ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「FLYBOYS」

2011-08-26 | 映画

サンフランシスコに来てびっくり。

なんと、 大型書店のボーダーズが「閉店」するというではありませんか。
このことは息子の方が噂で先に知っていて、
ボーダーズそのものが無くなってしまうその原因はアメリカ経済の悪化もありますが、
なんといっても「書籍離れ」なのだそうな。

キンドルなどの電子書籍に本腰を入れて、人件費や
場所代のかかる店頭での書籍販売からは
他社に先駆けて手を引くということなのかもしれませんね。
なんだか淋しいです。
ちょうど近くのボーダーズで「在庫処分投げ売りセール」をやっていたので、
本日の映画「FLYBOYS」 を購入しました。

大正解!
久しぶりに好みにドンピシャの映画を見つけました!

以前わたしの好きな映画の傾向として
「男たちが皆で一つの目的に邁進する達成もの」
だと言ったことがありますが、これですよ。まさにこれ。


第一次世界大戦中、アメリカが参戦を決める前に、志願して
フランス空軍に身を投じドイツ空軍と戦ったアメリカの若者たちがいました。
実在した「ラファイエット戦闘機隊」をモデルにした、
「空駆ける青年たちの物語」

それがこの「FLYBOYS」です。
FLYとBOYSの間にスペースが無く、一つの単語としてスペリングされていることにご注目。
(スペースがあると『飛べ、少年たち』で単語ではありませんね)

主役はスパイダーマンのハリー・オズボーン役でおなじみ、ジェイムズ・フランコ。
自宅の農場が抵当に入り、食いつめた末新天地に運を賭けるカウボーイ、
ローリングスを演じます。
部隊長役にはフランス人ジャン・レノを配しての意欲作。
制作総費用70億円。お金かけてます。

「外人部隊」として結集してくるアメリカ人青年たち、それぞれにストーリーがあります。
彼ら「FLYBOYS」を全員絵に描いてみました。
いかにわたしがこういう映画が好きかということが、この無駄な熱意に現れていますね。

 

黒人スキナーのパイロット姿に違和感ありまくり、と思ってふと気づけば、
第二次世界大戦中って白人しか飛行機乗りになれなかったのですね。
このラファイエット部隊には人種の制限はなかったようです。
当初露骨に彼を差別をする、ハーバードを中退して勘当同然軍に入れられたおぼっちゃまロウリー。
アメリカから逃げるように入隊して過去のリセットを図るビーグル、
「六週間生き残れば幸い」の空中戦を生き抜いた虚無的な孤高のエース、キャシディ。
ペットのライオンは実話だそうです。(ライオンなのに『ステイ』してる・・・かわいい)
部隊の一人一人の描写が丁寧になされたプロットは「メンフィス・ベル」を思い出させます。


ところで、当ブログ「リヒトホ―ヘン映画『レッド・バロン』再び」の項に、
「発明されてすぐの飛行機で空戦とか、無茶もいいところ」

と書いたことがあるのですが、
この映画、最初の字幕に


「できてすぐの飛行機で彼らは戦っていた云々」

と、(さすがに『無茶』とは書いていませんでしたが)
全く同じことが書いてあって、いきなり我が意を得たりの出だしでした。

そしてやはり当ブログ「ヒッカム空軍基地の星条旗」の日に
一対一の騎士道的な正々堂々を重んじる戦いであった、
と一次大戦における空戦を評したのですが、
この映画でもドイツ軍航空隊との空中戦はまさに
「顔のある個人同士の」戦いであることがストーリーの軸となっています。

凄腕のドイツ軍パイロットは黒いフォッカーDr.lに乗った非情の男、
ブラック・ファルコン。
彼以外のフォッカーはみんな赤で、この、自分の斃した相手を見てはほくそ笑み、
飛行機に乗っていない敵を撃ち殺す「悪役キャラ」が
リヒトホーヘンと被らないように配慮しています。

関係ないのですがあるところで

『ガンダムのシャアのモデルはリヒトホ―ヘン』

って説を見ました。
本当ですか?これって常識?

その一方で、ブラックファルコンの犯した「ルール破り」に対する謝罪として、
優位を取りながらローリングス(フランコ)を見逃す
「正々堂々とした敵」もおり、ハリウッド映画にありがちな

「ドイツ人、悪い。ロシア人、悪い」

という構図にはなっていません。
ユダヤ資本のハリウッド映画ではなく、この映画は配役の自由を理由に、
メジャーの映画会社ではなく独立系のプロダクションによって制作されたということです。

確かに、その方向性は功を奏していますし、丁寧な作りの佳作であるのですが、
そのせいで配給、公開の規模は小さく(東京の映画館は2館のみ)
こんな映画があるということすら知らなかった人も多くいるかもしれませんね。



とはいえふんだんに費用をかけているだけあって、
フォッカーもニューポールも実機が用意され、
さらにCGによって巴戦やインメルマンターン(のようなもの)も
かなりのリアリティで再現されます。

