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ギャレー配置は辛いよ〜空母「ミッドウェイ」博物館

2018-04-14 | 軍艦

 

今回の「ミッドウェイ」見学には驚きました。
セカンドデッキに降りるなり、そこはギャレーだったのです。

配膳を行うカウンターの後ろは全部のスペースが調理スペースでになっています。

ギャレーというのは船上で兵員の食事を用意するキッチンのことです。
「ミッドウェイ」のギャレースタッフは、70名の

「メス・マネージメントスペシャリスト」

「メス・コック」

から成り、これらのメンバーで毎日13,000食を賄いました。

「目」という漢字の形のような通路に、機能的に設備が並んでいます。

ギャレーは24基のコンベクションオーブン、80ガロンのケトルが6個、
4基のディープフライヤー、2つの圧力調理器、そしてダイニングテーブル大の
二つのグリドル(鉄板)が備えられていました。

L字型のヒーターパイプで何かを温めるのだと思いますが、
それがぐい〜んと持ち上がるようです。

4基あるという、ディープフライ(揚げ物)用のシンクがこれかな?

「エブリデイ・イズ・ア」までが見えていたので、

「ペイデイ」「ニュー・デイ」

などと勝手に想像してみたのですが、全部写った画像がありました。

EVERYDAY IS A NEY DAY PRESS ON

ネイ、というのは前回も説明した、

キャプテン・エドワード・F・ネイ・メモリアル・アワード
(エドワード・F・ネイ大尉記念賞)

のことで、アメリカ海軍の飲食設備がすべからくその受賞を目指して
日々刻苦勉励すべし、と目標にされているところの優秀賞です。

ネイデイ、というのは、ネイ・アワードを審査するために、審査員が
抜き打ちで(ミッドウェイ現役の頃は告知があった模様)やってきて、
施設の清潔さやメニューの充実度、味やサービスの状態をチェックする日。

大抵はネイ・デイだからと特別に審査員にアピールすることをしたり、
その日に向けてキッチンを大掃除したりしますが、
付け焼き刃というのは得てして厳しい審査員の目には見破られてしまうもの。

「たとえ審査の日でなくても毎日ネイ・デイのつもりで仕事しましょう」

というキャンペーンを行なっているわけです。

"press on"というのは「推し進める」とか「ゴールを目指す」という意味があります。

キッチンにはいたるところにかつての給養員の写真と
彼の「思い出の一言」がパネルになって飾られています。

どの写真も、ヒゲや髪型に時代を感じさせます。

「リブ(肋骨部分)がメニューに乗ると、僕と友達は
だいたい2トン以上の肉をカットすることになったよ。

一日それをやって肉を処理し終わったあとには、
いつも
腕の筋肉がズキズキと痛んだものだ」

H・タスカー 1989

おう・・・それは大変でした。

まさにタスカーさんが持ってるのが、問題のリブ肉です。
骨も切らないといけないし、大量なのでさぞ辛かったでしょう。

だいたいリブ肉なんて人の手でないと処理できないんですよね。

これ全てが「80ガロンのケトル」というものです。
ケトルというと日本語ではヤカンというイメージを持ちますが、
つまり大きなお鍋ですね。

ちゃんと煮込む時のために蓋ができるようになった造り付けです。

これは大変そう・・・。
絶対調理する人の汗とか色々入ってるよね(断言)

「ケトルの担当には、いつも特に優秀な調理人を配膳しました。
なぜなら、彼らは圧力鍋の蒸気の音を聴き分けて、火加減を知り
調理をするということが身についていたからです。

朝食に煮込む大量の”海軍豆スープ”を調理するためには、
優れたカンを持っていなければならないのですよ」

C.リングランド 1984

リングランドさんは厨房人事のエキスパートだったようです。

それにしても「海軍豆スープ」(Navy Bean Soup)って・・・何。

デスク型の機械は何をするものか全くわからないのですが、
近くにベーカリーの説明があったので粉物を処理する何かです。

左は小麦粉を練るものだと思うのですが・・・。

こちらは「アフト・ベーカリー」。

 

