ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「緯度0大作戦」〜護衛艦「いそなみ」の海軍軍人たち

2022-04-23 | 映画

日米合作といいつつ、実質アメリカ側の制作が逃げてしまい、
東宝がアメリカ人俳優を使って作ることになった映画、
「緯度0大作戦」原題”Latitude Zero”。

どうにも「大作戦」という言葉がいただけませんが、
かつて、原題「ミッション・インポシブル」のあのシリーズに
「スパイ大作戦」と名づけていたということからもわかるように、
昭和の時代にはこれがイカしていたのだと考えられます。

どんな原題もダサくしてしまうことに定評のある日本映画宣伝部ですが、
今なら「ラティチュード0」になった可能性も微量子レベルで存在します。



さて、マリクの支配するブラッドロックでは、彼とその情婦が
世界的な遺伝子治療の権威、岡田博士と娘を脅迫しています。



手術でこんな姿に作り替えてやる、という、
若い娘にとっては死ぬより恥ずかしい生体手術だけでなく、
岡田博士を殺して直接脳からデータを取り出されたくなければ、
12時間以内に大人しくデータを渡せというのです。


「電波がこの島から発信されてるわ」

岡田博士は隙を見てメガネの裏側に仕込まれたGPSを発信しました。
当時はSF世界の技術だったことが今日では日常になっています。



岡田親子を囮にアルファ号を誘き寄せようとしていたマリクには
手間が省けたというところです。



岡田博士からの信号を受信したアルファ号は救出に向かうことになり、
地上にその日戻る予定だった3人は、ぶっちゃけノリで
救出作戦に参加する名乗りを上げたのでした。



準備として、彼らは「免役風呂」に入らされます。
効能は放射能だけでなく、たぶん打身捻挫リューマチなどで
ただし効果は24時間しか持続しません。



彼らが肩まで浸かっていると、女性用脱衣所から妖しい音楽と共に、
同行するアン・バートン医師が現れました。



全員が凝視する中、湯船に入ってきます。



彼らはマッケンジー艦長の指示を受けて免疫風呂に入浴。



頭まで3秒浸かるだけでOKです。
奥に海坊主がいますが、アルファ号乗員の甲保ですのでお気になさらず。



入浴を全員が同時に終了し、さて上がる順番ですが、



女性を先に上がらせようとして失敗し、がっかりする3人。

これは本作品唯一の「お色気シーン」となりますが、
日本制作だけあってギリギリ寸止めという最小限の露出で、
観るものの想像力にお任せするという演出となっています。

ここで男女が全裸のまま科学講義を行うシーンも撮影されましたが、
当時の公序良俗の観点から過激すぎるとして削除されたそうです。



湯から上がるといきなり湯の効能テストが始まりました。
なんと撃たれても弾を受け付けないのです。



湯上がり後に支給されたスーツは金とプラチナの合金素材で、
お湯の効能に加え、さらに熱を防ぐのに優れています。



さてこちらブラッドロック研究室。
マリクとルクレティアは、岡田博士親子に見せつけるため、
得意の人体改造手術に取り掛かりました。

「マリク!やめて!」

寝台に縛られて連れてこられたのはブラックモスではないですか。



マリクは部下であったはずの彼女の脳をライオンに埋め込み、
飛べるように禿鷹の翼をつける悪魔の手術を決行するつもりです。


変なケダモノに押さえつけられながら脳の移植手術を見せられ、
岡田博士の娘鶴子は気絶してしまいました。



「地上では最近心臓移植手術がようやくできるようになったらしいが、
わしはこれから人間の脳をライオンに移植してみせる」


ふと気になって調べたところ、札幌医科大学の和田寿郎教授が
日本で一例目となる心臓移植手術を行ったのは1968年、
つまりこの映画の前年だったことがわかりました。

その時ルクレティアがアルファ号の到着をモニターで発見しましたが、
マリクは悠々と手術を行っています。



岡田博士救出には、アン・バートン博士以外の全員が参加します。
マッケンジー艦長は、もし一日で我々が帰ってこなければ
その時は待たずに帰還せよとバートンに命令しました。



