ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

海軍リーグ士官候補生隊〜USS「リトルロック」

2024-10-04 | 軍艦

バッファローのエリー湖沿いに建つ海事軍事公園。
この展示から「リトルロック」をご紹介しています。

前回までで、「リトルロック」が改装されて搭載した、
タロスミサイルのミサイルハウスやその機構などを見てきました。

ミサイルハウスを出ると、もう一度ファンテールに出るので、
そこであらためてタロスミサイルをうち仰いでみる。(冒頭画像)

ミサイルハウスの説明でも触れたように、このウィングとフィン、
なんと最後の行程で手作業によって設置されるんですねー。

そんなんでいいのか。(素朴な疑問)

というかそれだけ合理的に設計されていたってことなんだろうな。


ちなみにこれはミサイルハウスを出る直前、左側に見える装備。
これは(なかなか資料が見つからず断定はできませんが)、

弾頭トロリー(Warhead Trolley)

と呼ばれるもののようです。

甲板から弾頭が両舷のストライクダウンエレベーターで降りてくると、
空気圧で動く台車に乗せられ、その後弾頭はトロリーで
セカンドデッキ(メインデッキの一階下)でマガジンまで移動させます。

弾頭マガジンは艦の最も最下階に位置します。

必要な時には赤い部分にタロスの弾頭を挟むようにして持ち上げ、
エレベーターのように運んできます。


で、この床の部分がどうなっているかというと・・・。
なんかよくわからないカバーみたいなのが無造作に放置されていますが、
この辺りはアメリカ海軍のデフォなのでお気になさらず。

床全体がハッチとして開閉できることがわかりますね。

このハッチ部分は艦体のちょうど中央部分にあり、
この三階下(セカンドプラットフォーム)が弾頭マガジンとなっています。


マガジンハウスを出ると、そこは上甲板。
エリー湖に流れるバッファロー川の河口です。

向こう岸はエリー湖に流れるバッファロー川の右岸であり、
タイムズビーチ自然保護区として自然公園ありーの、キャンプ場ありーの、
ヨットハーバーもカヤックのランチもと盛り沢山なレジャー地です。



この日は週末でたくさんの人々がクルーズを楽しんでいました。
奥に見える河口を出ると、エリー湖で、半分から向こうはカナダです。

帆を張らずにセイリングしているカタマランは「ムーンダンスキャット」号。
キャビンにはバーがあって貸切すればケイタリングもできる模様。

MoondaceCat

■ミサイル巡洋艦「1」から「73」まで


左舷側のタロスミサイルです。

フィンに書かれた「4」は「リトルロック」の艦番号。
前回は「4」という数字そのものに驚いたものですが、
当艦がタロス巡洋艦に転換してから割り振られたと知って納得しました。

「バンブルビー計画」によって米海軍はミサイル巡洋艦の開発を進め、
その第一陣として「ボルチモア」級中巡洋艦、

CAG-1 USS「ボストン」

CAG-2 USS「キャンベラ」

が1955年に再就役しました。
CAGは重巡洋艦のCAにGuided missileのGを付け足したものです。
これが最初のミサイル巡洋艦として「1」「2」の類別番号を振られました。