「広さはたった350平方フィートだったが、乗組員が欲しがれば、
650個くらいのパイを一晩で焼いてやったものだ。

小麦粉が立ち上ってまるで霧のような状態になったよ」

B. ブリストル 1978

そういうところで働いた人たちは、後々喘息や慢性気管支炎など、
小麦粉の粉塵による深刻な呼吸器障害を患うことが多かったと言われます。

見たところマスクなどしていないようですし・・・。

見るからに若い調理員は肉などの下処理の係です。
下っ端のうちは食器洗いとか、こういう仕事しかさせてもらえません。

「メニューにチキンがあるとなるとうんざりしたよ。
つまりそれって1,100羽のトリをそれぞれフライにするために
9,000ピースにカットするってことだから。

僕はいまだに自分にグレーズソースの匂い染み付いてる気がするよ」

G.アヴガレノス 1958

なるほど、先ほどのディープフライヤーにトリをセットしてますね。

「ギャレーの仕事ってのはとにかくキツかったよ。
地獄のように猛烈に蒸し暑いところで長時間皮を剥き、食材を刻み、
揚げ物をしてそれを綺麗にする。その繰り返しだ。

でも、そんな中でもできる限りの美味い飯を作ってきたと思ってる」

J.ロサス 1965

というわけで今夜のディナーにはフライドチキンが・・・・。
アブガレノスくん、御愁傷様です。

と思ったら、あれれ?

ヴュルカン(バルカン、火の神)という製品名の大型オーブンでは
チキンがいい具合に焼けている模様。

今夜はフライドチキンじゃなかったの?
丸焼きならアブガレノス君は少し楽できたかもしれませんね!

 

キッチンの隅の、ちょうど凹んだようなスペースにぴったりはまる机は
メニューを考案する係のお仕事デスクのようです。

机の上に置かれているのは、レシピとメニュー表など。
あとは食材を注文するための用紙だったりします。

レシピの一つ、「マンハッタンクラムチャウダー」は・・・

材料 生ベーコン、刻みドライオニオン セロリみじん切り
  缶入りクラム トマトピューレ 人参 じゃがいも

1、ベーコンをカリッとするまで焼く(レシピL2参照)
  取り出して、刻む ベーコンの油を2のために取っておく

2、オニオンをソテーしセロリとともにベーコンの油に投入、
  7分間「テンダー・クリスプ(少し柔らかく少し硬く)」になるまで調理

3、クラムを水洗い 汁は取っておく

続きはありません。

無くなったとかではなく、ここまでしか書いていないのです。
このあとは・・・じゃがいもと人参を刻んで炒め、あさりの汁を入れて煮て

トマトピューレを加えて最後にあさりとベーコン投入したらいいんじゃないかな。

主婦のカンですが。

それと、マンハッタンとボストンクラムチャウダーとの違いは、
赤いか白いかだと思います(これもカン)

あとレシピは「サヴォイチキン」「焼いた缶入りハム」とか。
しかしサヴォイチキンはともかく、缶入りハムを焼くのにレシピなんている?

と思って読んで見ると、

「砂糖と酢を混ぜ、クローブを加えたものをフライパンのハムに振る」

というとっておきの隠し味が書いてありました。
うーん・・・ハムに砂糖と酢・・・醤油があれば黒酢あんだけど・・。

これが週間献立表。
せっかくなので、ある一日のメニューをご紹介しておきましょう。

朝食

冷たいフレッシュフルーツ、フレッシュジュース

熱々のオートミール 

ゆで卵 卵お好みで オムレツ お好みで

オーブンでフライしたベーコン
グリルしたカナディアンベーコン

ハッシュブラウンポテト

ホットワッフルにシロップを添えて

昼食

ニューイングランド・クラムチャウダー

サヴォイ・ベイクド・チキン

バーベキューしたスペアリブ

マッシュポテト

ごはん(スティームドライス)

チキングレービー

カニのスパニッシュ風

スクァッシュとズッキーニのメドレー

熱々のディナーロール

デザートバー サラダバー

(お急ぎの方用;スピードライン)

ベイクトポテトバー

ベーコン、ブロッコリのチーズ掛け

蒸したフランクフルトソーセージ

チリビーンズ

フレンチフライ

ベイクド・ビーンズ

夕食

ビーフヌードル

ローストターキー/グレービー

ヤンキーポットロースト/レッドドレッシング

人参のグラッセ、蒸したカリフラワー、

ディナーロール、

デザート /サラダバー

 

「ヤンキー・ポット・ローストって何ですか」

とSiriさんに英語でお伺いしてみたところ、
(これ発音の練習になります。下手だと聞き取ってもらえないので)
ブラウンソースのポークシチュー的なものを紹介されました。

Traditional Yankee Pot Roast

ちょっと作ってみたいと思いました。

メニューですが、「スチームドライス」とか「ビーフヌードル」などがあるのは
「ミッドウェイ」」が横須賀にいた時の影響かなと思ったり・・・・。

デザートのレシピも。
左はバナナクリームパイ、右はファッジブラウニーです。

うーん、Yum-yum!!

