度を、たとえば
無線室など、自動操舵装置の機器やブリッジ以外の場所に
転送して表示するものです。



このとき、出航作業の「山」は越したのか、艦内に向けて再び
先ほどの女性海曹がアナウンスを始めました。

「ここで『いせ』の誕生について説明いたします。
『いせ』は『ひゅうが』型ヘリコプター搭載護衛艦の2番鑑であり、
従来のヘリコプター搭載護衛艦から格段に向上したヘリ収納能力、
及び最新型装備を導入した最新鋭護衛艦として、平成23年、
IHIジュアパンマリンユナイテッド横浜工場で完成・・・」

それを聞いていたわたしが

「横浜だったんだ。そういえば磯子っていうところがあってね」

と隣にいた知人(誘ってくれた人)に話しかけたところ、
ちょうど同時に彼女が

「航海長の”いただきます”が生で聴けました」

とこちらに向かって言いました。
彼女は放送ではなく全く別のものに注目していたのです。



レピータの前の艦長と交代するとき、航海長は「いただきます」
と必ず言うことになっているのだそうですが、
ちょうどそれがわたしが喋り出すのと同時だったようです。

というわけでわたしはそのとき聞き損なったわけですが、
こんなこともあろうかと(嘘)動画を撮っていたので
この部分を後で見直してみたところ、わたし自身の声と後ろの
「両舷停止」にかき消されて
全く聞こえませんでした・・・orz




そういえば、昔軍艦が文字通り「操舵をもらう」であった頃、
それもまた帝国海軍時代のことですが、ミッドウェー海戦の
旗艦「赤城」艦上で南雲忠一長官が艦長に「もらうぞ」と操艦を代わり
あっという間に魚雷を8本回避して総員を驚かせたという話を思い出しました。

今でも「もらいます」「いただきます」なんですねえ。



見学者が皆で超盛り上がった瞬間。
「そうりゅう型」潜水艦が海面航行しています。

そう、この写真をアップしていいのかどうかを以前
読者の皆さんにお聞きしていたんですよ。

海面から上は普通にどこでも見られるので大丈夫、
ということでしたので安心して出すことができます。
ただ、スクリューの形が丸見え状態だったので(そりゃそうだ)
配慮するべきかどうかわからないまま一応配慮して
スクリューの写っていないものにしました。

乗員は前に10人、司令塔に4人、フィン?に一人、

中央に10人、後ろに7人と32人見えています。
「そうりゅう型」定員は64名とのことですが、ちょうど半分。
内と外に半分ずついるってことでよろしいでしょうか。

どうして皆上に立っているかというと、そう、「いせ」に挨拶してたんです。
わたしのいる場所から聞こえませんでしたが、「いせ」からは
答礼として喇叭が吹鳴されていたようです。


護衛艦いせ そうりゅう型潜水艦の敬礼に対し答礼



この写真もスクリューだけ消しておきました。

もしかしたらそこまでする必要なかったかな・・。



最新鋭型護衛艦ですもの、全てが電子化されていて
紙のチャート(海図)なんぞすでに使っていないのでは?
・・・・とは別に考えたこともありませんでしたが(てへっ)、
やはり「いせ」でも紙チャート健在。
どうも下の製図作成器みたいなのから出てくるらしい。

電卓と大きな定規を使って書き込んでますね。 
ENC(Electronic Navigational Chart)は使わないのかな。

護衛艦という船のシチュエーションによってはGPSが
必ず使える状況とは限らないので、いざというときのために
マニュアルで日頃からやっているんですねわかります。

もちろん艦橋内には電子チャートもありまっせ。

先日88歳の方を助手席に乗せたとき、(若い時にはそれこそ
ギラギラのスポーツカーを乗り回し、BMWがまだ日本に
輸入されていなかった頃にすでにオーナーだったという)