それはつまりこれが最後かもしれないという意味です。
最後にアルファ号を出ていくジュール・マッソンを彼女は凝視し、



彼もその視線に答え、



額にキスして別れを告げました。
この人たちいつの間に・・・。



崖の上には全員背中に背負ったジェットパックでひとっ飛び。

島の各部には電磁波が巡らせてあり、身動きできなくなったりしますが、
彼らはその度チームワークで突破していきます。



岡田親子とコウモリ男が見守る中、マリクの手術は終了しました。



黒い蛾の脳と羽を持ったライオン、グリホンの誕生です。



「さあ、マッケンジー博士を探し出してやっつけるんだ」

ちょっと待って?

黒い蛾って、こんな姿にされてきっとマリクを恨んでるよね?
素直に命令に従ったりするかな。

わたしだったら、マリクと、特に自分の憎き天敵、
ルクレティアを真っ先に手にかけると思うけど。



アルファ号ご一行様が、崖崩れなどに遭いながら進んでくると、
彼らを待ち受けていたのは大ネズミの群れでした。

これらもマリクが作ったもので、ブラッドロック島を護衛しています。
大ネズミというだけあって人間を喰い、30秒で骨だけにしてしまいマウス。



指から熱線が放出される武器でも撃退しきれず、
さらに高濃度の酸が満たされた川に脚を漬けた甲保が負傷したので、
彼らは甲を支え、ジェットパックでひとっ飛びしてネズミから逃げました。

ネズミはそのまま沼で溶けてしまいましたとさ。



マリクがいよいよ岡田博士の脳を取り出そうとした時、
間一髪、アルファ号一同が現場に雪崩れ込んで乱闘となります。



彼らを迎え撃つのはやはりマリクの「創造物」コウモリ人間たち。


ルクレティアは麻酔の入った注射器でマッケンジーに襲いかかりますが、
逆に突き飛ばされてしまい、そこにはマリクのナイフが・・・。



マリク、最愛の人を自分の手で殺めてしまったのです。

「ルクレティア、すまなんだ〜〜」



一筋の涙をこぼしながら愛する人の腕の中で死んでいくルクレティアでした。



そしてその身体は見ている間に灰になって崩れてしまいました。
これが海底に住む人間の標準仕様なのでしょうか。



海底で待機させていたアルファ号をバートン博士が浮上させました。



まず岡田博士と鶴子を救出し、アルファ号に送り届けます。

「マッソン博士は?」

つい私情を交えずにいられないドクター・バートン。
直に全員が無事収容されると、ちょっとの隙に彼らは抱き合うのでした。



黒鮫号にかっこいい制服に着替えて乗り込み、指揮を取るマリク。
まず、電磁波でアルファ号を身動きできなくさせます。


黒鮫号全景



マリクはアルファ号をレーザー砲で攻撃する命令を出しました。


ところがびっくり、この出撃前に施された改造で、
アルファ号は空飛ぶ潜水艦になっていたのです。
非常事態なのでテストする時間もなく、これが「初飛行」となりました。



夢中になってレーザー砲の発射桿を握って放さないマリク、
マッケンジー憎しで崖に引き付けられていることに気が付きません。

部下の陳が必死で警告しますが聞く耳持たず。
自分が仕掛けた島の磁界バリアに自らを追い込んでしまいました。



その時、マリクの目に信じられないものが飛び込んできました。
ライオンと禿鷹の体に脳を埋め込まれた黒い娥です。

彼女はやはり自分をこんな身体にしたマリクを恨んでいました。
巨大化された身体で一度もマリクの命令に従わず、
チャンスを見て襲いかかってきたのでした。

レーザー胞を猫パンチして向きを変え、崖を崩落させて
身動きできなくなった黒鮫号と共に自分も自滅させる気です。



逆になぜこんな手術をした相手がまだ自分の命令を聞くと思ったか知りたい。



黒鮫号の爆発はブラッドロック島そのものを消してしまいました。



爆発はいきなり美しい夏のラティチュード・ゼロに変わりました。

そこにはジュール・マッソンとアン・バートン博士、
いつの間にか付き合い出している田代健と岡田博士令嬢鶴子の
二組のカップルが木陰でのお茶を楽しんでいる姿がありました。