(クリームが多すぎるとか虫わきそうに甘いに決まってるとかはこの際なしで)

 

続く。

 

 

 



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5 Comments

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給養員 (Unknown)
2018-04-15 04:41:07
自衛隊では調理員の職種を正式には給養と呼んでいます。米軍ではMess Management SpecialistとMess Cookに分かれているんですね。

調理員は航海中、当直(ワッチ)がありません。ワッチがある砲雷科、船務科、航海科、機関科から見ると最初はうらやましいですが、朝は3時から朝食の準備。他の分隊が食事中は配食と後片付け。

8時から他の分隊が訓練になると昼食の準備。他の分隊が食事中はまた配食と後片付け。

13時から他の分隊が訓練になると夕食の準備。他の分隊が食事中は配食と後片付け。これで一日終わります。

お家でお母さんが大変な訳です(笑)
返信する
ミートスライサー (お節介船屋)
2018-04-15 11:07:59
>デスク型の機械は何をするものか全くわからないのですが、
右の機械は
形から肉を所要の厚さにカットするミートスライサーではと思います。
カッターで大きな肉を厚さを決めて連続でスライスする器械と想像しました。
左は全く想像も出来ません。


>80ガロンのケトル
蒸気式釜と思われます。下の二重になっている部分に蒸気を送り熱するようになっている釜ですが日本のように回転式ではないようで後始末や洗いにはちょっと不便ですね。
返信する
ギャレー!! (ハーロック三世)
2018-04-15 16:52:31
ご存知かと思いますが、航空機の調理施設もやはり船由来でギャレーとよびます。

今でこそファーストクラスの座席も8席程度になりましたが、バブルの頂点では実に33席もありました。(ボーイング747-300以降)

当時でさえ、ヨーロッパ往復130万円程。満席で4000万円程の売り上げ。
これが連日、ほぼあらゆる便で満席というから驚きです。
ファーストクラスが取れないという苦情に四苦八苦という夢のような話を聞いたことがあります。

そのファーストクラスのギャレー担当はなんとたった1人だったのです。
しかもファーストクラスのギャレーサイズは2畳ほどしかありません。

飛行機の食事の場合、全員が一斉に食事をするわけで、1人で33人分の食事を進み具合に合わせて用意します。

内容といえばオードブルはワゴンに盛り付けて和洋を提供。
メインの和食(台の物は肉、魚のチョイス)
またはフィレステーキ(もちろん焼き具合のオーダー有り)、ローストビーフ、魚、肉、鳥の7チョイスがありました。
スープも2種、ドレッシングも2種、デザートも和洋、チーズ、フルーツ、コーヒー、紅茶、食後のリキュールなどの凄まじい内容でした。

この33席のフルコースを離陸後2時間くらいで終わらせるのですからその激しさは想像に難くありません。
事実、食事サービスが終わるとCAはフラフラになっていました。(苦笑)

つくづくすまじきものはギャレー担当だと思った次第です。
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みなさま (エリス中尉)
2018-04-16 18:18:23
unknownさん
空母は人数が多いので、厨房もいくつかあり、
艦長と艦隊司令専用コックなんてのもいたようです。

>お家でお母さんが大変
いや、主婦が料理するのはせいぜい家族の分だけなので。
その気になれば大変ですが、上手に手抜きすることも可能です。
給養を仕事にする専門の人たちとは畏れ多くて比べることもはばかられます。(当社比)

お節介船屋さん
ミートスライサー、確かにそうだと思います。
空母は特に兵の人数が多いですから肉なんかも器械を使わなければ無理だったでしょうね。

ハーロック三世さん
わたしはギャレーは「飛行機のキッチン」という意味で知りました。
アメリカの軍艦を見るようになって、初めてこちらもギャレーという言葉が
使われていることを知った次第です。

今のビジネスは洋食か和食の選択で、それ以外にオーダーすればカレーやラーメン、
ちょっとした一品が食べられますが、
飛行機の中ってほとんど動かないのでそんなにお腹が空かないんですよね。
ファーストの食事が今も同じようなら、きっと残してしまうでしょう。

ファーストを担当する客室乗務員は一番ベテランで仕事のできる人であると聞きますが、
いくらなんでも一人で33名の相手はひどすぎますね。
バブル時代なら客室乗務員も増員していたのではないかと思っていました。
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訂正 (ハーロック三世)
2018-04-16 20:54:53
>一人ではいくらなんでもひどすぎる

すみません。言葉足らずでした。

一人で担当するのはギャレー担当で、33名分を同時に用意していました。

接客は確か数名だったはずです。
(すみません、なにぶん20数年前の話ではっきり覚えていません。)

ファーストクラスのフルコース一食で確か2500カロリーくらいあるときいたことがあります。
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