「ナビを使うようになって、車に地図も置かなくなりました」

「でもあの地図でこの道を行こうとか考えるのが楽しいんですよ」

「そうなんですが、日々のことになるとどうも・・・、それに
地図を見なくなると地図の見方が下手になりますね」

「使わない能力は退化しますからね」

という会話をしたことを思い出しました。
レベルの違う話かもしれませんが、何でも簡易化させていけば、
それを扱う人間の能力はそこから一歩も動かず、たとえば護衛艦でも
いざとなったら大海原の中でGPSの使えない中、最悪の場合は
天測もろくにできない乗組員ばかりがおろおろする結果になります。

出航作業に帝国海軍時代そのままの掛け声を使い、
プリレコーディングではなく人間の吹く信号ラッパを合図にする。

頑なに海自が海軍のやり方を守るのにも、旧習墨守や懐古ではなく、

「フネを動かすのは、人」

という根本がそこにはあるからに違いありません。



続く。




 



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9 Comments

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潜水艦の写真 (お節介船屋)
2015-01-17 22:39:52
エリス中尉をトラウマにしてしまったようで申し訳ありません。
外部からの写真はテレビおよび雑誌等に相当掲載されており、このように神経質なられることはないと思います。
前にもお答えしましたが水上航行中はプロペラは海面の出ていません。

エリス中尉がプロペラと思われているのは、X舵の上部ではないかと思います。


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操舵員長 (雷蔵)
2015-01-18 05:05:46
艦橋で操舵している美声のおっちゃんは、操舵員長(航海科の先任海曹)と呼ばれる人です。階級章は一曹なので、迫力ありそうですが、船には曹長もいるでしょうから、先任伍長ではなさそうな。

南雲長官が操艦を「もらった」話ですが、有事なら絶対にないとは言い切れませんが、少なくとも、海自では戒められている行為です。

船の操艦(指揮権)は絶対的に艦長に属し、たとえ、上位者の隊司令やもっと上の群司令(南雲長官は、この立場)でも、口出しすることはあっても、直接指揮する(もらう)ことはしない(心の中で思っても、艦長に配慮して差し控える)のが、今の考え方です。

艦長経験者でないと、さらに上位の指揮官にはなれないので、お互いにこういう認識であり、海自では隊司令や群司令が「もらう」ことはなさそうです。
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記念撮影バックはよいか? (佳太郎)
2015-01-18 10:40:07
戦時、このような標語があったそうですね…(英語混じってない?と突っ込みたくなりますが)
実際どこまで写していいやら?まあイベントでの撮影位なら問題ないでしょうけど、それくらいなら他国も知ってます。的な感じでしょうし。

それでも、どこかの国が航空ショー?で練習機兼軽爆撃機の情報を盗まれるのではないかと心配していたようですがね。
日本でも戦前はとある鉄道愛好家の方が横須賀で写真を撮っていたら憲兵に連行されたという話がありましてずいぶん違いを感じますね。しかもその方当時小学生だったと言いますし…

まあ自衛隊も一般人に見えるような所に機密を見えるようにしておくへまなんてやらないはずですしね安心していいような気がします。
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そりゃそうですよね・・。 (エリス中尉)
2015-01-18 10:57:50
航行中に海面にスクリューが出てるわけありませんよね。
X舵の上部なら別に秘密にする必要は全くなかったということですか。
まあでも、インターネットというのは公開してはいけないものをうっかり公開して
取り返しがつかないことになるということが多いですから、
その点慎重すぎるくらい慎重にしないと、と常にピリピリしているのです。
決してお節介船屋さんのせいでトラウマになったわけではありませんのでご安心ください。
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え、別の人でしょうか (エリス中尉)
2015-01-18 11:16:08
専任海曹ですか?
実は、このあと慰霊式でおそらくこのおっちゃんだと思われる人が供物を海中に投下したのですが、
そのときに「海曹を代表して先任伍長」と紹介されていたんですよ。
士官室で紹介されたのもその人だった気がするし、もしかして同型鑑だったのかな?