ついでに重巡の類別「CA」のCはクルーザー、Aはロンドン軍縮条約で、

6.1インチを超え8インチ以下の艦砲を搭載する
10,000トン以下のの巡洋艦をカテゴリーAとする

とされて以来の類別番号です。
そして、それに続くミサイル巡洋艦が、「ガルベストン」級の軽巡、

CLG-3 USS「ガルベストン」

CLG(のちにCG)-4 USS「リトルロック」

CLG(のちにCG)-5「オクラホマシティ」

の3隻で、CLGは軽巡を表す「Light Armoured Cruiser」に、
ミサイル搭載を表すGを加えたものです。

ついでに6番以降は、テリアミサイル搭載の「プロビデンス」級で、

CLG-6 USS「プロビデンス」
CLG-7 USS「スプリングフィールド」
CLG-8「トピカ」


そして唯一原子力ミサイル巡洋艦でタロス&テリアダブル搭載の

CGN−9 USS「ロングビーチ」

タロスにターター艦対空ミサイル、アスロックと

武器よくばりセット搭載の「オルバニー」級、

CG-10 USS「オルバニー」
CG-11 USS「シカゴ」
CG-12USS「コロンバス」


あとはきりがないのでやめますが「タイコンデロガ」級の末っ子は

CG-73 USS「ポートロイヤル」

つまり、ミサイル巡洋艦は合計73隻存在したことがわかります。


■ファンテイルにて

ところで、ミサイルの下にはラック入りのパイプ椅子が見えますね。


「リトルロック」では、これまで紹介してきた軍艦と同じく、

お泊まりキャンプや結婚披露パーティが行われるのです。

企画ものも多く、例えば「スターウォーズデー」では、昼12時から夕方まで
スター・ウォーズ・キャラクターとのグリーティング、
体験型アクティビティ、工作教室、教育プログラム、
『ローグ・ワン』の上映などで一日楽しめたり、あるいは海軍主催の
リクルートイベント(青少年向け)が行われたりします。



イベントのために、ファンテイルにテントが常設され、
この日はこのあと何か行われるのかテーブルも出ていました。

ところでテントの下に、海軍迷彩の集団がいるぞ?



少年たちをリタイアした下士官らしいおじさんが指導中。
一体この少年たちの正体は?



彼らのいでたちは頭のてっぺんから靴の先まで全くの海軍軍人。
ナンチャッテなどではない、本物です。

よそ見をしているのは誰かのお父さんで、ここにいるだけだと思いますが。



驚いたことに彼らの迷彩にはネームも入っているんですよ。
ちなみに一番左がジャクソンくんであるのは読み取れました。

そして、何人かは「リクルート」と書いたキャップを被っています。

なんとか読み解こうと写真を具に見ていたところ、
一番大きなブルー迷彩の子の右ポケットに、

USNLCC

ジャクソンくんの右側の子のポケットには

USNSCC

と書いてあります。
これでわかりました。

ブルー迷彩の少年たちは、

米国海軍リーグ士官候補生団
United States Naval League Cadet Corps
USNLCC

であり、カーキ迷彩の二人は

米国海軍士官候補生隊
United States Naval Sea Cadet Corps
USNSCC

の、いずれも少年候補生だったのです。
ちなみにブルー迷彩の NLCCはカーキのNSCCのジュニア版で、
前者は11歳から13歳まで、後者には13歳から入団できる決まりです。

上部組織の海軍士官候補生隊から説明します。

■ 
NSCC(海軍士官候補生隊)


米国海軍士官候補生隊(USNSCCまたはNSCC)は、
米国海軍が後援する議会公認の組織です。

海上軍務、米海軍の作戦と訓練、社会奉仕、市民活動に参加し、
規律とチームワークへの理解を目的としています。

NSCCの年齢資格は13~18歳。
1958年、海軍省の要請を受けた米国海軍連盟によって設立されました。

参加者は本物の海軍軍人によるレクチャーや訓練、試験を受け、
一定の条件をクリアすれば、司令官の認証を受けて階級を授けられます。

階級は新兵候補生(写真の『リクルート』の帽子を被った二人)、
Sリクルートから始まり、

【13歳から】

シーマンリクルート(SR) SC-1
シーマン見習い アプレンティス(SA)SC-2
シーマン(SN)SC-3

【14歳から】

3等兵曹(PO3)SC-4
2等兵曹(PO2)SC-5

【15歳から

1等兵曹(PO1) SC-6
曹長(SPO)SC-7

まで昇進することができます。

それでは、SCCCで行われる専門的な訓練をご紹介します。
こんな訓練を少年にさせるとは、さすがはアメリカです。

水陸両用作戦訓練
船舶訓練
沿岸警備隊
FAA地上学校
JAG法務訓練
MAA(海軍憲兵隊に相当)法執行学校
POLA(下士官幹部学校)
シービー(海軍建設大隊)
潜水艦セミナー(基礎および上級)
米海軍シーマンシップ・アカデミー
消火およびダメージコントロール学校
港湾業務
儀仗兵学校
野外医療学校(衛生兵)
サイバーセキュリティ訓練
統合特殊作戦司令部訓練
シールズ訓練
SWCC(特殊戦戦闘乗組員)または "特殊ボート"