各々の機にトレードマークを描くことは、
飛行機が戦線に導入されてすぐ行われたようですが、
ここでもニューポール17の機体に

「抵当に入った農場の焼印」
「相手を穴だらけにしてやるという意味でキツツキ」
「アメリカインディアン」

なんかを各々がペイントしているシーンがありました。
(そこで縁起を担ぐなら、まるでここを狙えと言わんばかりのダーツの的みたいな
ニューポール17の翼のマークをまず何とかしろと突っ込んでみる)

彼らの入隊、そして一人前になるまでのトレーニング、初陣とそれに続く戦闘の合間に
主人公ローリングスのフランス娘(ジェニファー・デッカー。可愛い)との恋愛も描かれます。
お互いしゃべれない英語とフランス語の片言で意志を伝えあう、淡い恋愛。
「戦争映画の客寄せ女優起用に反対する会」の会長であるところのエリス中尉ですが、これは許す。

その理由。

「この時代はこのようなことがあっても不思議ではない。いや多々あったであろう」
「これは戦争映画ではない。青春映画である」


空戦の描写にしても、この時代の複葉機や三葉機の戦いは、まだ義理人情や復讐、
そういった人間的なものを絡め安く、戦争映画と言うよりむしろ
「戦場を舞台にした青春群像ドラマ」として作られた映画といえるでしょう。

でもまあ、たかが一兵卒が飛行機をデートにこっそり持ち出して
彼女を乗せて口説くというのは、さすがに少し無理があったかな。


パイロットのための訓練で椅子をぐるぐる回した後平均台の上を歩かせたり、
隊長のジャン・レノがマフラーの巻き方を教えるのに

「これはかっこいいから巻くのじゃないんだ。
見張りの時に首が摩擦でやられるのを防ぐためだ」

みたいなことを(相変わらず字幕なしの聴き取りですので違ってたらすみません)
言うシーンがあり、日本における搭乗員の訓練の原型というのは
この時代にすでにある程度の形になっていたのだということが分かります。


一対一の騎士道精神を重んじた戦い、名前も顔もある相手、
という戦争にしかありえない展開として

ブラックファルコンが卑怯な空戦をする
それに心を痛めたドイツ軍の「正義漢」パイロットが、その償いとして空戦で手加減する
その後ブラックファルコンがラファイエット隊のエース(キャシディ)を撃墜
死んだエースの機のマークをつけてその仇討ちを果たす

という、こうやって書けばわりとベタなプロットになっています。
実際のラファイエット隊のエピソードを
かなりの部分取り入れているということですが、どこまで事実かな。

そして。
その「仇討ち」なんですが・・・・。
これ書いちゃうとこれから観るつもりの人の楽しみを奪うので書きませんが

「いやそれは・・・・パイロットとしていかがなものか」

と思わずつぶやいてしまったという・・・・・。
いや、いいんですよ。そもそもこれは戦争だから。でもねー。

ブラックファルコンがかなり「嫌な奴」に描かれているのも、このオチに

「いやしかし、許す。だってこいつ嫌な奴だし」

と思わせるための伏線だろうか、とふと考えてしまいましたよ。

さて、映画冒頭にも書かれていた

「できて10年そこそこの飛行機で戦っていた」

件です。
平均寿命4週間から6週間、初陣の戦死率の高い不安定な兵器であった戦闘機。
さらに当時はパラシュートはまだ無く、渡されるピストルは

「機体が火に包まれたときの自決用」

遅かれ早かれ戦死することを最初から覚悟せずには乗ることもできなかったのです。

おまけに、命をかけて戦った者には何ともやりきれないとしか言いようがないのですが、
第一次世界大戦における航空戦の勝ち負けは実は
戦局にほとんど影響を及ぼさなかった
というのが定説になっています。

まさに何のための戦い、なんのための戦死。


しかし、科学の最先端である飛行機を駆る、選ばれしパイロットに皆がいかに憧れたか、
そして戦地の空を飛ぶ自軍の飛行機が兵たちをいかに力づけたかは、想像に余りあります。

リヒトホ―ヘンはドイツ軍のみならず敵国軍の兵士たちにも愛され尊敬されました。

この映画でも、自分の命をかけてパイロットを救おうとする塹壕のフランス兵が描かれています。
彼らは戦う者たちの象徴としての役を担っていたのかもしれません。


わざわざ外人部隊として志願してまで過酷な空の戦いになぜ彼らが身を投じたか、
レッドバロンでも語られた「彼らは何故飛んだのか」が、
主に人物描写にディティールを求め、彼らの個人的な悩みや苦しみにまで踏み込んだことで
わずかながら解き明かされた気がする映画でした。


蛇足ですが、初陣のブリーフィングでビーグルが
「緊張を和らげようと」アメリカンジョークを飛ばし、
ジャン・レノの隊長に叱られるシーンがあります。

こういう時にジョークを言わずにいられないのがアメリカ人の習性なんだよ。

許してやってくれ隊長。





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