「操舵をもらう」の話、そうなんですか。
海軍でもおそらくそうだ(洒落?)ったと思うのですが、何しろあの時はこれを有事と言わねばいつ言う、という戦闘状態。
その後「赤城」沈んじゃったくらいですから、もしかしたら赤城の艦長はおろおろして
尊重するもなにも、という状態だったのかもしれませんね。

「大和」のときにはかつて「大和」の名艦長といわれた操舵の天才だった森下信衛は
艦長である有賀にしょっちゅうアドバイスはしても操舵はしなかったそうですが、
沈没時に駆逐艦に移れといわれたとき、「操艦には自信があるので沖縄まで持っていく」
と言い、鑑に残りました。
最後の最後なら艦長でない自分も操艦できると考えたのでしょうか。
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バックは良いか(笑) (エリス中尉)
2015-01-18 19:03:56
情報の流出を恐れるものを航空ショーに出すなよ。
とまず言ってやりたいです。

引っ張られた小学生の話、わたしも知ってます。
おそらく本人ではなく、背後関係(つまり親)が疑われてのことでしょうけど。

さっき、特設監視艇について調べた時に知ったばかりですが、日中戦争の頃、
民間から徴用した漁船を監視艇にして戦線に投入していた海軍、
その徴用船が上海沖で戦没した時、それをニュースにした新聞記者が
「情報流出」で引っ張られたそうです。

記事には漁船が上海沖で沈んだことしか書かれていなかったそうですが、
「え、なんでそんなところに漁船がいるの」
と国民が疑問を持って徴用船(特定秘密だった)のことを知ってしまうというのが理由だったとか。

あと、ゾルゲ事件の後は「立ち話」すら注意するようにというお達しがでてました。
戦時歌謡には「X(エックス)」二十七号 」「.防諜の歌 」「防諜音頭 」「仮面を剥げば 」
「間諜ハリハリ 」「御用心数へ唄 」「用心づくし 」「スパイの眼 」「スパイ御用だ 」
「スパイは躍る 」「スパイ戦線 」「.スパイを防げ 」「.防諜とは 」「スパイさあ来い [防諜歌] 」
「スパイヨウジン [聖戦童謡集ニツポンバンザイ]」などという「防諜歌」が作られました。
うちのゆうせんの「戦時歌謡」のチャンネルでは時々「ご用心数え歌」が聴けます。

ってあんまり関係なかったですね。

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「もらいます」「いただきます」 (ハーロック三世)
2015-01-19 03:13:47
この「もらいます」「いただきます」はおそらくイギリス海軍で操舵を艦長から航海長に交代する際、「You have」「I have」とやっていたのを直訳しているのではないでしょうか?

実際に英語が基本で、船からそのまま用語が移植された民間航空機では、機長から副操縦士に操縦桿を渡す際に(その逆も)、「You have」「I have」とやります。

ちなみに飛行機の右側はスターボードサイド、左をポートサイドといい、乗り降りが左側というのも艦船と同じです。
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I have でしたか! (エリス中尉)
2015-01-19 08:36:05
おお~!ハーロック三世さま、なんと合点の行く説明!おもわず鳥肌が立ちました。
パイロットが退役するときに(自衛隊だけかも?)水をかけられるという習慣があるそうです。
「船で海に放り込まれた名残り」だと聞いたことがありますが、これも英国由来でしょうね。
イギリス海軍は紳士の国の割に昔荒っぽかったので、海軍の何かと言えば殴るという体質は
原初その悪習?しっかり真似したせいだと聞いたこともあります。
それにしても「steady」を「よーそろ」と訳したのはすごいですね、
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パイロットの退役 (ハーロック三世)
2015-01-19 10:24:29
パイロットの退役時に水‥‥

民間ではないですね(笑)
CAのお姉さんが花束を用意して、基地(所属空港を基地と呼びます)到着時に奥様がお出迎えしたりします。

軍のパイロットの場合に水をかけるというのは、船が入港する際、歓迎放水が行われることに由来してないでしょうか?

民間航空機でも、その空港に初乗り入れの際には、空港の消防車による歓迎放水が行われます。
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