彼らの笑顔をカメラにおさめるロートン記者。









マッソンも田代も、岡田親子もここに残り、
伴侶を得てここで暮らすことを選択したのでした。



地上に帰るのはロートン一人です。
ジャーナリストとしてここのことを地上に伝える責任があるからでした。
しかし、彼がマッケンジー艦長に

「あなたはここでの発明は人類福祉のために使うんだと言いましたが、
いつになったらここのことを地上に知らせるんですか」


と尋ねると、マッケンジーは、

「それはわからないが、全人類が平和に共存できる日が必ずくる。
その時まで我々はここで仕事を続けている」


と答えるのでした。







ロートンがどうやって地上に送り届けられたのかは描かれず、
画面にはその頃ピークだった学生運動の映像が流れます。


ベトナム戦争の死者。



飢饉に苦しむビアフラの人々。



激化する反戦運動。



実は弾道ミサイル研究であった宇宙開発。



その時、太平洋に一隻の護衛艦が航行していました。


これは海上自衛隊護衛艦「いそなみ」です。
「あやなみ」型護衛艦で、1958年から就役していた甲型警備艦で、
デッキと艦橋が撮影に使用されました。

映画では、宇宙船回収作業のために航行中という設定です。



初の自衛艦による宇宙船回収作業の補助ということで、
「いそなみ」には取材の新聞記者が乗り込んでいます。

「艦長、宇宙船の着水時間が決まりましたが」

「大気圏突入はちょうど11時ということです」


艦長は階級章が一佐ですが、双眼鏡が二佐(艦長職)となっています。
「いそなみ」は艦長が一佐で間違いないと思うのですが。

それはともかく、この艦長ですよ。
どこかで見たような・・・。

しかし、宝田明の自衛官姿、かっこよくないですかー?

