ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

海上自衛隊呉音楽隊 岡山ファミリーコンサート

2017-09-18 | 自衛隊

明日から連休という夜、わたしは晴れの国岡山に行っておりました。

この日に呉音楽隊が岡山でコンサートを行うということは
ある事情で企画の段階から知っており、この日はそれを聴くために
何が何でも!わたし的には岡山にいなくてはいけなかったのです。


その時には九月十五日というのが随分先のことのように思えましたが、
明日は岡山入りということをスケジュールでチェックしたとき、
改めて年月の経つのは早いものだと軽い驚愕を覚えずにいられませんでした。

場所は岡山シンフォニーホール。
6時半開演と、自衛隊のコンサートにしては始まりが遅い感じです。

そして、2時間後、わたしを含め会場に訪れた観衆のほとんどが
心ゆくまでブラスの響きを楽しみ、そして何より自衛隊を以前より一層好きになって、
幸せな気持ちで帰路に着いたのではないかと思うのです。

このコンサートは同じプログラムで今日18日にも呉で行われる予定なのですが、
いくら言葉で説明しても、百文は一聴に如かず。
実際に聴くときの驚きは当ブログを読んだくらいで損なわれることはありませんので
呉でのコンサートに行く予定の方は安心して本文を予告編のつもりでお読みください。

 

第1部 ゲームミュージック・オン・ブラス

ドラクエがスーパーマリオと人気を二分していた頃、在京オケの木管メンバーの
気軽なポップスコンサートのために、何曲かを編曲したことがあります。

「ドラゴンクエスト・コンサート」などもよく企画された頃ですが、
自衛隊の音楽隊がこれだけ真正面からゲーム音楽に取り組んだコンサートは
寡聞にして聴いたことがありません。

後半、自衛隊アピールを兼ねて(というかこちらが目的?)ご挨拶にステージに上がった
呉地方総監の池海将が、隊長である野澤健二一尉に、

「今までこんなコンサートしたことはありますか」

と聴いたとき、隊長はやはり「ない」とおっしゃっていたのでやはり珍しいのでしょう。

【ドラゴンクエスト I 「序曲」】

【モンスターハンター「英雄の証」】

【スーパーマリオブラザーズ】

【ファイナルファンタジー】

前半ではなんとこの全部を

【グランブルーファンタジー「メインテーマ」】

を挟んで全曲、前半にガッツリと演奏したのです。
モンスターハンターの「英雄の証」は音楽まつりでも聴いたことがありますが、
そのほかはよく知っている曲でありながら、こうやってまともに聴くのは初めて。

いやーしかしねえ。
今やゲームが「日本文化」であることは、リオで安倍首相がスーパーマリオになる前から
世界の共通概念となっていることに疑いを挟む余地はないと思われるのですが、
ゲーム付随音楽、ある意味これも独自の立派な日本文化であることよなあ、と、
これらの作品群に共通する、

「日本人にしか作れないメロディ」

を聴きながらわたしは一人で心の中で頷いておりました。

誰にでも理解できる平易さという意味での敷居の低さを持ちながら、
ゲームの世界観を見事に表すこれらの音楽は、例外なく
高い音楽技術に支えられた立派な大衆芸術としての確固たる位置を占めています。

そして何より聴いていて楽しいのです。

 

昔ウィーンフィルの東京公演で、同フィルと関係の深いニーノ・ロータの曲が
前半を費やして演奏されたことがあるのですが、休憩時間ロビーに現れた人の中には
明らかに

「映画音楽を聴くためにウィーンフィルのコンサートに来たのではない」

という不満げな顔をしているのがいて、実際にそんな声も耳にしました。

音楽に関しては井上大将と同じ「ラジカルリベラリスト」であるわたしなどは、
その時も、いい演奏でいい曲が聴けたんだから別にいいじゃん、
と思うだけでしたが、やはりお金を取るプロオケには、聴衆の求めるものも

「ベートーヴェンやマーラーなどの(いわゆる)高尚な古典作品」

が中心になってしまうのは致し方ないことだと思います。

その点、自衛隊はその呪縛から解き放たれている特殊なプロフェッショナル音楽隊です。
なぜなら自衛隊音楽隊の大きな位置を占めている存在意義とは

「自衛隊の広報活動」

であるのですから、お堅いクラシックファンが嫌う「ポピュリズム」も
厭わぬどころか(自衛隊だけに)武器にしてしまうわけです。
という意味で、当夜の選曲、特に前半のゲーム音楽は、自衛隊員募集の目的に照らし、
実に観衆のツボを押さえたというか、(自衛隊だけに)戦略的ですらありました。