EOD(爆発物処理)訓練
AIRR(海軍ヘリ捜索救助スイマー)訓練
高度音楽訓練
陸上ナビゲーション訓練
野外活動訓練
国土安全保障訓練
捜索救助訓練
射撃訓練
遠征戦訓練
海上阻止訓練
国際交流プログラム
フォトジャーナリズム
スキューバ
海軍犯罪捜査局訓練
沿岸河川訓練
現地手配研修
ライフガード
米海軍兵学校夏季セミナー


特殊戦闘とかEODとか、これ本当に10代にやらせるの?

という項目もありますが、そこはそれ、
限りなく本物に近い基礎を学び、雰囲気を知る程度の訓練でしょう。


COVID-19以降は、バーチャル訓練も行われるようになりました。
また、訓練メニューに音楽があるのに気がついた人もいるでしょうか。

USNSCCは三十人編成のマーチングバンドを所有しており、
このバンドは、アメリカ海軍バンド、サンディエゴ海兵隊バンド
第101陸軍予備軍バンド等、全米トップクラスの軍楽隊から訓練を受けます。

自分が海軍に向いているのかを早いうちから知ることもできますね。

また、USNSCCは世界中の他のシー・カデット・プログラムと
国際交流プログラムを実施していて、交流国には、
イギリス、カナダ、オーストラリア、ベルギー、ドイツ、オランダ、
ニュージーランド、韓国、インド、日本、シンガポール、南アフリカ、
スウェーデン、香港、ロシア、バミューダなどがあります。

日本にそんなもんあるのか、と思われます?
多分これのことだと思われます。

公益社団法人日本海洋少年団連盟


■ 海軍リーグ士官候補生隊  NLCC


さて、ジュニア版の士官候補生隊、
このとき「リトルロック」でレクチャーを受けていたグループですが、
11歳から13歳までが参加可能年齢です。

14歳になったとき、NSCCに入隊するわけですが、
もしこの「おためし期間」で俺(私)海軍向いてないわー、
と思ったら、退団すればいいのですから、話が早い。

アメリカという国の軍隊組織を形成するための努力は、
こんなふうに裾野を広く、若い人材を呼び込むことに注がれています。

少年たちが自分は海軍に向いていると思えば、あとは簡単。
そのまま下士官の道へ進むもよし、士官学校入学を狙うもよし。

若いうちからその現場の空気を知ることは組織への理解を深め、
そこで見た専門分野(潜水艦とか航空とか)に憧れを持てば
そのままレールは目標まで比較的わかりやすく連れて行ってくれます。

そして、この組織の上手い?ところは、少年用プログラムと言いながら、
本物と全く同じ制服を着て、階級が与えられ(頑張れば昇進もでき)、
本物の海軍軍人から本物と同じ訓練を受けるという満足度の高さ。

少佐(多分隊司令)から威儀点検中
 むっちゃ怯えてる><

 NLCCの階級は

新兵(LC-1)
見習士官候補生(LC-2)
幹部候補生(LC-3)
3等兵曹(LC-4)
2等兵曹(LC-5)
1等兵曹(LC-6)
上等兵曹(LC-7)


とこれも同じ。

3年間でCPOになれる子は超逸材だ。

さて最後に、 NLCCで体力テストに合格するための指標を書いておきます。

一番軽いと思われる、10歳女子のマトリックスは、

ボード
(うつ伏せに寝て肘を立てて体で三角を作り何秒耐えられるか)

優秀:2分10秒
良好:1分40秒
普通:1分00秒
可:0分45秒

腕立て伏せ

優秀:20
良好:13
普通:9
可:7

1マイル(1600m)走

優秀:9分19秒
良好:11分22秒
普通:13分00秒
可:14分00秒

ちなみに男子候補生の17歳、18歳の部では、
腕立て伏せは優秀53回、最低ライン28回となり、
1マイル走足切りタイムは9分45秒となります。

さて、あなたは今の体力でこの記録をクリアできますか?


続く。