その時です。



「右舷30度、救命ボート発見!」

緯度ゼロからの地上への輸送は、ゴムボートでした。



たまたま居合わせた記者陣はこれ幸いとインタビュー開始。
ところが、ロートンの話が荒唐無稽すぎて誰も信じません。

海底の国に残った二人の科学者のこと、死んだとされる地上の学者は
そこで研究を続けていること・・・。

記者たちはロートンがおかしくなったとして大笑いさえするのでした。



そこに艦長がアメリカ軍の軍人を連れてやってきます。



彼らを見て呆然とするロートン。



「いそなみ」の艦長は田代博士だし、乗り組んでいる米海軍人は
さっき別れたばかりのマッケンジー艦長ではありませんか。

「いそなみ」艦長は、

「私を田代博士と間違えているんです」

と淡々と言いながら、

「ヘイスティング艦長と艦橋にいますから」

と二人を残して去りました。

「宇宙船回収の任務で派遣されたグレン・マッケンジー大佐です」

マッケンジーは自分をマッケンジー大佐だと自己紹介しました。



そこに、「いそなみ」幹部がロートンのカメラのフィルムを
現像して持ってきてくれました。

「これを見れば全て信じるでしょう」

しかし、



「何も写ってませんが」



「待ってください、まだ証拠がある!」

ロートンは財布に詰め込んだダイヤモンドを見せようとしますが、
出てきたのは真っ黒の土塊だけ。

「マッケンジー艦長がくれたんだ」

「ふふっ、うちは代々続いた古い家だが、
人にダイヤをやれるような金持ちはいませんでしたよ」

そして、「ヘイスティング大尉」に看護師を連れてくるように命じます。
しばらく病室でじっとしていていただきたい、というマッケンジーに、
ロートンは思わず、

「皆宇宙開発ばかり夢中になっていて、自分達が住む地球に
実は何があるのかどうして知ろうとしないんですか」


と飛躍したことを言ってしまいます。



そして「ヘイスティング大尉」が看護師を連れてやってきました。



「はっ・・・・・あなたは・・・!」

しかし、ペリー・ロートン、もう逆らう気力もなく、
呆然と看護室に連れて行かれてしまいました。



その頃、艦橋の「いそなみ」艦長は、ニューヨークの某銀行から
電報を受け取り、二人の米軍人に手渡しました。

ヘイスティング大尉がそれを読み上げます。

「”発送人不明の人物より受け取ったダイヤ600ctを
貴殿の帰還まで保管すべく、当行でお預かりしております”」

「ははあ。彼がどうしてこの艦に助けられたかがわかったよ」


金持ち

「いずれにしても彼がこの艦でいちばんの金持ちってことですね。

・・ああ、こちらは司令部からです。
『宇宙船の着水地点はタンゴ(T)エクス(X)面。

直ちに急行せよ』」

「艦長に指示の変更を伝えてくれ」



「経度ヒトナナロク、緯度、ゼロ」

「ゼロ!」






終わり。



最新の画像もっと見る

3 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
サービスシーン (ウェップス)
2022-04-24 19:49:45
ああ、バスクリン風呂のシーン思い出しました。重厚な作品とされている59年東宝「潜水艦イ57降伏せず」でも、便乗した金髪娘のシャワー姿を覗かせてやる、やらないといった場面があって興ざめした記憶があります。この種の作品の主観客たる男性向けにサービスは必要な時代だったのでしょう。

ラストシーンは「いそなみ」だったのですか!見た当時は米艦艇だと思い込んでいたので、最後に舷側に艦名が記載されているのに”日本のフネやないか~”と突っ込んだのが勘違いだったことが40年を経て判明しました。
晩年の練習艦「いそなみ」で実習した最後の世代なもんで、よく揺れて冷暖房なしの本艦は海の厳しさを教え、かつそれに立ち向かう自信を与えてくれた忘れ難い一隻です(^.^)
返信する
いそなみ! (Unknown)
2022-04-23 21:33:06
いそなみ!懐かしいですね。外観は今でもネット検索したら、簡単に出て来ますが、艦橋内なんて、そう簡単には見付かりません。某大や候補生の時の乗艦実習はなみクラスが多く、第一練習隊になった「いそなみ」「しきなみ」には随分お世話になりました。

1,700トンと今のDDの1/3くらいの排水量ですが、乗員数は同じくらい(200人超)で、とにかく窮屈でした。艦内は士官室、CPO室と食堂くらいにしか冷房がなく、当時、第一線のくもクラス(やまぐも型)やつきクラス(たかつき型)は全艦冷房だったので「冷房艦」なみクラスは「暖房艦」と言われていました。

とにかく人が多かったのは、今のような自動化が全くなされてなかったからで、例えば主砲は3インチ連装砲で、弾薬庫で揚弾機(エレベーター)に弾を乗せる人、砲台でその弾を受け取る人、装てんする人と砲塔の操作員、台長と砲台1基につき15人くらいおり、これが3基あるので、これだけで45人。今の護衛艦は5インチ単装砲1門で5人とえらい違いです。

魚雷も対潜魚雷(短魚雷)と対艦魚雷(長魚雷)があり、その他にヘッジホッグ(対潜弾)と爆雷(投射機+投下軌条)と小さい割に重武装で、人手がかかるものばかり乗っていました。

ミサイルはなかったので、海空訓練(空自の戦闘機が護衛艦を攻撃し、護衛艦が迎撃する訓練)では、絶対に戦闘機に勝てることはありませんでした。よくあんな船に学生を乗せたなぁと今になって思います。懐かしいものを見ました。ありがとうございました。
返信する
宝田艦長の立ち位置 (お節介船屋)
2022-04-23 20:16:04
「いそなみ」上甲板右舷ボートダビットの後部での撮影です。宝田艦長の背中に内火艇用ラッフィング型ダビットの後部側が写っています。ダビットは内火艇用のラッフィング型が左右に一組ずつ、カッター用が左舷後部にラジアル型が一組ありました。ともにロープの巻き上げは係船機が使用出来ますが、ほぼ人力で揚降や取り込みを実施しなければならず、過去のボート昇降装置となってしまいました。
右肩の後にある丸い構造物は通風筒の頭部です。
これも現在ではほぼ無い構造物となってしまいました。

宝田艦長の帽子の帽章も鳩が付いた昭和44,45年まで使用されていた古いものですね。

参照海文堂池田勝著「船体各部名称図」
返信する

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。