聴いていて楽しく、さらに会場の多くの世代にアピールするゲーム音楽。
ほとんどの人たちがなんらかの形でゲームを知っているなら当然です。

ステージで池海将は、ご自身と同年代であるらしい隊長に、

「ゲーム(なんて)やったことありませんよね?」

とお互いがそうであることを確かめておられましたが、それは池海将や隊長が
ゲーム全盛期にそんなことをやっている場合ではなかっただけ(多分)でしょう。

「スーパーマリオブラザーズ」は1985年、「ドラゴンクエスト」Iの発売は1986年、
すでに30年以上前から「ゲーム世代」は始まっているのですから。

 

また、これらのゲームは基本「戦闘」という要素が入ってくるので、
曲調は
戦闘シーンや、戦いの覚悟を秘めたような勇壮なものになりますが、
何しろ演奏しているのが「戦いの本家」自衛隊であるとこちらが思い入れるせいか、
聞いていてテンションがやたら上がります。

野澤隊長も、要所要所での「魅せ方」を心得ていて、

「おおっ、かっこええ」

と思わず目を奪われる指揮ぶりでゲームの世界観を体を張って?表現していました。

また、コミカルな「スーパーマリオブラザーズ」は
クラリネットの小アンサンブルで行われました。
二人のクラリネット奏者が赤と緑のマリオ帽(どこで売ってるのこれ)を被り、
ステージの両袖をマリオのような動きをしながら出たり入ったりして、
クラリネットでゲーム音を表す、という楽しい演出もありました。


第2部 ポップス・ステージ

なんども言いますが、本日のコンサートの大きな目的は
岡山における自衛隊の宣伝、もっとぶっちゃけると「自衛官募集」、
つまり自衛隊に興味と親しみを持ってもらうことに他なりません。

その目的にあくまでも忠実に、ゲームミュージックで満場を惹きつけた後も、
いろんな仕掛けを繰り出して、聴衆を飽きさせることはありませんでした。

【ディズニー・コンサート・オープナー】

第二部が始まってもステージには誰もいません。
すると、客席扉から、まず打楽器群がリズムを打ちながら入場してきます。

この打楽器の奏者の中に、東京音楽隊で華麗なドラムを披露していた方に
そっくりな人がいたので、トラかな?と思ったのですが、どうやら
1曹に昇進してこちらに転勤になられたようでした。

ステージに打楽器が辿り着くと音楽はディズニーミュージックのメドレーとなり

「美女と野獣」「星に願いを」「ミッキーマウスマーチ」

などを楽器ごとにワンフレーズずつ演奏しながら席に着くという具合。
「オープナー」と言いつつ、「ウォーマー」の効果もあったようで、
これですっかり会場は盛り上がりました。


【アイ・ガット・リズム】

ガーシュインのスタンダードナンバーをクラリネットソロをフィーチャーして。

まず導入部が「ラプソディ・イン・ブルー」の雰囲気から
4ビートのコーラスに移るという心憎いアレンジです。

ソロをとったクラリネット奏者は、カデンツァでもちょっと
「ラプソディインブルー」を入れこみ、そのあとはクラリネットらしく
縦横無尽天衣無縫に駆け巡っていたと思ったらいきなりトーンダウンして、

♪「ソーラソソミ ソソミドレ〜 ドドレレミミレ〜ミミララソ〜」(移動ド)

あー、そういえばここは桃太郎さんの国でした。
いわゆる一つのご当地サービスってやつですか。

ところで、呉地方総監のパンフレットに記されたご挨拶によると、

呉音楽隊が岡山でコンサートを開催するのは平成19年以来となります。
10年前の平成19年といえば、防衛庁が防衛省として新たなスタートを切った年であり、
十年一昔の感がありますが、10年ぶりに岡山にて演奏できるのは、(略)

なんと、そんな長い間コンサートが行われることがなかったということらしいです。
なんでも岡山は神戸と呉の間、つまり両海自基地の間の「隙間」というか、
正直なところあまり存在感が発揮されていないお土地柄であったため、
今回のコンサートによってプレゼンスを高めようと、まあこういう狙いがあったのです。

このほかにも、隊員紹介の時に確かバスクラの女性が

「岡山出身です!」

とアピールするなど、地元アピールは随所に見られました。

 

【サマータイム】【フライミートゥーザムーン】

ここで横須賀音楽隊の中川麻梨子士長が登場し、歌を聴かせてくれました。
どちらもスタンダードナンバーで、英語での歌唱です。

「サマータイム」の前奏が流れた時、こんな低いキーで歌うの?と訝っていたら、
なんと歌い出したのはその1オクターブ上だったのでびっくりしました。

中川さんの歌はクラシックの本格的なアリアとか、日本の歌曲で
特にその本領を発揮する、と密かに思っているのですが、この日は
コンサートの目的通り、親しみやすく耳なじみのいいポップスが選ばれたようです。

本日の演奏には、まさに岡山県出身である東京音楽隊の歌手、
三宅由香莉三曹を
起用することを呉地方総監部では考えていたのですが、
翌日、東京音楽隊は演奏会を控えており(こちらもわたしは行ったんですけどね)
スケジュール的に無理という事情があったようでした。

今日の中川士長はアンコールの「赤とんぼ」が特に素晴らしかったです。
そしてわたしはこのアレンジした人のセンスにも脱帽しました。

こういう代理和音の使い方に弱いんですよね。わたし。


【ジャパニーズ・グラフティXX〜小林亜星作品集】

読んで字のごとく、小林亜星の作品をメドレーで繋いだもの。
曲が変わるたびに二人の自衛官が曲名を書いたボードを見せてくれますが、
教えてもらう必要もないくらい有名な曲ばかりで、この曲も小林亜星だったのか!
とむしろそちらに驚きました。

ざっと覚えているのを順不同で挙げると、

「ファミリーマート」

「魔法使いサリー」

「ひみつのアッコちゃん」

「人間っていいな」

「ブリジストン・どこまでも行こう」

「北の宿から」

「この木なんの木」

「積水ハウス」

特に「積水ハウス」のアレンジが無駄に壮大で感動的だったことが、
個人的にはものすごくウケて心の中で大笑いしてしまいました。

 

【恋】

4名の若い隊員男2女2が「恋ダンス」を披露。
最後にいつのまにか50代の隊長が加わり、若いもんには負けへんでー!
なキレッキレのダンスを見せてくれて、観衆大喜び。

隊長若いよ隊長。

【ジェラート・コン・カフェ】

 

真島俊夫氏のラテンな曲を真面目にやって本日の演奏の締めとなりました。

そして、アンコールの後、「軍艦行進曲」となり、
いつものように聴衆の拍子を取る拍手が始まったのですが、
Bメロと中間部の「海行かば水漬く屍」の歌詞の部分、(トリオと言います)
ここで指揮者の野澤隊長が振り返って

「お静かに!」

みたいに客席に指示をしたのが個人的には大受けでした。
また「守るも攻むるも」に戻ったら、

「はい元気よく拍手〜!」

の指示。
すっかり客席の皆も演奏に参加している気分です。

従来の自衛隊コンサートでは、「軍艦」が終わればもう演奏は終わり、
という原則を堅く守り、拍手が鳴り止まなくてもそこでステージから去るのですが、
今回だけは違いました。

 

なんと、軍艦の後、ドラムがリズムを刻み、全隊員がステージから降りて
「蛍の光」とともに客席に挨拶しながら後方へと退場していったのです。
近くを通った隊員に皆が手を振り、声をかけ・・・、
これは一層親しみが湧くなあ、とこの演出に感心しました。

しかもそれだけに終わらず、全隊員がロビーでファンサービス。
野澤隊長と中川麻梨子士長は大人気です。

向こうでは呉地方総監夫妻がご挨拶。

いつも脚をクロスして演奏するスタイルが素敵なコンマスの写真も、
こっそり撮らせていただきました。(こっち見てるけど)


この日演奏会に来られた岡山の人々の心に、呉音楽隊の演奏によって
自衛隊に対する好感と興味が生まれ、

あ わ よ く ば

ここから自衛官の応募という呉地方総監部の悲願に繋がりますように。

 

続く。(えっ)

 

 



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1 Comments

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本物のプロ根性 (鉄火お嬢)
2017-09-21 12:25:09
海上に限らず自衛隊音楽隊の演奏会は大好きです。普段ならスルーする「ポップス」「歌謡系」「アニソン」も、自衛隊音楽隊なら喜んで聴きます。なぜなら演奏に技術も中身も猛烈にあり、聴くに堪えるどころか、耳が肥えた者でも非常に楽しめるからです。N響とかも放送系オケゆえに何でもやるわけですが、素晴らしいのは、どんなジャンルであれ、常に自衛隊音楽隊が「ガチ」だということです。なまじ音楽を聴く歳月が長かったので、レベル色々でも一流でも「抜いてるな」とすぐ分かってしまうのですよね。駆けつけてでも聴きたいのは、そこに常に全力投球があるから。お客を楽しませるためなら、何でもする!という、つまらない演奏家のプライドさらさらな、本物のプロ根性があるから。
私も本来的には「リクルート」が最大目的だと、音楽まつりも余分や友達の枠に何とか学生を…と奔走したのですが、若い人が行き辛いんですよね、曜日とか時間帯とか、地方からだと親が連れていかないと交通費とか……。マニアや団体のシニアが群がるより、本当はまだ馴染みのない中高生や大学生を、イベントや演奏会に行かせてあげられる方法はないもんですかね?
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